進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

086 世界観① 時間旅行

 

みなさんこんにちは。

 

メタ的な記事を書きたくなったので・・

 

!!閲覧注意!!
この記事は 生命-I から始まる一連の記事の他、当ブログの過去の記事をご覧いただいていることを想定して書いています。またよくある展開予想のような話ではなく、どうでもいいことをあーでもないこーでもないと書き散らしてるだけですので、読んでもたいして意味が無いかもしれません。完全にメタ的な視点から書いてますので、進撃の世界にどっぷり入り込んでいる方は読まない方が良いかもしれません。閲覧に際してはこれらをご承知の上、自己責任にてご覧いただけますようお願い申し上げます。

 

 

 


この記事は最新話である120話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。注記の無いものは全て120話からのものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


[時間旅行]

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120話の副題は「刹那」でした。刹那とはほんのわずかな一瞬ですよね。


今回はその刹那の描写に感動すら覚えました。

 

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この7ページは全てその一瞬だけをいろんな視点から切り取っています。アニメだったら今まで激しく動いていたものが119話のラストでスローモーションになって、ここは静止画になる感じでしょうか。もちろん目新しい表現というわけでもないのでしょうが、改めて思いました。

そもそも漫画ってのは静止画でしかないわけですが、進撃はいつも動いてるよなって。

まぁそんな私の感想はどうでもいいんですけど、これは「座標」におけるエレンとジークのなんやかんやが、元の世界の時間だと一瞬の間に起こっている感じになりそうですよね。つまり現実世界とは時間の概念が異なる世界。しかもエレンが来るまでの間、ジークは何年も待っていたようだと語っています。

 

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その言葉通り、髪もヒゲも、それから爪もやたらと伸びているようです。ちなみにこの爪、まだはっきりとは分かりませんがジークが拘束具をはずした時に一緒に消え去っているようです。さらにエレンはこの「座標」に来た際に黒の上着が復活しています。そしてジークは現実と同じで上半身裸に黒パンツだったのですが、記憶にダイブした際は上下とも白っぽいマーレの軍服姿に戻っています。しかも、

 

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”わざわざ”上着を羽織る描写付きです。それもごく自然に笑


非常に不思議な世界ですね。しかしこの不思議な世界こそが進撃のキモとでも言うべき設定であることは間違いありません。そしてその設定には、私たちの現実ではいまだ成し得ない時間旅行に説得力を持たせる仕組みが含まれているのでしょう。

 

日本でも古くから浦島太郎のような伝承が語り継がれ、世界の神話にも時間を飛び越えるかのような逸話が散見されるように、人類の時間旅行への興味や夢想は今に始まったことではありません。不可能に思えることであるからこそ、より惹かれるのだと思います。時間は人類が思うようにできない最たるものと言えるのではないでしょうか。

 

 

ところで・・時間ってなんですか?

 


こう問われたら、どう答えるでしょうか。

「何時何分何秒、経過を示す物差しだよ」

こんな感じでしょうか。これはその通りで、時間の一面を端的に言い表した回答だと思います。この場合の時間とは人間によって生み出された単位のこと。24時間とか12カ月などなど、全ては地球の運行を基準にした地球視点の目盛りのようなものです。

 

あるいはこんな答え方もできるでしょう。

「過去から現在、未来へと続く流れのようなもの」

これが時間の持つもう一つの意味で、いまだに謎とされているものです。謎といっても感覚的には誰もがそうなっていると感じているはずです。確かにこの宇宙では物質の変化する方向が一方通行になっているようで、私たちはそれを時の流れと捉えていますが、なぜそれが片方にだけ向かうのかがはっきりしていません。

ここを考えだすと進撃と全く関係ない記事が何本もできてしまうので割愛しますが、おそらくこれは私たちの住むこの世界や宇宙が何なのかという謎に通ずるもので、現在も様々な説が唱えられています。しかし私たちにとって大事なのは、”作者が”どのような世界を進撃で想定しているかということ。あの世界は一体どういう仕組みなのかということです。まだまだ情報が少ないですが、時間に関してはどうも現実とは異なり、エレンとジークの間でも違いがあるようです。その時間を取っ掛かりとして、作者の世界観を探ってみたいと思います。

 

 

 


時間については 010 知性巨人の器 でも少し触れましたが、その捉え方の一つに過去も現在も未来も全て存在しているというものがあります。いやいや未来はまだ無いし、過去はもう無いだろっていうのが普段の感覚とは一致するのですが、そのどれもが現に存在しているという考え方が意外にも支持を集めています。そして私たちには見ることはできませんが、高次元から見れば過去から未来まで全てを俯瞰できるとも言います。

 

これは次元を落としてみると掴みやすいかもしれません。仮に私たちが進撃のアニメの中のエレンだったとします。エレン(私たち)は二次元の存在になります。そのアニメを観ている視聴者は三次元、すなわち私たちより高次元の存在です。視聴者はシークバーを使って過去も未来も好きなように観ることができます。でもエレンはシークバーは使えませんよね。一定の流れに従って人生を経験していくだけです。

そこで視聴者は「この裏切りもんがぁぁぁ」の場面を観ているとします。そこにはライナーたちが巨人であることを知っている”現在のエレン”がいますよね。その後視聴者が訓練兵時代に巻き戻すと、この頃のエレンはライナーが巨人であることを知りません。でもそれも”現在のエレン”です。そしてこのエレンはさっきと別人ではなく、ちゃんと繋がりのある一人のエレンです。つまりどこを切り取ってもそこには当時の記憶や知識を持った”現在のエレン”がいるわけで、訓練兵時代のエレンから見れば裏切りもんがぁの未来のエレンが存在していることになりますし、その未来のエレンから見れば過去のエレンが存在していることになります。

でもいくら視聴者が巻き戻しを繰り返そうが、訓練兵時代のエレンはライナーが巨人であることを知ることはありません。エレンの視点からは未来のことを認識できていないのです。もちろんエレンにしてみれば自分がその瞬間に見ている光景が現在だと思っていて、未来は分からないと思っている、はずですよね。まるで私たちのようです。

感じとしてはあらゆる瞬間に”現在のエレン”が存在しているのです。言葉遊びのようになりますが、そういう意味では過去も未来も無いというのはあながち間違ってないのかもしれません。1年前の自分、3日前の自分、1秒前の自分、現在の自分、そしておそらく1年後の自分も「自分こそが現在の自分だ」って思っているはずです。私たちは連続している”現在の自分”がいる静止画のような光景を、順番に見ているだけなのかもしれないと言います。

アニメの例えだとちょっと粗いので別物のように感じるかもしれませんが、実写の動画を、それもとびきり綺麗な、まるで実際に見ているように感じるほどの高画質動画を思い浮かべてください。

でも動画って、結局は静止画の連続ですよね。

その静止画の連続を、私たちの脳は動いて生きていると認識します。まだ発展途上ですが、VRなんかが遥かに高性能になった時、私たちはそれを小さな世界だと感じるかもしれません。静止画の連続が、世界と認識されるんです。なんか恐いような面白いような感じです。

 


ちょっと話が逸れました。120話に戻りましょう。

 

 

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ここではただ記憶を観ているのかと思っていたら、エレンたちが何らかの干渉をしたようです。

もしも干渉が無ければ、服装などが自在に変化していることも考慮すれば「これはエレンやジークの想像が生みだしたイメージの世界を見ているだけ」という可能性を否定できませんでした。でも彼らは干渉した上に、どちらもそれぞれに驚いています。ということは彼らが意図的に創り出したイメージではありません。であればグリシャの記憶で間違いなさそうだと考えられ、しかも干渉できるということは、その過去が今まさにそこにあるということです。

 

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さらに、その過去のグリシャの視点に立ってみれば、彼は未来のジークを見た(実際に見えたかどうかは別として、少なくともグリシャは知り得ないはずの「髭面おじさん」を認識した)わけですから、未来もそこにあるということになります。

進撃の世界でも、過去と現在と未来が全て存在しているようです。

そして 115話 の時にも触れましたが「道」での時間の感覚が現実と乖離していることから、「道」の世界が高次元であるということも言えそうです。現代物理学の考え方と一致してきます。

 


そこで次に考えたいのが、干渉したこと自体についてです。

 

 

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現時点での事実関係をまとめるならば、

・グリシャは未来のジークの姿を見た。ただし起きてから目で見たのかどうかは曖昧な感じで本人は夢で見たと思っている(or 思い込んでいる)
・ちびエレンには彼らが見えてるかのようだ
・他の人は誰一人として彼らに気付いていない

こんな感じでしょうか。3つ目はまだどうなるか分かりませんが、今のところ気付いた二人はどちらも知性巨人の継承者です。010 知性巨人の器 で書いたように「道」の繋がりが過去から未来まで共通すると考えれば、今回エレンが見たことも、物語の冒頭で巨人継承前に夢で記憶を見ていただろうことも自然に説明ができるかもしれません。

 

イメージとしては彼らが記憶にダイブしたというのは、エレンやジークという記憶(情報)の集まりがグリシャという記憶と繋がりを持った、あるいは強めたということではないかと思います。神経細胞間で電流が流れるようにエレンとジークからグリシャに電流が飛んだとすれば、リンゴから赤を連想することもあれば、赤からリンゴを連想もできるように、グリシャ側からもエレンやジークの情報が見えやすくなったという感じでしょうか。

それと普段は意識が活発なせいで覆い隠されているけど、意識が眠っている時は無意識が見たものを直接感じ取れる、それを私たちは夢と呼んでいる、といった感じなのかなと。

ちびエレンのような小さな子供の場合は、意識がまだ確立しきっていないので無意識が見たものをそのまま感じ取りやすい、だから「道」の繋がりから彼らのイメージを見た。これすなわち「妖精さん」の合理的解釈なんじゃないかなと考えます。もしくは「幽霊や霊魂」でも「神」でも「白昼夢」でもいいのですが、現実にある(と言っている人がいる)ものに重ねてきてるのかなと感じます。ジークが西洋での神のイメージのようになってますしね。まぁ、このへんはもう少し追加の情報を待つ必要がありそうですが。

 

そんなことよりなにより、気になるのは彼らが過去を変えたのかどうかってことですよね。

そこで抑えておきたいことがあります。先述したように時間旅行は人類の夢のようなものですので、これまでも数々のタイムトラベルやタイムリープを扱った物語が生み出されてきました。みなさんも親しみ深いことと思います。それだけあれば当然、現代の科学の知見なども取り入れながら説得力のある設定というのがすでに積み上げられてきています。そんな中でも問題点として有名なのが「親殺しのパラドックス」です。ご存知の方も多いでしょう。

 

たとえばのはなし、エレンとジークが過去のグリシャを変えられるとしましょう。ではエレンたちが、壁に入って間もないグリシャに使命を果たすことを促したり、あるいはそれに向かわせるような記憶(例えばフェイを殺された憎しみを思い出させるものとか)を感じさせたとしたらどうなるのか、と考えてみてください。

もしかしたらカルラとくっつくこともなく始祖の奪還に向かうかもしれません。そうなれば必然的に「エレン・イェーガー」はこの世に産まれないことになります。あるいは他の女性と子供を作ってエレンと名付ける可能性もありますが、それは私たちの知るエレンとは全くの別人です。

じゃあ未来からやってきて過去を変えたエレンはいったい何者なのでしょう。存在しないはずなのに存在している人、という矛盾した状態になってしまいます。これが親殺しのパラドックスです。


でもでも人類のタイムトラベルへの情熱はこの程度の矛盾には負けません。それを解決する考え方が編み出され、物語に導入されてきました。主だったものが次の二つです。

 

パラレルワールドである

エレンたちがグリシャに干渉した時点で、もうそれは別の可能性の世界に分岐しているので、エレンが生まれる世界は並行世界としてそのまま存在しているため矛盾しないというものです。あるいはそもそも別の並行世界の過去や未来にしか跳べない、といった設定がなされることもあります。なるほど上手い回避方法ですよね。

 

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単行本の表紙もそうですが、どうも作者は並行世界の存在を匂わせている感じがありますのであり得るかもしれません。

 

ただしひとつ忘れてはいけないことがあります。この場合、エレンが過去を変えたとしても並行世界の未来が変わるだけということです。つまり、読者が今まで見てきた元の世界が変わることはありません。エレンには自分がいた元の世界を何一つ変えることはできないのです。

 

 

ではもう一つにいってみましょう。

 

②エレンたちが過去に跳んだことも歴史の一部である

これは元の世界でもグリシャはすでに未来のジークを見てたんだよという考え方です。であれば、エレンが存在している時点で、そもそもエレンが生まれなくなるような事態は起こらなかったし、これからも起こらないということであり、矛盾は生じないという考え方です。

要するにエレンとジークが過去に跳んでグリシャに干渉することは既定路線だったということです。最初からそうなるべくしてなった。そうする運命だった。かなりガチガチの決定論的な感じになってきます。でもこれ、過去現在未来が全て存在しているということと親和性が高いんです。しかも実はこれっぽいことを匂わせているような表現も作中にあったりします(17巻68話)

 

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-私は…本当に…自分の意志で動いてるの?

もしも全てが最初から決まっているなら、エレンたちが過去へ跳ぶことも決まっていたとしたら、それは決定論的世界と言えるかもしれません。そして決定論というのは自由意思とは相性がとても悪いのです。


それはさておき、この場合もひとつ忘れてはいけないことがあります。

 

最初からそうなることは決まっていた、つまり、未来は何も変わってないですよね?

一見つじつまを合わせられそうな二つの説、どちらを取っても元の世界は何一つ変えることができないんです。何をどう頑張っても歴史を変えることはできない、というのは物語のテーマとしては虚無感もあって悪くはないと思いますが、進撃は果たしてどうなのか。

 


次回は自由意思を絡めながらそのあたりを考えてみたいと思います。

 

 

つづく

 

 

 

 

本日もご覧いただきありがとうございました。


written: 1st Sep 2019
updated: none