進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

043 巨人化学⑨ 九つの巨人

みなさんこんにちは。

 

今回は九つの巨人についての考察と妄想です。ユミル・フリッツから生じたこれらが一体何なのか、推測と妄想にしかなり得ませんが、一つの仮説を立ててみました。記事中では”知性巨人”としておりますが、作中でいう「九つの巨人」もしくは「知性を持った巨人」のこととお考えください。

 


この記事は進撃の巨人の全編にわたるネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。 

 

 

 

 

 

[九つの巨人]

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進撃世界には以下のような言い伝えがあります(21巻86話)

 

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-今から1820年前 我々の祖先「ユミル・フリッツ」は
-「大地の悪魔」と契約し力を手に入れる それが巨人の力だ
-ユミルは死後も「九つの巨人」に魂を分けエルディア帝国を築いた

九つの巨人はユミル・フリッツ(以下、始祖ユミル)の”魂を分けて”できたものだと言います。魂を分けるとはどういうことでしょうか。1800年も前の伝承ですから、科学がまだまだ発展していなかった時代に起こった何らかの出来事、あるいは自然現象を例え話にした感じかもしれませんね。

 

 


さて、知性巨人についてはある固定観念が広く信じられているように感じます。そしてその固定観念のせいで、こう思っている方が多いみたいです。

 

 進撃の巨人にはまだ明らかになっていないすごい能力がある

 

なぜそう考えられているか想像しますと、漫画、小説、映画などなど世に溢れる物語の多くが、そういう設定を用いて差別化を図っているからでしょう。特に戦闘が絡む物語でそれは顕著で、近接格闘用、遠距離砲撃、一撃必殺の特殊技といった、一芸を持った設定がされていることがほとんどです。四天王とか出てきたら、それぞれが異なる必殺技とか特徴、四種類の属性だったりを持っていないといけない感じがしますよね。

すると、進撃だけ自由を求める”心”しか持ってないのは居心地悪いですから、きっと戦いが有利になる特殊能力か、ループする能力とかがあるんじゃないか、と思ってしまうのは致し方ないと思います。

 


では、各知性巨人の特徴を、作中のマーレ軍内における評価と実際の戦闘から、改めて書き出してみます。

 

始祖  ユミルの民・巨人を操れる
戦鎚  硬質化で様々な武器を作れる、水晶化できる
顎   硬くて強力なアゴと爪を持ち、俊敏な動きで攻撃できる
鎧   全身を硬質化した硬い皮膚を持ち、防御力に優れる
超大型 巨大な身体、筋肉を燃やすことで大爆発を起こせる
女型  高い機動力と持続力、格闘能力に優れる、無垢巨人を引き寄せられる、硬質化・水晶化できる
獣   獣の姿で身体は大き目、投擲能力に優れる、脊髄液を投与した無垢巨人を操れる
車力  四足歩行タイプ、持続力が長い、砲撃から運搬まで多彩な任務に対応可
進撃  自由を求める心を持つ、???

 

いかがでしょう、みなさんのイメージと合ってますか?

これを見ると確かに進撃にはまだ何かありそうです。


ただし、これらは各巨人の個別の特徴とは言えないものが混ざっています。ツッコミを入れてみます。

 

始祖 ユミルの民・巨人を操れる
これはその通りです。

戦鎚 硬質化で様々な武器を作れる、水晶化できる
水晶化はアニもやっていますので、戦鎚の固有能力かと言われると疑問符が付きます。硬質化自体はどの巨人もやっていますが、軟度のある硬質で巨人体まで作っているのは今のところ戦鎚だけなので、そこは特徴としておきましょう。”硬質化で様々なものを作れる”というほうが適切かもしれません。

顎  硬くて強力なアゴと爪を持ち、俊敏な動きで攻撃できる
顎のアゴと爪が別格に硬いのは疑いようがありません。また小柄な身体を生かした俊敏な動きも問題ないでしょう。

鎧  全身を硬質化した硬い皮膚を持ち、防御力に優れる
全身を固い皮膚で覆われていることは間違いありません。

超大型 巨大な身体、筋肉を燃やすことで大爆発を起こせる
巨大な身体を持つのは見ての通りですね。肉体を燃やすのはどうでしょうか。どの巨人も同じように無から生じるように見え、蒸発するのも同じであることを考えると、おそらく肉体を燃やすことも全ての巨人ができるのではと思います。進撃も皮膚が無いとめちゃくちゃ熱いという設定がありましたよね。
普通の巨人サイズでそれを行っても小さな熱量しか生みだせない上に、すぐに筋肉が尽きて体力の無駄になるからやらないだけのような気がします。要は、巨大な身体を活かした”戦い方”ということですよね。

女型  高い機動力と持続力、格闘能力に優れる、無垢巨人を引き寄せられる、硬質化・水晶化できる
格闘能力は完全にアニ個人の能力です。女型の機動力が特別秀でている描写はありません。無垢巨人の引き寄せはジークの例があるので、アニの血筋が特別である可能性も残っています。まだどちらとも言えないので、とりあえず女型の能力としておきます。部分硬質化は他の巨人もできてらっしゃるので除外します。

獣   獣の姿で身体は大き目、投擲能力に優れる、脊髄液を投与した無垢巨人を操れる
投擲能力はジークの能力です。無垢を操れるのはジークの能力です。

車力  四足歩行タイプで持続力が長い、砲撃から運搬まで多彩な任務に対応可
四足歩行などの特徴はその通りです。背中に何も背負わなければ、ただそれだけです。

進撃  自由を求める心を持つ、???
特にありません。


さて、個人の能力やマーレ軍での運用方法をさっぴいて、各巨人の固有の特徴を並べると以下のように変わります。

始祖  ユミルの民・巨人を操れる
戦鎚  硬質化で様々なものを作れる
顎   硬いアゴと爪を持つ、俊敏な動き
鎧   全身に硬質化した皮膚を持つ
超大型 巨大な身体を持つ
女型  女性体型、持続力?、無垢巨人を引き寄せられる(かも)
獣   獣の姿で身体は大き目
車力  四足歩行タイプで持続力が長い
進撃  自由を求める心を持つ

結局、残ったのはほぼ身体的な特徴です。能力と言えるのは始祖とか戦鎚くらいでしょうか。もしこれで進撃にすごい能力とか必殺技があるなら、獣や車力も必殺技を隠し持っているかもしれません。ピークちゃんはそれを使う前に負けてしまったということで。

とまあ、残念ながらそんなもの無いと考えるのが自然ではないでしょうか。普通に考えて、これらは兵器として生み出されていないと思います。それを人間がどうにかこうにか兵器として転用しているだけ、じゃないでしょうか。

 

まわりくどい説明をしといてなんですが、実は作中でもクルーガーがはっきり言っています(22巻89話)

 

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-古来よりエルディアは「無垢の巨人」を安価な破壊兵器として利用した

「兵器として利用した」、つまり元々は兵器じゃないということです。もとから兵器ならば「無垢巨人は安価な破壊兵器だ」となるはずです。「自動車を兵器として利用した」なら意味が通りますが、「戦車を兵器として利用した」とは言いませんよね。

兵器だという固定観念をはずして考えると、身体的な特徴しかない他の知性巨人と比べて、進撃はむしろ特徴がある方ではないでしょうか。そしてそれが答えなんじゃないかと考えています。

 


029 もう一つの不死 で書きました通り、私たちの自我や性格は記憶の集まりとその結びつき方によって形作られています。巨人という物体の記憶が、母を殺された記憶と結びついているから、エレンは巨人を駆逐したいという意志や気持ちを持つのです。犬を好きな人も嫌いな人もいるわけですが、それは犬と結びついているのが良い記憶なのか悪い記憶なのかの違いと言えます。これが人それぞれの考えや行動を生み出す、つまり個性と呼ばれるものの正体だと思います。

 

ユミルの民は「道」というネットワークで結ばれています。進撃を継承したエレンは、グリシャやクルーガー、過去の継承達の記憶を見ることがある、すなわち結びつきを持っています。それを大きな視点から見れば、エレンを含めた継承者たちの記憶は集まって結びついていると言えますから、そこに個性が存在するでしょう。それが「自由を求める」進撃さんの性格を形作っているということになりますよね。

 

さらにもう一段階いきましょう。先にも書きました通り、全てのユミルの民は繋がっているわけですから、進撃の継承者たちも含め、全ユミルの民の記憶が集まって結びつきを持ったものが「道」だと言うことができます。当然、「道」も個性だと言うことができますよね。

 

「道」という大きな個性の中に、九つの個性が含まれているわけです。そのうちの一つ、進撃さんという個性を細かく見たら、その中にはエレンとかグリシャとかが入っています。マトリョーシカ人形な感じです。

ということは、九つの巨人っていうのは大きな一つの個性をまさに九つの個性に割ったようなものになります。

個性を割るとはどういうことか、性格と言い換えたほうが分かりやすいでしょうか。あるいは心とか自我と言っても良いかもしれません。

 

作中にそのヒントが示されています(11巻46話)

 

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ライナーの人格が分裂した状態、これってまさに個性とか心とかが割れているってことですよね。041 ミカサの場合 で解離について書きましたが、解離性同一性障害とはまさに個性が複数に割れることです。心が割れたことを”魂を分けた”と表現することは、とても自然な感じがしませんでしょうか。


解離性同一性障害は、ビリー・ミリガン氏の事件で有名になった症状です。その後も他の患者たちの診療を通して、現れる人格にはある程度パターンがあることが分かってきています。その主なものが以下のような感じらしいです。

・主人格はだいたいおとなしく臆病であることが多い
・主人格と反対の性格の人格
・苦痛を請け負う人格
・粗暴で攻撃的な人格
・自由奔放な人格
・保護者的な人格
・異性の人格
・小さい子供のような人格
・動物の人格
・管理者の人格
(などなど、他にも細かくたくさんありますが割愛)

なんだか繋がりそうな感じがしませんでしょうか。

特に興味深いのが管理者的人格です。症状として、主人格は他の人格に変わった時の記憶を覚えていないので、記憶が抜け落ちてる感覚を覚えるそうです。他の人格は覚えてる者、覚えてない者がいてまちまちです。ところが、だいたい一人だけ全てを把握している人格がいるそうです。それが管理者的人格なのですが、つまり全員の記憶にアクセスできるということですよね。ちなみに統合の際は、だいたいこの管理者あたりがベースになるそうです。

座標を英語で言うとcoordinate(コーディネイト)です。カタカナ語にもなってますから分かりやすいと思いますが”(点と点を)取りまとめる”という意味です。始祖は「道」の中心、すなわち全ての記憶の中心にあるもの、でしたよね。

誤解無きよう書いておきますが、解離性同一性障害とそうでない人の違いは、それを別人格として切り離しているか否かということだけです。その人格たちの性格傾向は誰しもが内面に持っているものだとも言われています。みなさんも自身の二面性のようなものを感じたことがあるのではないでしょうか。性格傾向というのは、各要素の表への出方の強弱でしかないのかもしれませんね。

そう考えると、この物語は始祖ユミルの頭の中で各人格がせめぎ合っている様を描いてるのかもしれません。そして現在は管理者(始祖)に進撃と戦鎚という人格が統合された状態でしょうか。もし九つ全ての人格が統合したなら、本来のユミルの人格が復活するというような感じになのかもしれません。その時に脳内世界が崩壊するのか、平穏な脳内になるのかは分かりませんが。ウーリが言っていた世界の崩壊とは、もしかしたらそれかもしれませんね。巨人が、進撃世界を生み出している脳内を流れていく記憶を俯瞰できる存在だとすれば、その世界の時間を超越できることも、ユミル(104期)がやたらと達観していたことも納得いく説明ができると思います。

まぁそれが始祖ユミルの脳内かミカサの脳内だったとしても、いずれにせよ内面世界での決着は付けられるでしょうから、本編の展開にはあまり関係なさそうですが・・

 

 

 

 


-ただいまさらに妄想中-


この記事は全体的に妄想色が強いですが、ここからはさらにひどいのでそういうものとしてお読みください。

 

解離が起こるということはそれだけの極度なストレス、ショックがあったということになります。そこで始祖ユミルがなぜそうなったのかを想像してみました。

 

まず彼女は、古代マーレ国の支配下にある人だった可能性が高いですよね。ただ、エルディア人という民族がもともといて征服されたのか、それとも後から区別された民族なのかは分かっていませんので、もしかしたら古代マーレ人そのものかもしれません。

さて、古代マーレも例に漏れず、内輪もめだったり他国の侵略なんかをしてたと思います。これはもう進撃で度々描かれているように、人間の性みたいなものです。

経緯は推測しようがありませんが、彼女は巨人の力(正確に言うと”無意識を自在に操る力”かも)を手に入れます。エレンのスプーン拾いや崩落を防いだのを見れば分かる通り、あれは無意識の想いを具現化しているわけです。たぶんユミルは争い合う人々を見て、平和を願ったのではないでしょうか。そしてこんなことを誰かから聞いて、強く信じていたのかもしれません。

 

「人類は共通の敵が現れれば戦いをやめるだろう」

 

彼女の無意識はそれを具現化します。それが巨人です。

彼女は人類の天敵として、人と人の争いを無くすために、虐げられている人々を救うために戦ったのかもしれません。当然、人殺しなんてしたくないでしょうし、天敵として憎まれ恐れられることも悲しいが、”人類のために”天敵を演じ続けたのかもしれません。ところがやがて、虐げられていた人々(エルディア人)が逆に世界を支配することになってしまいます。平和のため人々を救うためと涙を呑んで人を殺してきたのが、気が付いたら兵器として、人を虐げる役に立ってしまったわけです。まぁ、耐えがたいですよね。それで罪悪感や悲しみなどで心が引き裂かれ、解離を起こし、分裂した人格が九つの巨人になったのかもしれません。

 

妄想全開ですみません。今回だけにします。でも、もし少しでもかすってたら褒めてやってください笑

 

 

 

あと、大地の悪魔が何なのかは現時点では全く分かりません。ただ、一つ言えることがあります。

大地の悪魔という呼び方は、現在のマーレを中心とした世界によるものです。当然マーレにはエルディアを貶める感情がありますから、悪意が込められていると考えるべきです。クルーガーが言っていた通り「誰でも神にも悪魔にもなれる」ということは、悪魔の反対は神と言ってよいでしょう。つまり、エルディア帝国の視点から見れば、おそらく「大地の神」と呼ばれてもおかしくないはずです。

大地の神に生物の起源・・なんでしょうね。地球そのもの、大いなる地球全体の意志、そんな感じが浮かんできます。ただ気になるのは王都の地下街のある空洞です。とても人の手によるものには思えません。そこに何かがいた可能性はありそうですよね。よく言われてる悪魔みたいなのがユミル・フリッツで、少女がクリスタって説も、あり得そうだし、面白いなあと思います。

 

 

 

 

ところで記事でミカサの脳内でも、って書いたのは理由がありまして、無理矢理こじつけることもできそうな節があります。というのも以前考察した通りミカサは解離の疑いがある上に、一つどちらともとれる表現があるのです(2巻6話)

 

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これ、この時エレンは死んでました、って話にもできますよね。どちらとも取れるような描き方です。つまりミカサは親を殺されて解離を始めて、エレンが人を殺したのを見てそれも解離して、”彼は私を救うために人を殺した、ので英雄だ”と瞬間的に合理化したら直後にその英雄が殺されてしまって、それ以降は壊れたミカサの脳内で”エレンが死なずに活躍すること”を妄想する感じかもしれません。こんな感じのあらすじを聞いたら、「ミカサ外伝」のストーリーの発想に至るかもしれないな、と。なのでラストシーンが病室とかで虚ろな目をしたミカサだったとしても私は驚きません笑

 

-妄想終了-

 

 

 

駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


written: 30th Sep 2018
updated: none