進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

113 世界観 終幕 謎


みなさんこんにちは。

 

 

よし間に合った。

 

 

 

この記事は当ブログの過去の記事をご覧いただいていることを想定して書いています。最新話のみならず物語の結末までを含む全てに対する考察が含まれていますのでご注意ください。当然ネタバレも全開です。また、完全にメタ的な視点から書いてますので、進撃の世界にどっぷり入り込んでいる方は読まない方が良いかもしれません。閲覧に際してはこれらにご留意の上、くれぐれも自己責任にて読むか読まないかをご選択いただけますようお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。扉絵および注記の無いものは全て23巻93話より引用しております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


[謎]

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謎とか大層なタイトルを付けてますが巨人がどうしたとかアッカーマンがどうだみたいなことは一切出てこない話なので、おそらくほとんどの人にはどうでもいいような話です。たいしたオチがあるわけでもないので、時間の無駄かもしれないので引き返していただいた方が吉かもしれません。

 

 

 

 


さて、さっそく本題に入ります。これはこの1ページ、実質3コマだけに関するお話です。

 

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夕暮れの海に沈みゆく連合艦隊を見つめながら、ウドは誰へともなくこう問いかけます。

 

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-なぁ…
-巨人が戦争で役に立たなくなったら…
-俺達戦士隊は…
-エルディア人はどうなるんだろうな

 

それに応じたのかなんなのか、ゾフィアはこう語ります。

 

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-近所のおじさんが言ってたんだけど
-海の水がしょっぱいのは
-おじさんがよく海におしっこしたからなんだ

 

 

・・さて、なんでしょう?笑

 

いや、笑うしかないほど意味不明なんです。

 

 

で、これを考えるにあたっては「海の水はなぜしょっぱいのか」という昔話(実際には「海の底の石臼」という題名らしいです)の話を避けては通れません。まぁご存知の方が多いだろうとは思いますが、齟齬がないように私の認識してるそれを雑に説明しておきます。


まず主人公としていかにも昔話のテンプレっぽい、人が良くてのんびり屋な青年がいます。その青年のお兄さんが嫌な奴のテンプレな感じで、強欲でズケズケ物を言ってくるタイプです。もし現代風にリメイクするとしたら、ぐうたらな弟とやり手ビジネスマンの兄という感じでしょうか。実は社会に評価されるのは兄の方だと思いますが、それはさておき。

弟者はかっこよく言えば清貧なのでお金がありません。ので普段から兄者にお金を借りたりしていました。そんなある日、弟者はその人の良さが幸いしてなんやかんやあって不思議な石臼を手に入れます。その石臼は回すとなんでも望むものが出てくるという昔話のお約束 夢のアイテムです。

人の好い弟者は豪勢な料理や酒を石臼から取り出して宴会を開きます。急に羽振りが良くなったことを怪訝に思った兄者は弟者から石臼のことを聞きだすと、借金返済の替わりとして石臼を譲り受けます。さすがの損得勘定の早さです。ここは奪い取るパターンもあるようですが、いずれにせよ石臼を手に入れた兄者はさっそく願いを叶えます。

兄者は人目に付かぬよう小舟で沖合いに出ると、そこで石臼を回し始めます。石臼からは願った通りに塩が出て来ました。これで兄者は大富豪になることを確信したので気を良くして帰ろうと思うのですが、石臼はなおも塩を出し続けています。兄者は石臼の止め方を知らなかったんです。

やがて塩の重みで舟は沈んでいき、そして石臼は今もなお海の底で塩を出し続けています。

だから海の水はしょっぱいんだよ。


というお話です。


作中でも幼少のエレンが言ってましたが(1巻4話)

 

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-うっ…嘘つけ!!
-塩なんて宝の山じゃねぇか
-きっと商人がすぐに取り尽くしちまうよ!!

昔は塩が貴重品でしたので、石臼から出てきた塩はそのまま金と読み替えていいでしょう。ですので寓話的な解釈をすれば、

 

富に目がくらんで独占しようと欲張った兄者は、絶大な力の使い方を誤って自ら我が身を滅ぼしたんだよ

 

といった教訓を含んだ話と捉えられます。

 

これはもの凄く進撃の物語とシンクロしていて、巨人の力という圧倒的な力を利己的に使おうとしたマーレは我が身を滅ぼすことになりますし、もちろんかつてのエルディア帝国にもそういった面があったことでしょう。世界の国々も同様でマーレと同じように収容区を作りエルディア人を使って魔女狩りをしてきました。マーレがやってなければおそらくどこか別の国が巨人の力を利用して世界を蹂躙しマーレと同じ道を辿ったなんてのも普通に想像できることです。作中でもフリーダにこんなことを言わせてましたし、(30巻121話)

 

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-巨大な力に対し 人はあまりにも弱い

 

また、アズマビトはその轍を踏みかけたところからの気付きが描かれていました(33巻133話)

 

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-どうして… 失う前に気付けないものでしょうか
-ただ… 損も得もなく 他者を尊ぶ気持ちに…

 

逆に弟者のような使い方をすれば絶大な力は幸を与えてくれるかもしれないというのも描かれてて(21巻86話)

 

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かつてのグリシャはテキトーなことを言ってましたけど、この絵なんかを見るにあながち的外れではなかったのでしょう。それが人類の文明を先に進めるような役に立っていた部分もあったのだと思います。実際に礼拝堂地下の光る石は光源として利用されましたし、氷瀑石もとてつもない可能性を秘めたエネルギー資源だったりしますよね。

あるいは(28巻114話)

 

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-しかしある日を境にエルディア帝国からその病は消滅した

病の根絶という奇跡のような例も示されていました。そしてこの病気に関する話はグリシャが壁内に入った際の流行り病とも重なってきますから、グリシャは「力というものの使い方」をここで気付かされたみたいなのを暗に示しているのだと思います。たぶん病原菌を持ち込んだのはグリシャの可能性が高いのでマッチポンプみたいなところはあるのでしょうが、なんにせよ外の世界では普通でしかなかった医学知識が、壁内では言わば神の力みたいなものだったということになります。それはおそらくグリシャも実感したでしょうし、自身の持つ力というものが、使い方によってはいかに人を幸せにできるものなのかという気付きを得たということだと思います。ちょっとニコロあたりともかぶってくる話ですね。


力というのは使いようによって神の力にも悪魔の力にもなり、使い方によっては幸福を招いたり悲劇を生んだりするというのはまさに進撃の物語で一貫して描かれてきたことだと思います。それが石臼の話にもなぞらえてることは、前述したエレンやフリーダのセリフなんかからもほぼ間違いないだろうと考えます。

 


ただし、

 


件の場面に関しては、少し話が異なってくるように思います。

もともとゾフィアのセリフはウドの「巨人が役に立たなくなったら~」という問い掛けから引き出されたものでした。そしてウドの問いに対する答えは作中で何度か明示されています(29巻116話)

 

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-スラバ要塞で見た通り巨人の力はいずれ通用しなくなる
-つまり私達は用済みとされていずれみんな殺されるの

彼ら戦士候補生たちはこの時点ではそのことを理解してませんが、もし沈みゆく軍艦を見て単に石臼の話を示唆するだけであったなら、ウドに対する解答として「(私たち)エルディア人が力の使い方を間違った結果だろうね」みたいな捉え方ができると思います。それと同時に、マーレや世界の人間が力の使い方を間違っているといった感じにもなり、後に起こる地鳴らしを暗示するかのように受け止めることもできると思います。きれいにはまってきます。

 

ところがゾフィアのセリフはオチを変えているんです。

 

誰でも知ってるような童話のオチとは違うことを言う、つまりやんわりとした否定のようなもので、海の水がしょっぱいのは人の欲が力の使い方を誤らせたから・・というわけでもない、と言っているように思えるんです。

そして彼女が言ったオチは「おじさんがおしっこしたから」というものすごく子供っぽいというか、テキトーな感じです。おしっこが実際にしょっぱいかどうかはともかく、水におしっこを混ぜたらしょっぱそうな感じがするといったくらいの感じでしょうか。

 

つまり、「ままある」とでも言うんでしょうか、そういうものだ、そういうものでしかないといったニュアンス。ウドの質問に対する形で言うなら、投げやりなわけでもなくて「なるようになる、なるようにしかならない」といった感じでしょうか。人間はなんにでも理由や理屈を付けようとするけれども、本当はおしっこをしたら海がしょっぱくなったというくらいシンプルな、「そういうものだ、そういう風になっている」という世界観がそこにあるのではないかと思うんです。


悲劇はなぜ繰り返すのかという問いに対して、作中では答えのひとつとして「人が何かに背中を押されて動いてしまうから」と提示されているように私は感じています。ライナーが壁を破ったのも然り。エレンが彼らを裏切り者と憎んだのも然り。グリシャがマーレを悪者にしたのも然り。マーレや世界がエルディアを悪魔に仕立てたのも然り。それは人間が持つ性質であって、そういうものなのだと。

だからこそ自ら地獄に足を踏み入れる行動、状況を俯瞰し自分だけではなく相手の都合も考え、悩み葛藤した上での意志を伴う行動のみが風穴を開けられるのかもしれない、それだけが世界の流れを、何かを変えることができるのではないかと思うわけです。

そしてそんな行動のみが、「理解することをあきらめない」ということを体現できるのではないかと。

 


・・とはいえ、これらはあくまで私がそう思ったということに過ぎないため、記事にすることでいつかどこかで作者の答え合わせを聞けるようにならないかなという淡い願望を込めた、私利私欲にまみれた記事ができたのでありました(20巻80話)

 

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-俺が今までやってこれたのも…いつかこんな日が来ると思ってたからだ…
-いつか… 「答え合わせ」ができるはずだと

 

あ、これ答え合わせできないフラグだった・・

 

どうかゾフィアの答え合わせお願いします笑

 

 

 

 


進撃の巨人を読み解く 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-恥ずかしいあとがき-

というわけでなんとか完結前に私利私欲も満たせましたので、当ブログはひとまず終了したいと思います。この記事を上げておよそ24時間後くらいには最終回が読めると思うとなんとも言えない感じです。みなさんも存分にご堪能した上で、ぜひ自身が「進撃の巨人」という作品から受け取ったモノについて思いを馳せていただけたらと思います。それはあなただけのものですから、当ブログにも他のサイトやyoutubeなんかにも決して載っていません。正解なんてありませんから、仮に否定的な印象だったとしてもそれもまた良しだと私は思います。自分の感じたものをぜひ大事にしまっといてください。そして覚えていたら5年後、10年後とかに進撃を読み返したりなんかすると、今のあなたが感じていたことがその5年、10年の自分自身を見つける道しるべになると思います。

それと3年ほどブログをやって気付いたことで、最初の頃はアクセスが増えていったりするのを面白がって見ていたのですが、最終的には何千何万のアクセスという数字よりもひとつひとつのコメントの方がモチベに繋がりました。それが仮に否定的なものであったとしてもそうでした。今までコメントをくださったみなさん、ツイートなどをしてくださったみなさん、ありがとうございました。みなさんの「行動」は確かに伝わっていたと思います。

こんなブログごときをちゃんとしたものと同列に考えるわけでもないのですが、たぶんそういうものなんじゃないかなとも思います。自分の好きなものに対する「行動」って、意外と大事かもなと。


というわけで、今まで「私が進撃から受け取ったモノ」を3年間に渡って恥ずかしげもなく書いてまいりましたが、お付き合いいただきましたみなさん、ありがとうございました。


そしてなにより、たくさんの気付きや考える機会をくださった「進撃の巨人」という作品と、それを生み出してくださった諌山創先生に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

また諌山先生を支え「進撃の巨人」を世界に届けてくださったバックさんを始めとする制作及び出版関係のみなさまも、本当にありがとうございました。

諌山創先生が今後どのような道をお選びになるのかは分かりませんが、どんな選択であっても陰ながら応援させていただきます。

 

諌山創先生とご家族様のご健康とご多幸をお祈りしております。

 

ありがとうございました、そしてお疲れ様でした。

 

 

 

 

written: 7th Apr 2021
updated: none