044 最新話からの考察 110話① ムーブメント
みなさんこんにちは。
今回は静から動へ、物語が一気に動き出しました。数々の仕掛けが施されていますが、具体的な根拠がまだまだ乏しいため先の展開を予測するのは困難です。そこで今回は情報の整理のような感じにしました。
この記事は最新話である110話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。
※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。注記の無いものは全て110話からのものです。
[ムーブメント]
各人の様々な思惑が絡み合い、非常につかみづらい展開になっています。ただ、今回のお話を読んで改めて思ったのは、この作品はやはり白と黒では語れ無さそうだということです。ジークやイェレナでさえも。
まずは事実関係を少しだけ。
・巨人化ガス
ラガコ村の巨人化はガス兵器によるものでした。特殊部隊の兵士を随伴していたということで、ジークがやらざるを得なかった理由付けがされています。目的としてはジークの脊髄液が壁内人類にもちゃんと機能するかのテスト、といったところなんでしょうか。
・道
道の設定は今のところだいたい想定通りのようです。獣の小ネットワークをジークは操れ、その獣ネットワークを含んだ全ては始祖を中心にした大ネットワークに繋がっているでしょうから、王家が始祖を持つとその全てを操れる、というイメージでしょうか。
・フード
エレンにフード付のコートを着せてきました。流れを考慮するとやっぱりエレンなんでしょうか? イェレナもフード付に見える上に色はこちらが合致していますから、本当にイェレナだったという可能性も捨てきれません。
・今月の戦士隊
ピークちゃんが既に潜伏済みです。どこかの島とは異なり、行動・決定の迅速なマーレ、これこそが世界との差かもしれませんね。
潜入は小舟で接岸したんでしょうか。もう一つ考えられる潜入方法として、アズマビトが噛んでたりとかしたら恐ろしいのですが、妄想の域を出ません。ポルコやライナーも潜伏しているのでしょうか。
パラディ内部で対立構造が生まれつつある今、利害関係などが一致すれば一方との共闘体制に繋がる可能性もありそうです。それはマーレ国としてというより戦士隊としての動きになるかもしれません。ところで、ピークちゃんも何かを偽っている可能性がまだありそうですね。
・今月のガビファルコ
今回は休載です。次はレストラン編でしょうか。ところで、今回でニコロのシーンの意味合いがはっきりしたように思います(27巻108話)
ローグもナイルも何事もなく健在でしたので、あのシーンは情報源を明示していると捉えるのが自然ではないでしょうか。提議のことや、サシャが女の子に殺されたことを立ち聞きしていたということでしょう。ニコロが義勇兵と繋がっているなら、兵団の情報は筒抜けだったということになります。少なくとも、フードの人が存在するのであれば、その情報源はココになるのではないでしょうか。
・暗殺
憲兵は芸術椅子と推測していますが、どうもこの3人が怪しいような感じがします。
理由として、時限爆弾の類が今まで作中に登場していないことが一つあります。信管は存在してますのでタイマーがあれば可能ではあるようですが。
グロいので載せませんが、ザックレーの遺体は下半身全ての他、右腕と顔の前面を欠損しています。ところが、背中から真正面に吹き飛ばされてきていました。椅子の位置は窓の右側(外から見ると左側)の柱のあたりです。
つまり、部屋の内側を向いていたと思われるのに、椅子と反対側の腕が飛んでいることになります。まぁ、大きな爆発でしたので単純にそちら側だけ欠損というわけでもないのかもしれませんが、吹き飛び方も窓の中央から建物に垂直に飛んでいますし、爆風も中央から発生しているように見えます。
あるかどうか怪しい時限爆弾というよりは、兵士による自爆テロ的な手法のほうが簡単、確実でしっくりくる感じはします。ミカサたちを気にしていた感じも、そういうことかもしれません。
そうだとすれば、憲兵団の制服を着た彼ら3人が、”心臓を捧げた”ということになります。フロックもそれらしいことを言っていますが、憲兵や駐屯兵にも同様の思想を持っている者がいるであろうことが推測できます。また、このことによって調査兵団の立場が厳しいものとなる可能性はありますね。調査兵団の新兵たちも連動していたのか、調査兵団を貶めようと意図したものかは分かりませんが。
・力と和解
今回のお話で最初にひっかかりを覚えたのはこちらのセリフでした。
-…最初は互いに疑心暗鬼になり 上手くまとまらなかった…
見覚え、ありますよね?(26巻106話)
-そりゃ最初はお互い疑心暗鬼でまったく上手くいかなかったよ
そして、このアルミンのセリフが出てきた背景はこのような感じでした(26巻106話)
-俺達は皆 求められたから存在する
おそらくアルミンはオニャンコポンの思想に影響を受けた、先月の表現を借りるなら”導かれた”と考えることができます。その疑心暗鬼を解消したシーンにも、しっかりとオニャンコが描かれていますね(26巻106話)
ではそのオニャンコの思想はどうやって生まれたかを考えると、面白いことにある関係とよく似ています
オニャンコはイェレナの思想に導かれ義勇兵になりましたが、やがて目的のために身近な人間が殺されていくのを目の当りにしたと言います。そしてそれを彼はこう表現しました。
-俺達もそれがマーレに奪われた祖国のためだと信じることで乗り切ったんです
彼は自分を騙していくしかなかった、つまり本心では疑念を抱いている部分があった、ということですよね。前回の導かれた者を考慮すれば、彼は無意識的にイェレナに反感を覚えていてもおかしくないはずです。”力”を用いて事を進めるイェレナに反発して、その対極と言えるような和解、平和的な思想を育てていたのかもしれません(26巻106話)
そのオニャンコの発言を・・(26巻106話)
イェレナはこんな眼差しで見ていました。同じようなやり取りがエレンとアルミンの間に描かれていたことはもう書くまでもないでしょう。イェレナ、エレンという”力”の思想を持った人々と、オニャンコ、アルミンという”和解”の思想を持った人々が対照的に描かれているわけです。
その和解の思想側に見えるのは104期を中心とした調査兵団と、それに連動するピクシスあたりでしょうか。今回の冒頭はその和解と力のやり取りが3つ並べられているのかもしれません。
・ジーク x リヴァイ
リヴァイが同じことを聞いていること、彼の挑発するような物言いと相まって、相手の本音を引き出す術のように感じます。おそらくご近所付き合いによって培ってきた処世術なんじゃないでしょうか。人間は熱くなるほうが本音をこぼしやすいですよね。上から説教でもするかのように同じことを聞かれ続けたら、苛ついて感情的になるかもしれません。
-勝手に人の気持ちをわかった気になるなよ
ジークの言葉はいつも正面からやり合うような感じで、上辺だけで話を合わせたりしているようには見えません。そして、飛行船の中から繰り返されてきたやり合いによって、”信じられるかもしれない”、”信じたい”といった感じがリヴァイの中で芽生えてきているような雰囲気があります。リヴァイがモテない話で言い淀んでる感じなのも、そもそも自分がわかったような口をあえてきいてる自覚があって、それを言われたら自分が言いそうな返事をされたから、ということかもしれません。最後に同意をする際の、険がとれたような表情が印象的ですね。
・イェレナ x ピクシス
ピクシスも老練なだけあって、リヴァイのような感じで畳みかけています。
-エレンの誘導に成功しジークが望んだ通りの結果を得たわけじゃな?
ピクシスの質問は全て、”イェレナが悪だくみをしている”ことを前提とした想像です。それを決めつけるような言い方で投げかけながら、相手の反応を窺っているように見えます。リヴァイのやり方と同じ感じですよね。
感情が露になった際にイェレナが言ったことは本音である可能性が高いのではと思います。つまりイェレナは「ただエレンに私を知ってほしかっただけ」だったのかもしれません。
イェレナの言葉に嘘は無さそうに見えます。ピクシスもそう感じ、それを「信じたい」と思ったわけですよね。だからこそ、
-上手い嘘のつき方を知っとるか?
-時折り事実を交ぜて喋ることじゃ
副題とメタ的なことを考えてしまうと意味深に感じますし、裏の意味が浮かび上がってくる可能性は否定しません。ただ、少なくともあの場でピクシスが言った意味は、会話の流れからすればこう受け取るのが自然だと思います。
”上手く嘘をつきなさい”
つまり、自分たちは面と向かって直接会話をしているからあなたの言葉を信じることができます。でも調書の文面だけ読む人間にはその機微が理解できないから、嘘に事実を混ぜながら罪にならない上手な供述をしなさい、それを書き留めて提出しますよ、ということではないでしょうか。ピクシスはイェレナを”信じたい”わけです。
・オニャンコポン x ハンジ
先述した通り、オニャンコは”力”の側の思想ではなさそうですが、現時点でハンジからはその疑いがあるように見える、ということになると思います。
さて、このシーンですが、まず時系列を考えておくべきだと思います。前回からの描き方の流れを見れば、この会話は、イェレナとピクシスの会話とほぼ並列で行われている可能性が高いように思います。その意味するところは、”ハンジはイェレナが供述したことをまだ知らない”ということです。つまり、カマをかけている可能性が高いです。サネスの拷問の際にも、ラルフが供述したと思わせて口を割らせることに成功しました。おそらく同じ手口です。
ところで少し話が逸れますが、”力”の二人と比べてオニャンコはここで感情を露にすることはありませんでした。本音が見えにくい感じがあります。
-俺達は彼女なりのマーレ人への贖罪意識の表れだと理解しました
そこで彼が語ったことは、イェレナのマーレ人保護を分かったつもりにした、ということです。自分で「底知れない」と言っていますが、要するに本人に聞くこと無しに想像で解釈したということですね。つまり彼は、相手を分かった”つもり”の和解思想ということになるかもしれません。誰かと重なってきますね。
ついでに言えば、かつて”力”で制することに努めていたイェレナが和解路線に舵を切っていることは、エレンが”分かり合い”を取り入れた事とも重なります。しかもイェレナもエレンも、それをとことん実践しているわけです。定かではありませんが、オニャンコが人命の尊重を主張したことがあるのかもしれません。もちろんイェレナにはスパイにする目的があった可能性もまだ残っていますが。
もう一つ、オニャンコとアルミンの共通点として、何かを主張する時に「俺達/僕達」、 I ではなく We、を使うことが多いように感じます。私はこう思います、ではなく、客観的にこうなんですって感じと言いますか。もちろん全員の意見をあらかじめ聞いたわけではないでしょう。思考の癖として、客観的に考えたからみんなもそう思ってるはず、って周囲の意見を想像している感じかもしれません。また、自分だけが思ってるわけじゃないという、意見を補強したい心理も見え隠れするように思います。それゆえ個人の本音が見えづらくもなってますね。
同じ和解思想であっても、先ほどの3人とは少し異なる感じに見えます。むしろ、エレンがライナーやアルミンの話を聞いて理解を示していたことと、3人が相手の話を聞いて信じようとしていることは、力と和解が相容れないわけではないことを示唆しているようにも思えるわけですが、その点においてこの2人は異彩を放っていると言えるかもしれません。
話を戻しまして、オニャンコの発言をハンジがどう受け止めているかは現時点では分かりませんが、彼女も”信じたい”様子に見えます。
リヴァイ、ピクシス、ハンジの3人は、相手の本音(かどうかは定かではないでしょうが)を聞いた上でそれを”信じたい”としているように見えます。それは相互理解への第一歩かもしれません。エレンがジークのところへ辿り着けるのか分かりませんが、リヴァイとジークがこのまま理解を深めていくようであれば、エレンとリヴァイが対話をするチャンスが芽生えてくるかもしれません。
・アルミン
アニのシーンの狙いはまだよくわかりません。あえて可能性を列挙してみるならば、ベルトルさんの記憶が影響している可能性もありますし、物を言わず時が止まった都合の良い存在として逃避先の可能性もあります。何も言わず話を聞いてくれる彼女に次第に感情移入して恋心のようになってきたという解釈もできるでしょう。淡い恋心によってアルミンが”他者を知りたい”という感情が増していけば、ポジティブな成長に繋がる可能性もありますね。
ところで・・
-確実にエレンから真意を聞き出せるとは申しませんが…
-試して損はしないはずです!
ミカサも言っていますが、アルミンの提案は本当にその通りだと思います。兵団としてやってみて損は無いでしょう。断る理由の推測もまさにその通りです。ザックレーは言っていました。
-…おそらく
-エレンはジークに操られていると…我々は見ている
話を聞けてないわけですから、根拠も何もない想像でしかありません。では総統ともあろう人が想像を口にするのはなぜかと考えれば、そう考えるのが都合が良いから、ということに他ならないように思います。”あれは私たちの知っているエレンじゃない”というのは、自分たちの障害になっているものを排除するためには、とてもいい理由です。操られてどうにもできないから殺すしかなかった、仕方なかった、というのは罪悪感を和らげるのにも適した理屈です。
そういう意味では、ザックレーも偽り者ということになるのでしょう。いや、誰しもが自分の心を偽っているということかもしれません。
話を戻します。
アルミンはその意図するものを推し量って困惑しています。つい先日、自分が可能性を説いたことと全く同じことなのに、です(27巻108話)
-信頼できる他の誰かを巨人にして
-エレンの「始祖」を継承させる選択だ
やはりアルミンは実際にエレンがいなくなったら困るということでしょう。承認が得られなくなってしまいますし。つまりあの時の”意見が異なるなら殺すかも”という発言は、すなわち”エレンは僕たちと同じ意見であるべきだ(≒僕たちに従うべきだ)”という意味だったということで良さそうです。
しかしながらこのエレンを失いたくない感情が良い方向に転べば、アルミンはエレンを守るために動くことになるかもしれません。
そして今回のアルミンは、何もできないまま流れに翻弄されている感じがかなり強いですが、どうもシガンシナ戦あたりを思い出させます。そろそろ窮余の一策を思いつき、何かを捨てて何かを成し遂げるのかもしれません。それがどっち向きになるかは分かりませんが。
・いつはりもの
現在の進撃は群像劇としてみないとワケが分からなくなりそうです。そしておそらく作者はそれを描きたいのではないのかと感じたりもします。というのも、今回起こってるパラディ島の内紛は敵と味方といった括りで起こっているわけではありませんよね。
-ダリス・ザックレーを爆弾で吹き飛ばした者もいる
このフロックのセリフからは、ザックレーの暗殺はエレンが指示したわけではないことが分かります。同様にフロックが指示したわけでもないようです。つまり、その人々は自らの意志で”心臓を捧げた”と考えられます。民衆や記者たちも、徒党だって動いているわけではないでしょう。彼らも勝手に行動しているわけです。その原因となるものを作者は既に示しています。
109話で描かれていたのは、人々は勝手に導かれ、勝手に裏切られた感情を持ち、勝手に敵対感情を育てていくことでした。さらに、導かれた大元の思想は、例えば”エルディアを救う”といった同じものだとしても、そこに各個人の考えが合わさってくることによってアウトプットされる行動は異なってくるわけです。ある者は敵を打倒することを、ある者はそれを邪魔する者を排除し、ある者は敵と和解することを模索します。すると目的は同じでもそこに手段の相違が生まれ、それがまた争いを生み出していくということでしょう。
だから世界から争いが途絶えることがない、それこそ争う相手がいなくなる最後の一人になるまで、という人間の本質の悲しい現実が、一貫して横たわっているように感じます。
今回読んでて、もう一つひっかかりを覚えたのが「偽り者」という副題でした。
古語っぽい表現でもありますね。現代語の感覚であれば”偽る者”の方が一般的な表現でしょう。でも作者はあえてこれを副題に選んだわけです。
偽り者と偽る者、どちらも”嘘をつく人”くらいの意味です。違いが分かりにくいですが、偽りと偽る、あるいは否定形にして”偽りなき者”と”偽らない者”としてみると、ニュアンスが見えてくる感じがします。
偽りなき者・・嘘偽りのない人、という感じでしょうか。
偽らない者・・嘘をつかない人、という感じだと思います。
”偽る/偽らない”、こちらは能動的な感じになりますね。嘘をつこうとして嘘をつく、という感じです。対して”偽り/偽りなき”の場合は、嘘があるかどうかということを言っている感じで、能動的な場合も受動的な場合も含んでいます。
ザックレーは決してミカサとアルミンを騙そうと思って”エレンが操られている”と言ったわけではないと思います。ただそう考えればいろいろと都合が良い、というだけです。それが結果的にミカサやアルミン、あるいはザックレー本人の心を騙す嘘のようになっている、という感じではないでしょうか。
前回の「導く者」も、意図して誰かを導いたわけではありませんでした。結果としてそうなっただけです。つまり誰もが導く者になり得るし、偽り者になり得るということだと思います。その意図しないものが積み重なり、絡み合うことによって現在のようなムーブメントが巻き起こるのかもしれません。
そう考えると、イェレナもただ本当に兵団の動きの遅さに焦っていただけかもしれません。それがエレンとフロックを導いてしまい、さらに他の人々に伝播していくうちに過激なムーブメントとなってしまった、それを外から見ると”煽動した”ように見える、というだけのことなのかもしれません。
本日もご覧いただき、ありがとうございました。
-愚痴-
進撃で一番重要なシーンがアニメでカットされてしまいました(17巻70話)
この4人の”残念な顔”が珠玉だと思っていたのですが。というかジャンが言ったことにオチがついてないじゃないですか・・
-愚痴おわり-
written: 10th Oct 2018
updated: none