059 最新話からの考察 112話② 立ち位置が変われば
みなさんこんにちは。
ちょっと閑話休題な感じになってしまうのですが、112話を読み返してて面白いことに気付いたのでひとつ書いておきたいと思います。
この記事は最新話である112話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。
※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。注記の無いものは全て112話からのものです。
[立ち位置が変われば]
エレンやジークの思惑が気になる最近の展開ですが、その最終目的はどうであれ意外とシンプルなんだろうなと想像しています。ひとつ私が反省しないといけないのは、結局バイアスの虜になってしまっていたことです。誤解や行き違いの描写が繰り返しされていたため、誤解のみの積み重ねで悲劇的な方向へいくのだろうと思い込んでしまっていました。そのためジークも一切悪いことはしないだろうと思いたかったわけですね。考えてみれば 031 秘策 や 051 目的フロー で書いたような伏線は全然気付かれていなかったわけです。そのさらに裏を読みにいっていたのは深読みが過ぎるというものでした。
誤解の積み重ねに関しては今も同様に思っていますが、シガンシナ戦やレベリオの襲撃などを見ても分かる通り、ジークやエレンは目的を果たすために避け得ない犠牲については許容をしているのは明白であり、邪魔になるものを排除することには何の不思議もありません。
じゃあジークはやっぱり悪者だったのか、というとちょっと違うようには思います。むろんジークには隠している目的があり、それが正義か悪かということに関してはいずれ議論が起こることでしょう。また、ジークとエレンが悪であるという方向に物語が向かっていることは誰の目にも明らかですが、兵団から見て悪なものがエルディア人全体にとって悪かと言うとそうではない可能性もあるわけです。兵団vsエレンという構図はもはや避けられないでしょうが、そこに至る過程をよくよく考えてみると人間の意思決定のプロセスの面白さ、しょーもなさがよく出ているのではないかと思ったりします。
もともと戦士隊の侵攻があるまでの壁内は平和でした。100年もの間、何もしなくても壁が守ってくれていたわけですから、何の心配や準備をする必要もありませんでした。憲兵団の腐敗、駐屯兵団の弛み、それも眼前に脅威が無かったのですから致し方のないことかもしれません。それでも上手く回っていたんです。
そんな中にあって、調査兵団は壁の外へ出ることで巨人の解明と対策を志していました。それは、脅威になり得るかもしれない巨人に対し、未然にそれを防ぐ行動だと解釈すれば、言わば攻めの姿勢だっと言えるのではないかと思います。
当時それは他の兵団や民衆と反発し合う考え方でした。ナイルが良い例だと思いますが彼は決して無能なわけではなく、攻める必要がなかったからそのシステムに甘んじていただけで、必要性を感じれば動くのです。エルヴィンが何をどう言ったところで、実際にナイルが考えを改めたのは眼前に危機が迫ってからでしかありませんでした。目の前のストヘス区が女型の襲撃を受けたことで憲兵を前線に送るようになり、家族が脅威に晒されたことで初めて王政に否を突き付けたわけです。当時の調査兵団から憲兵団を見れば、同じ危機を共有する人類であるはずなのに足を引っ張るもどかしい存在に見えていたでしょうが、憲兵には憲兵の立ち位置から見える「今すべきこと」があったと言えると思います。それは問題の無かった状態をいかに維持するか、言ってみれば守りに入っていたということだと思うんです。
やがて調査兵団の攻めの姿勢に染まっていった壁内は、見事に島の巨人を駆逐します。しかしそれによって眼前の脅威が無くなった兵団は、同時に攻める意義を再び失ってしまったんだと思います。当然、守りに入るわけです。
ここで話は今回の巨大樹の森に飛びます。
リヴァイは仲間への想いを顧みながら、エレンを食わすくらいならジークをと考えるわけですが、これに対する連絡係との応答が大変興味深いです。
-その数か月の間に敵の総攻撃をくらえば
-エルディアはおしまいですよ!!
これが兵団の総意だとは言いませんが、ある程度の共通認識だと捉えて良いのではないかと思います。つまり彼らはこう思っているってことですよね。
地鳴らしが無ければパラディはおしまいだ
それに対してリヴァイはこう言っています。
-こちらから再びマーレに仕掛けて
-敵の攻撃を遅らせることもできる
-無茶は承知だが ここが勝負所だ
マーレに打撃を与えれば時間を稼げる、無茶だけど
え?
(27巻108話)
それって、まさにエレンがやったことそのものですよね。
そこでエレン本人はといえば・・(26巻105話、27巻107話)
-これで時間は稼げたはずです
-他のやり方があったら!!
-教えてくださいよ‼
はっきりと明言しています。時間を稼ぐためだったと、他に方法がありますかと。エレンはこうも言っています(27巻107話)
-始祖を持つオレを殺すこともできない
(中略)
-ジークを殺すわけにもいかない
つまり、地鳴らしをやるしかないって分かってますよねってことです。その実、ピクシスやハンジの発言を見れば地鳴らし頼りの姿勢は変わっていません。兵団側には他に何の具体的な対案もビジョンも無いのは既に明らかになってます。ハンジはいろんな人にこう言っています(28巻111話、28巻112話)
-仲間内での争いは自滅でしかない
-私達は仲間同士で争い合っている場合じゃない!!
本当に、仲間同士争ってる場合じゃないと思います(27巻109話)
-その「地鳴らし」が期待通りに機能して
-我々を救う保証は何も無いんだよ…
本当にその通り。だからこそ1分1秒でも早く試して、問題があるなら克服するなりしないといけないはずです。なぜなら他に方法がないからです(3巻13話)
-他にどうやったら この状況を打開できるのか!!
-ああ…そんな方法知ってたら こんなことになってない
-だから…俺達が今やるべきことはこれしかないんだ
-あのよく分からない人間兵器とやらのために
-命を投げ打って 健気に尽くすことだ
-報われる保証の無い物のために…
-虫ケラのように死んでいくだろう
今のエレンは、かつての調査兵団の立ち位置である攻めの姿勢を一人で請け負ってる感じのように思います。兵団から見たかつてのエレン巨人のように、保証が無くても根拠が不確かでもそれに賭けるしかない感じをジークと地鳴らしに見出しているのかもしれません。
私たち読者はかつて調査兵団と共に巨人や王政と戦っていました。憲兵団は何かと邪魔をしてくる嫌な奴らに感じた方も多かったことでしょう。では今のエレンの視点に立ってみれば、現状の兵団はどのように映るのでしょう。かつての憲兵団のよう、かもしれません。
ご存知の通り、エレンは自己中に見えても他人に言われたことや起こった出来事をスポンジのように吸収して考え方を刷新していく人です。おそらくこれが作者に物語の奴隷と言わしめるゆえんなんでしょうが、そんなエレンがかつて王政編で得た経験は、彼にどんな行動をさせるのでしょう。
それでもエレンは上記の発言をしてから「いつでも出られる」にも関わらず、約1カ月ほど何もせずにいました。待っていたのかもしれません。ジークも今の今まで待っていたのかもしれません。時間が無いんだよとアドバイスまでしています。彼らが行動を起こしたのは、ハンジが言っていた通り兵団がエレンの器替えを決めたから、そしてリヴァイがジークの器替えを決めたからです(ジークはあの会話を聞けていると予想していますので)。
ハンジはあれだけイェーガー派の心情を的確に推理しながらも、相変わらずジークを疑うことから抜け出せていません。なんとかして現状を維持する、変化をしないですむ理由を見つけたくてしょうがないのかもしれません。前述の通りエレンは必要なことは明言していて、それは兵団も同意せざるを得ないものだったわけです。やるべきことは一つ、地鳴らしを試すしかない、ピクシスもハンジもそれは分かっているんです。それでもエレンが分からないとか密会したとか言ってるのは、前に進むことへの抵抗からの言い訳なのかもしれません。もちろん深層心理的なものですよ。例えば仮に、誰か言うことを聞く人に始祖を移したところでなにも状況は変わりませんし、そんなの彼らなら予想はできるはずですから。
いいですね、この感じ。人間ってほんと眼前に危機が迫らないとなかなか動きません。みんなが一丸となって理想的なムーブをする、なんていう物語の方がよほどご都合主義に感じます。脅威を身に染みて感じていない人にいくら言葉で脅威を訴えても無駄なんです。そういう意味では、唯一エレンに近い視点を持てるのはアルミンでした。記憶を観るなり影響を受けるなりで危機感を感じやすいはずだからです。1カ月待っている間も、多少なりともアルミンに期待する部分があったんじゃないかと思います。彼がしていたのはアニ詣でくらいでしたが。
-クソの役にも立っちゃいねえ
その上、自分の自由まで否定してきたわけですから、こう言いたくなるのも当然かもしれません。今までがどうだったかは定かではありませんが、今回の会話でエレンのジークへの信用度は上がったと思います。だって最後に期待して話しかけた二人が的外れなことを言ってしまいましたし、ジークの言っていたことが上手く当てはまってしまったわけですから。アルミンの最後の一言が何かのきっかけになればという期待は少しだけありますが。
先ほど述べた通り私たち読者は調査兵団と共に戦ってきましたから、調査兵団は別だと考えたくなるとは思いますが、ハンジが今やっていることはかつての中央憲兵となんら変わることはありません。異なるのはむやみに人を殺さないことくらい。サネスは先見の明を持ったなかなかの人物でした。
もちろん、エレンのやっていることが全て”正解”だと言っているわけではありません。ジークの目的はおそらくパラディ島にとって良い面と悪い面の両方を含んでいるでしょう。でも現状を打破するのに他に選択肢がないわけです(3巻13話)
-そんなの…納得できない
-作戦には従うよ…
-あなたの言ってることは正しいと思う…
悲しい哉、エレンにはイアンのように人を動かせる言語力も、リコのようにしぶしぶながらも理解して付いてきてくれる人もありませんでした。いや、その可能性はあったのかもしれません。おそらくそれは、アルミンとオニャンコの小さな反発感情により潰れてしまったんだろうなと推測しています。もはやエレンが悪になる展開は避け得ないでしょうが、願わくば最後までに少しでもほっこりする展開があらんことを祈ります。
こうして見ると一つ言えるのは、エレンは何も変わっていないなぁと。
そして、変わったのはエレンではなくて、調査兵団の立ち位置なんじゃないかなということです。
やはりギャンブラーも世の中には必要だったんですね。ってなんか違うか・・(14巻55話、16巻63話)
あるいは、やはりピクシスの判断が正しいのでしょうか。
-駄文-
視点みたいなことを考えていたら、ほんとくだらない暴論ちょっとした理論を思いついてしまったので、書こうかどうか迷っているのですが・・いや、世に問おう。
いじめられっ子で弱虫で貧弱な少年が他の人にはない才能を一つ持っていて、やがてそれが認められて組織の中で頭角を現していき、その才能と自己犠牲の精神で仇敵を打倒、さらに奇跡の生還を果たしました。
実はアルミン中心に進撃を見てみると、そこにあるのは一本のサクセスストーリーです。
作者は絶対そんなこと考えてないでしょうし、作者は全く意図していないでしょうが、2回言っておきましたが、これって「週刊少年ジ○ンプ」の主人公っぽいですよね?(※個人のイメージです)
最近のアルミンは平和だ分かり合いだと寝言ばっかり夢を語っていたわけですけど、これもジャ○プだったらあれやこれやのうちにヒィズルが仲間になって戦士隊が仲間になってマーレや世界も平和を願う気持ちを知って、心打たれて、肩組んで、夢が叶ってハッピーエンドな感じですよね?(※個人のイメージです)
でもそんな○ャンプの読者には受け入れ難いであろう、ウジウジと自虐や苦悩を繰り返した末に”一般人キラー”に成長を遂げたエレンさんが主人公ってところが「別冊少年マ○ジン」の何たるかってところなんでしょうか。平和ってそんなにイージーじゃないんだよっていう、ジャン○のアンチテーゼというかカウンターとしての立ち位置が”一般人キラー”エレンに投影されてて、すなわち「別冊少年マガ○ン」だってことなんでしょうね。(※アンチテーゼって言いたかっただけです)
まぁそんなわけで、この作品の裏主人公はアルミンさんなんですよ、実は。(意外と真面目にそう思ってます)
ところで、私は週刊少年ジ○ンプを愛読していました。この事実だけは、なんとなくフォローっぽく書いておかねばなりませんね。
注:この暴論理論には欠陥があり、それは「友情・努力・勝利」が意外とエレンの方にマッチしてしまうことです。
-駄文おわり-
本日もご覧いただき、ありがとうございました。
written: 24th Dec 2018
updated: none