進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

088 最新話からの考察 123話 無条件

 

みなさんこんにちは。

 

ほぼ書き終えてた記事がいくつかあるのでこっそり上げようかと思ったのですが、マガポケの不具合が解消したので先に最新話に触っておきたいと思います。いまさらですが。

 

 

 

この記事は最新話である123話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。注記の無いものは全て123話からのものです。

 

 

 

 

 

 

 

 


[無条件]

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本題に入る前に今までの予想と食い違っていた点をふたつ確認、それと諸々。

 

少年は過去の記憶の中の人かと妄想していましたが、実際に会っていた人物でした。それと調査兵団のマーレ潜入は無さそうだと思ってましたが実行されてましたね。ハンジさんごめんよ。

 

 

さて、今回のラストは満を持して、というかこれを描くために今まで積み上げてきたんだろうなぁと思わせる、非常に力の入った鬼気迫るものでしたね。

 

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ところでエレンの巨人化の様子を見るに、かなり巨大な、竜のような感じになるんでしょうか。頭部が今までの進撃のような人型であるとすれば、それはあたかも悪魔のように、そして天使のように見えるのかなと期待が膨らみます。あと、展開は全然異なりましたが、ブログ初期から思い描いていたユミルの民全員が歴史の記憶を共有するというのが起こり得る感じにはなってきた(まだ起こるとは限らない)のは楽しみです。仮にそれがあったからといって一丸となるわけではないんだろうなぁとも思いますが。さらに精神に直接語り掛けられるのであればアニにも伝わる可能性が十分に考えられますね。

 

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そういえばアルミンはやはり、「アルミンだからエレンのことは何でも分かっている」のではなく、その真意を分からずに、あるいは目を背けながら自身に都合の良いエレン像を描いていた、といった感じだったようです。これはミカサもそうですが、ミカサ本人の独白でも匂わせているように心の奥底のどこか、自覚のないような部分では実は二人とも薄々勘付いていたんでしょう。でもそうではないと思いたい都合が悪いことだったので知らず知らずにバイアスがかかっていたという感じだろうと思います。

それでもアルミンの最終的な推測が「だいたい合ってる」感じになったことは、彼の理詰めの思考法の確かさと同時に、飛びぬけて勘が良いような”なにか”を感じさせます。おそらくこれからエレンは”悪魔”あるいは”世界の敵”として討伐され得る立場になるだろうと推測できますが、やっぱりアルミンの”先を見通す”勘の良さは例の展開に繋がってるように思えて仕方がありません。さらに今回のモノローグを見るに、以前もチラッと書きましたが、ミカサもそこに一枚噛んでくる可能性がありますね。「仕方がないから殺す」というのは進撃で一貫して「世界は残酷」であることの表現として描かれてきたように思います。いずれにせよあのべらぼうに巨大な始祖巨人体(?)のエレンとまともに対峙できるのは、あのでっかいヤツしかいないような気がするのでした。

 

 


さてさて、今話で注目したいのはやはりエレンのミカサへの”問い”です。

 

 

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-ミカサ…
-お前はどうして…
-オレのこと気にかけてくれるんだ?

ミカサは答え方を間違えた風に捉えているようですが、そもそもあれはミカサの個人的な感情を問うているわけではないように思います。むしろエレン自身の考えを投げかけているというか、世界に問うているとでも言いましょうか、もしくは再確認であり独白であり噛み締めているかのようにも捉えられるのではないかと思っています。

・・というのはどういうことかという話をするにあたって、以前の記事の補足っぽくもなるのですが、超駆け足でエレンの心の動きを振り返りながら考えてみたいと思います。

 


まず少し前のエレンは「海の向こうは全て敵だ」といった考え方をしていました。だからその敵をぶちのめしてやるんだ、と。しかし相反するアルミンの意見やヒストリアのことなどがあって、いったん和平を探る方向に転換しています。そしてその後イェレナとの接触があって安楽死計画などを知った少し後が今回の場面ということになるかと思います。

(余談ですが時系列を整理すれば、鉄道開通式がレベリオ戦の10か月前くらいで、エレンはレベリオ戦の1カ月前から収容区入りしていますから、ざっくりと半年くらいは単独で潜伏してたってことになるでしょうか。今回イェレナが同行していない様子から、彼女は別で上陸しエレンの潜伏をサポートしたと考えられそうです。ところで8~9か月程度あったのかもしれませんが、それでもエレンの髪が伸びるのが速いようにも思います。


というわけで今回の考察で分かったことは、エレンさんはエロかったという・・

 

 

って、そうじゃねぇだろ)

 

 

失礼しました。話を戻しまして、前述の和平の流れでマーレに至り、そこでユミルの民の保護団体の演説を聴きます。そして席を立って出奔したという流れになるはずです。

 

 

 

さて、今回の問いが発せられた直接のきっかけは、むろん少年の境遇を見たことによるでしょう。

 

少年はスリをする小悪党であり、マーレの街の人々にとっては「敵国の移民」であり、ユミルの民の可能性さえある危険因子でした。おそらくこれはマーレ人に限ったことではなく、世界の人々にとっても悪であり敵であるといった立場におかれていただろうと捉えられます。

少年は助けてくれた兵長にまで再び悪事を働くわけですが、なぜそうしたかと考えてみれば言うまでもなく彼を取り巻く環境が根源にあることでしょう。その悪魔であり敵である小さな悪党は、家族のもとに帰ってみればあどけない子供でしかありませんでした。彼が家族の生活のためにやっていたであろうことは、地べたに張ったテントのようなものに住まい、来客にまともなグラスも出せない貧しい暮らしを余儀なくされていたことからも見て取れます。

 

では少年はなぜそのような立場に追いやられているのでしょうか。

 

少年はスリなんて小さな悪事を働く以前から、人でも殺して回ってたのでしょうか。さもなくば世界を危機に至らしめるようななにか凶悪なことでもしたのでしょうか(27巻109話)

 

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-今生きている私達は…
-一体何の罪を犯しているの?

十中八九、そんなことはないと思います。にも関わらずなぜそんな境遇に置かれているのか。

 


負けた、からですよね。

 


少し昔の話、145代が世界の人々のためと称して、戦うことを放棄して島に引きこもりました。どんなに綺麗な理念を掲げていようが、それは実質的な敗北だったのです。何の勝ち負けかって?

 

生存競争です。

 

少年たちにユミルの民の血が流れているかは定かではありませんが、いずれにしても与していた陣営が負けた時点で彼らも敗者として誹りを受けることは免れ得ません。それはレベリオと同様で、レベリオの子供たちはたかだかアイスすら満足に食することができない身分に置かれています。

それでもやっぱり、レベリオの人たちも、あの少年もその両親でさえも、カヤが言っていたのと同じように彼ら自身がなにか邪悪なことをしたわけではないでしょう。そもそも彼ら自身が何かに負けたわけでもないはずです。ただそこで生まれ、生きていただけです(21巻86話)

 

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-街を歩いただけだ!!

そういう観点で言えば、145代は人々のためと崇高な理想を掲げながら、その一方で多くの人々を巻き添えにもしている面は看過できません。

 


そこでエレンの視点に立ち返ります。彼はさまざまな記憶に触れることで思い悩みながらも、渡航時点ではアルミンやハンジの言う和平路線に追従する体をとっていた、という感じだろうと思います。その和平志向の考え方を噛み砕いて言うなら、話し合いで解決できれば私たちも世界の全ての人たちも幸せになれるじゃないか、といった感じになるでしょうか。美しく理想的な、正しい考え方だと思います。

さらにイェレナから安楽死計画を聞いてみれば、それは世界の全ての人たちの幸せのためにユミルの民は滅びよう、というものでした。これは賛否あるとは思いますが、自己犠牲的でヒロイックな面もあることは否定できないように思います。

しかし一片の期待を握りしめてユミルの民を保護しようという団体の話を聴いてみれば、同じユミルの民であっても島にいる自分たちは敵で悪魔だと言います。

 

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-忌むべきは100年前よりあの島に逃げた悪魔!!
-我々の敵はあの島の悪魔なのです!!

ヴィリーの論旨と全く同じですね。客観的に見ればツッコミどころのある偏った理屈かもしれませんが、会議に出席している人々には受け入れてるような人も見られます。じゃあ世界の人々から見て、島のユミルの民と大陸のユミルの民の違いってなんなのでしょう。

 

雑に言ってしまいますが、あっち側なのかこっち側寄りなのかってことでしかないですよね。もっと端的に言えば、”敵か味方か”ってことです。

 

年端もいかない少年が、なぜ街の大人たちからリンチまがいのことを受けそうになるかというと、彼が街の人々にとって敵だからです。

レベリオの子供たちがなぜアイスを食べられないかというと、彼らがマーレの人々の敵だからです。

もっと大きく、世界という視点で見れば、島のユミルの民こそが脅威であり敵であって、レベリオを始めとする大陸のユミルの民は少しだけ”こっち側”のように捉えることもできるわけです。利用価値もありますしね。それはもしかしたら誰かを敵と認定することで団結力を高める、集団の摂理のようなものなのかもしれません。なんにせよ、迫害を受けるのか利益を享受できるのかは、”敵か味方か”という点で線引きされているのです。

 

エレンはレベリオ戦前に、ライナーにこう語りました(25巻100話)

 

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-確かにオレは…
-海の向こう側にあるものすべてが敵に見えた

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-もちろんムカつく奴もいるし
-いい奴もいる
-海の外も 壁の中も 同じなんだ

島の視点から見れば大陸側は悪魔だと思っていたけど、蓋を開けてみれば何の違いもない同じ人間だったと。それは大陸側もそうなんだろと。その言外を読むなら、同じ人間にも関わらずお互い悪魔だと思って戦っていたのは、何か違いがあったわけではなく、実は単に陣営が分かれていたからってだけだ、といった具合でしょうか。つまり、”敵か味方か”であり、それを分かつものは誰かの都合でしかないのです。

そのすぐ後、ヴィリーは保護団体と同様に、島側を敵としてつるし上げることで大陸側を守る動きに出ました。もちろんヴィリーはヴィリーで、大陸側という自分の味方を守るための戦いとしての動きをしているわけです。世界の人々も自分たちを守るためにマーレに追従して戦おうとします。それぞれの都合で。

 


それでも・・それでも島側は自分たちだけでなく世界のみんなのことまで考えて、和平や自滅を模索するべきなのでしょうか。それが”正しいこと”なのでしょうか。

 


もともとエレンは「勝てば生きる」が信条ですが、仲間ができたことや軍に属したこと、アルミンを筆頭とした全体を考える主義主張に触れることで揺らいできたのだと思います。それが大人になるということでもあると思います。でもレベリオや少年の惨状を見るにつけ、立ち返ったのかもしれません。結局、相手があちらの都合でこちらを敵と認定してくるのなら勝たなければ自由を奪われるだけだと。過去にその相手を慮って譲歩した結果、子々孫々奴隷同然の扱いに身をやつしているじゃないかと。こちらの都合を通そうとしないなら、それは最初から負けだ、「戦わなければ勝てない」んだと。


街の人々にとっては、少年はたかが(と言ってしまうのは乱暴ですが)スリをしただけで、リンチをされ殺されかねないほどの敵です。でも少年は家族の元に戻れば、英雄的であるとも言えるかもしれません。一般的に褒められた方法ではないでしょうが、どうにかして生きる糧を得ているのです。生きるために、家族を守るために、他人に迷惑はかかれども自身の都合を通して戦っているのです。そして家族も知ってか知らずかそれを受け入れています。なぜなら家族は、彼の味方ですから。

思うに家族、特に親というのは、個人にとって最大の味方であると思います(もちろん例外もあるし、子が一人立ちすれば親子で対立することも普通にあるでしょうけど。)ダメと言われる子であれ、悪事を働いたりしたとしても、叱りはすれども庇いたくもなってしまうのが親の性みたいなところもあるかと思います。無条件の味方とでも言いましょうか。

 

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-お前はどうして…
-オレのこと気にかけてくれるんだ?

 

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-子供の頃オレに助けられたからか?
-それとも…オレは家族だからか?

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-オレは… お前の何だ?

どんなニュアンスに感じますでしょうか。もちろんこれは、「お前はおれの敵なのか味方なのか、条件付きの味方なのか?」って問うているわけではないですよね。むしろエレンにとって守りたい、守るべき島側の中でも一番近しい存在であるミカサに語り掛けることで、自分に再確認しているかのように見えます。つまり自分が行動するべきは、”世界のみんなのため”なんかじゃなく、オレにとってのミカサやみんな、つまり”自分の守りたい味方のため”であるはずだと。そして「自分は利害関係(=条件)がどうとかじゃなくて自分がただ大事に想う味方(=自分の都合)のために戦うべきだと思うけど、そうだよな?ミカサ」くらいの感じに思うんです。

であればあの少年は、そうやって自分を軸にする決意を固める上で象徴的な役割を果たしたことになるかもしれません。

 

 

しかしながらエレンがそう思っていたとしても、実際には人間ってやっぱり分かり合えない仕組みに出来ていますから、ほぼ無条件の親から始まってその他の家族、親友、仲間、同僚といった具合に味方の範囲を拡げれば拡げるほど、味方度合いが薄れていきます。それは今回もしっかり強調されていて、

 

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-エレンは味方だ!!
-そうに決まってる!!

超訳すれば「味方じゃなかったんだ・・」ってことです。一番の親友であり、本人はエレンのことをわかってるつもりで読者にもそう思わせ続けてきたアルミンも、実はずっとエレンのことを敵か味方か見定めようとしていました。条件付きなんです。むしろ共通の夢を持っていた(と思い込んでいた)頃の方が、より無条件の味方に近かったのは言うまでもないかと思います。もちろんそれは”都合”という話でもあるわけですが。ミカサは家族なだけあってアルミンより無条件寄りな感じもありますが、周囲との関係性などが築かれていくに従ってその度合いが薄まりつつあった感じもします。社会性の一側面とも言えるかもしれません。

 

近しい味方だと思っていた家族や親友、仲間から次々に非難を浴びせられた時のエレンの心中は筆舌に尽くしがたいものがありそうです。それでも彼は自分軸に従って、自分が思う大切なものを守るために「勝って生きる」ことへ突き進んだのかもしれません。戦え戦えと自分を鼓舞しながら。

 

 

 

 


最後に。

 

この文脈だとまるでエレンだけが仲間想いで他の人はちょっと冷たいんじゃないかという印象をお持ちになるかもしれませんが、そういうことでもありません。エレンが自身の信条に従って突出することによって巻き込まれる人々が出てくるのはまごうことなき事実です。そこに関しては145代となんら変わりませんし、今回の話やサシャの件を顧みるに本人もその自覚がありそうに思います。それでも145代と相反するのは、前に進む、勝って生きようとするってことなんでしょう。

 

そしておそらくこれも仕掛けだと思うんですが、エレンは生来の環境や経験もそうなんですがそれ以上に巨人の力を持っている点で他の人たちとはだいぶ趣を異にするわけです。むしろ特殊なんです。

 

つまり、彼が内包している始祖というのは、言ってみれば全てのユミルの民の親であり味方じゃないですか。無条件に。

 

 

 

 

 

本日もご覧いただきありがとうございました。


written: 23rd Nov 2019
updated: none