074 物語の考察 真意≒
みなさんお久しぶりです。
しばし間が空いてしまいました。特にコメントをいただいていた方には返信が遅くなり、そしてご心配をおかけしましてごめんなさい。ミカサさんがおっしゃってる通り、私はまだ生きております。が、機械が死にました。突如としてキーボードが全く効かなくなってしまい、しかも連休前だったことも手伝って”営業日”という壁に阻まれ、それをいいことにネットを断捨離して原始時代に帰っておりました。キーボードがちょっと小さくなったのと、タッチパッドがマウスに替わってまだ慣れませんが、再開していきたいと思います。
なにはともあれ、この記事もせっかく書いてたので上げることにしました。さすがに今さらな感じが否めないので物語の考察としておきますが、実質116話②として書いていたものです。
そんな今回はジャン坊を崇め奉るおはなし。
この記事は116話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。
※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。注記の無いものは全て116話からのものです(扉絵のミカサさんのみ7巻30話から)
[真意≒]
116話で印象に残ったのが、ジャンに変化が見られたことでした。
-何か…そこに奴の真意があるんじゃないのか?
サシャの死以降、コニーに引きずられるかのように批判的な目をエレンに向けていたジャンですが、今回はかなり冷静とも言える見解を示しました。その理由を辿っていくと、どうもそこにジャンの一途な優しさが見えてきます。
ジャンはこの「真意」発言の前に「エレンがミカサをどう傷つけたのか」について3回、繰り返し尋ねています。
-で…お前は何でエレンに
-タコ殴りにされたんだ?
-そろそろ話してもいいだろ
この発言の時点で既にエレンに殴られた傷だということは知っていたということですね。その上でさらに詳細を尋ねているわけです。
-…ミカサを傷つけたって
-どんな風に?
-…いや よくねぇよ
-どう傷つけたのか話してくれ
ジャンがここまでしつこく絡むのって珍しいように思います。そもそもアルミンは軽くぼかすような感じで流れだけを伝えるようにしてますから、いつものジャンならそれを察し、当人たちの気持ちに配慮してそれ以上ツッコむことはしなさそうな気がします。しかも、
-もういい
ミカサ本人が「やめてくれ」と言っているわけです。
ここで以前の104期会議を思い返してみれば・・(27巻108話)
-…コニー よせ
「エレンがサシャの死を笑ったこと」を話そうとするコニーをジャンは制止していました。今回とは逆のような行動ですね(27巻108話)
そして直後のジャンの表情を見れば、ミカサに聞かせたくないという配慮だったことが見て取れます。要するにそれが事実であれなんであれ、ミカサが悲しい思いをすることを避けたかったということなんでしょう。
ところが今回はそのジャンが、ミカサ本人の制止も聞かずに傷をえぐりかねないことを敢えて聞こうとした。つまりそこにジャンの真意があるのだろうという話になるわけです。
当然ジャンはエレンの「真意」について思うところがあったからそのような行動に出たんでしょうが、あれほどエレンの批判に回っていたジャンがなぜ見方を変えたのか、それはおそらくここに繋がってくるんじゃないかと思います(28巻111話)
-勝手に触るな!!
-触んなエルディア人
-馴れ馴れしいんだよ
-ちょっと親しくしたぐらいで…
このニコロの言動に対し当時のジャンは、「親しくなったと思ってたのに何だよ?」といった反応を見せていました(28巻111話)
-何だよ…
-ちょっとふざけたぐらいで大ゲサだなぁ…
-クソッ
-わけわかんねぇよ…
しかしその後、件のワインに脊髄液が入っていることが判明した際に、彼はニコロの「真意」を察しています(28巻112話)
-お前…さっき俺からあのワインを取り上げたのは…
-俺達を… 守るためか⁉
つまり、憲兵にはワインをおすすめしながらも、親しい自分たちには飲ませたくないからあのような過敏な反応をした、と解釈したんだと思います。実際その通りで、ジャンたちを大切に思っているからこそ感情が入ってしまい、それを誤魔化すかのように人種を絡めた暴言にまで至ってしまった、といった感じのようですね。ニコロがもっと嘘が上手な人であったならば、声を荒げることなく「勝手に飲むな」みたいに諭すだけで終わっていたかもしれず、であれば今回のジャンの発言は無かったかもしれません(27巻108話)
-きっと… その想いが強すぎたから
-…あんなことに
-…すべては俺達のためだって?
それはミカサ(やアルミン)とエレンの関係を、一番間近で見てきたジャンだからこそ気付いたことなのかもしれません。ジャンから見て、エレンはいつもミカサに対して憎まれ口は叩いてましたが、本当に傷つけるような、それもあのアルミンでさえ怒って殴り掛かるようなことを言うとは信じ難かったのでしょう。そしてニコロのことがあったからこそ、同様にエレンも過剰な反応をしてしまったんじゃないか、そう思い至ったんだと思います。
そもそもこの時点で、ジャンは視界の端でミカサを捉えて気にしているように見えます。
おそらくジャンは最初から何があったかだいたい察していながら、エレンの「真意」についての意見を言うために敢えて繰り返し聞こうとしたんだと思います。つまりそれはふさぎこんでいたミカサを元気づけようという行動です。
あまりはっきりとは描かれていませんが、左右のコマを見比べるとミカサの瞳に少し光が戻ったようにも感じられます。ジャンの一言によってミカサの心境にも変化が訪れたかもしれません。
生臭い見方をすれば、ミカサの気持ちがエレンから離れることはジャンにとって好都合な一面もあるはずです。でもそういった打算ではなく、むしろ純粋にミカサ本人に傷ついて欲しくないという思いやりで動いたのでしょう。しかもこれは、ずっとミカサを見つめ続けていたからこそできたこと。最近あまり目立たなかったジャンですが、今回は胸のすくような一本を決めてくれたように感じました。
おしまい。
ここからは続きのようでそうでもないようで、ジャンも116話もほとんど関係のない話ですので、読んでも時間の無駄になるかもしれません。
おそらくジャンのあのセリフによって、ミカサが(あるいはアルミンも)エレンの「真意」を誤解する素地ができたように思います。
どういうことかと言いますと、自論ではありますが「真意」という言葉にはえてして誤解が付いてまわると思うからです。さらに言えば、作者はこの「真意」という言葉をかなりの意図を持って使っているように感じています。
-だから僕達がエレンの真意を確かめて
-証明するんだ
(27巻108話)
今回のジャンの「真意」は、このアルミンのセリフへの応答のようなもので、「(アルミン、おまえの言っていた)真意はそこにあるんじゃないか」というニュアンスを含んでいると思います。それとヴィリー・タイバーも過去に「145代の真意」を語っていますが、演説中の言葉ですからそもそも裏にヴィリーの意図が含まれているはずですので、とりあえず置いておきます。実はこの両者の一回ずつを除くと、作中ではアルミンとジークだけが繰り返し「真意」という言葉を口にしているのです。アルミンとジークだけが(2回目)
ところで、この「真意」という言葉の意味するものを考える時、無視することのできない事実があります。それは、人間が他人の心、そして真意を完全に知ることはできない仕組みにできていることです。
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私は誰かに私の真意を全て話したことはありません。要求を伝えることはありますが、1から10まで話すことはなく、どうしても譲れない部分以外は「まぁいいか」と妥協や許容します。職場や学校、家庭、あるいは公共の場でも、いわゆるTPO、その場の空気や自分と相手の立ち位置などを考慮しながら発言したりします。思ったことを全て言うことはあり得ません。また、親しい間柄であるからこそ自分が思ったことを相手のためを想って言わなかったり、自分が思ったことと逆のことを相手を想って言ったりすることもあります。
端的に言ってしまえば、私の真意を完全に知っている人間は、この世界に私以外には存在しないはずです。
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突然自分語りのようになってしまい恐縮ですが、例えとして挙げるのにも私は私個人のことしか書けないのです。ですので、これはもしかしたら私だけが思っていることなのかもしれません。ですが、上記の感じはみなさんもきっと思い当たるところがあるんじゃないかと勝手ながら想像しています。そう、結局は想像に過ぎません。私には、私以外の他者の考えてることも感情も、想像する以上のことはできません。ならばだいたい想像が合っていたとしても、そこには何かしらズレが生じるはずです。
そしてこのことは、私だけではなく全ての人間に言えることだと思います。もちろんこれも想像ですが。
翻って、Aさんが「Eさんの真意はこうだろう」と発言したならば、それは既にEさんの本来の真意とはズレが生じていると考えられます。そこには必ずAさんの想像、すなわち解釈や思い込みなどが入りこんできているわけです。仮にEさん本人の口から「○○をしたい」と聞いていたとしても、前述の通り気を使ったり空気を読んで発言している可能性がある以上、それが100%本人の真意であるとは言えません。テレパシー能力で心が読めるようにでもならない限り、人間は他者の心を完璧に理解したり代弁することはできません。人間は分かり合えない生き物なんです。
世の中を見回してみれば、すぐに分かり合えて以心伝心になってしまうような物語が溢れかえっています。ラブストーリーはもとより、仲間、絆、好敵手といった感じで、気が付いたら分かり合えてしまう物語がとても多いです。ところが進撃はこの点において全く妥協をしていないようです(20巻82話)
-一緒に海に行くって約束しただろ
子供の頃からずっと一緒に追いかけていた、と思いこんでいた二人の夢には誤解がありました。そして(26巻106話、28巻112話)
-誰よりもエレンを理解しているつもりだった…
-お前がずっと嫌いだった
長い付き合いである幼馴染3人でさえ、お互いに分かり合えていたとは言い難いです。
はたまた、あれほどまでに調査兵団に熱意を注いでいたエルヴィンの真意は(20巻80話)
-…は?
いつもそばにいたはずの兵長でさえ、死の直前までそれを知ることはありませんでした。おそらくハンジは未だに知らないままですよね(22巻89話)
-これじゃわかんないよ…
分かり合えたかのように描かれてきたユミルとヒストリアも、最後の手紙はやっぱり分かりません。もちろんなんとなく伝わってるものはあるとはいえ。
進撃は分かり合うということに関して、かくもシビアに描かれています。
ではなぜ巷には”たやすく分かり合える物語”が溢れているかと考えてみれば、需要があるからに他ならないと思います。そして需要があるということは、人々はそれだけ”分かり合える物語”を好んでいるということでしょう。ではなぜ人々が”分かり合える物語”を好むのかを考えれば、自ずと答えが見えてきます。
私たちは分かり合いたい、ということですよね。
そして、分かり合いたいという気持ちは、分かり合えてないからこそ生まれる感情です。もしも人類がテレパシー能力を獲得して他者の心を完全に見ることができるようになったら、たぶん”分かり合える物語”は廃れていきます。分かり合うことなんて当たり前すぎて、誰もそんなことに興味を示さなくなるからです。
つまり、人間は分かり合うことのできない生物で、だからこそ本質的な欲求として分かり合いたいと思っているということです(26巻106話)
-きっと分かり合える
誰もが分かり合いたいのですが、とりわけアルミンはその分かり合いたさが何度となく描かれています。つまり彼は他の人より一段と分かり合えなさを感じているということかもしれません。
想像するに、それはおそらく自己肯定感の低さに起因する、自己と他者の境界の曖昧さが大きく関わっているのではないかと思います。自分を認めるために他者の評価が必要な場合、自分は自分、他者は他者という区別がはっきりせず、自分も他者も同一であるような感覚が生じます。自分がこう思うならきっと相手もこう思うだろうと考える傾向になり、相手が異なる意見を述べると自己を否定された感覚を覚えます。当然、現実はみなそれぞれの意見を持っていますから、往々にして否定される感覚、すなわち”分かり合えなさ”を感じ続けてしまうわけです。
この自他の同一感は、アルミンの「僕達」や、ジークのエレンに対する「俺達」という一人称に現れているように思います。「僕」個人ではなく「僕達」みんな同じ考えだと無意識的に思っているわけです。だからこそ「真意」という言葉が出てくるのかもしれません。つまり、相手のことを完璧に理解することができると無意識的に思っていることが表れている言葉だと思います。
それでもやっぱり他者の心は見えないんです(1巻4話)
-いつか…外の世界を
-探検できるといいね…
アルミンとエレンの約束、エレンは返事をしていません。約束、していないんです(トロスト区奪還戦、シガンシナ戦でも同様の描写がありますが、約束を交わしているシーンはやはりありません。どれもアルミンが一方的に言っているだけ。アニメの方がわかりやすいと思います。)
その時エレンが全く別のことを考えていたのはみなさんもご存知の通り。別の場面でも実際にエレンは言っています(4巻14話)
-炎の水でも氷の大地でも 何でもいい
-それを見た者は
-この世界で一番の自由を手に入れた者だ
何でもいいんです。エレンは外の世界どうこうではなく、自由であるかどうかしか頭にありませんでした(4巻14話)
-忘れたのかと思ってたけど
-この話をしなくなったのは…
-僕を調査兵団に行かせたくなかったからだろ?
これもアルミンの想像による思い込みでしかないのでしょう。エレンは返事もしてなければ、作中でそういった描写は見当たりません。というかほんとに忘れてました(21巻84話)
-でもそんな… ガキの頃の夢は
-オレはとっくに忘れてて…
つまりアルミンの思い込みなんですが、アルミンはそれをエレンの「真意」だと確信していたわけです。少し繋がりそうな場面もあるのですが、(1巻3話)
-お前は座学はトップなんだから技巧に進めって
-教官も言ってたじゃねぇか!
調査兵団に入ろうとする二人に対するエレンの言動は、ストレートに「オレはオレのしたいことをするだけだから付いてくる必要は無い」といった感じに見えます。本人たちが「なぜ自分がそうするのか」を語ってからは、それを受け入れているように思います。もし彼らを守りたくて調査兵団に入らないで欲しいならば、もっと何かしら理由を付けて抵抗するように思います。
でもこの場面をアルミンから見て、エレンが二人を守ろうとしているように受け取ることも可能ですよね。
たぶんこれと同じことが、112話の幼馴染会談で起こっているのではないかと考えます。エレンは思っていることを言っただけ。でもそれが二人を守るために言っているように見えることは、読者の反応が実証しています。読者がそう思うということは、アルミンとミカサもそう思う可能性があるということです。
今回のジャンが与えたヒントは、エレンがなぜ暴言を吐いたかについて二人に想像をする機会を与えるでしょう。前述の約束の例を出すまでもなく、人は信じたいものを信じようとする傾向があります。すると希望的観測に従って想像をし、偶然それが当たっていれば良いものの、違っていれば誤解となっていくわけです。
人間は分かり合えない仕組みにできていますから、誤解をしないためには、できるだけ分かり合う努力をする必要があります。それは作中にも示されていて(3巻10話、27巻110話)
-話し合うんだよ!
-話し合えば きっと
-…わかってくれる
話し合うことだと思います。相手の話をたくさん聞けば、完璧とはいかないまでも少しずつ真意に近づくことができます。アルミンは賢いから、理屈では分かってるんですよね。でも当の本人はベルトルさんには話し合いと言いながらマウントを取りにいってしまって、それが失敗したらどうしていいか分からない状態になってしまいました。エレンを分かりたいと言っているわりには、話し合おうともしていませんでした(26巻105話)
もちろんこれはアルミンに限ったことではなく、エレンも相手を型にはめて捉えていますし(28巻112話)
-敵に肩入れする以前のお前は
-今みてぇな甘っちょろい奴じゃなかった…
-必ずオレ達を正解に導く決断力を持っていたのに
ミカサも最初から決めてかかっています(28巻112話)
-いいえ
-あなたは操られている
誰でもそういうところがあります。それがより強く出るのが自己肯定感が低い彼らなのでしょう。異なる意見を言われた時の否定感が大きいので、より話を聞かずに済ませたい傾向があるのだと思います(28巻113話)
-俺の真意を話したところで…
-わかりっこないだろうがな…
-あんた達には
-なぁエレン…
-俺達にしか… わからないよな
ジークは話すことなく「どうせ分からないだろう」と決めてかかっています。そして彼らが、より分かり合えなさを感じているなら、分かり合えたと感じた時の感動も大きくなるのではないでしょうか(29巻115話)
「兄さん」と呼ばれたことにグラッと来ているのが分かります。そしてより相手に傾倒していき、想像を塗り固めて「可愛い弟エレン」という偶像を作りあげていくのでしょう。おそらくこれが作中でいう「導き」の最たるものではないかと思います。そして 040 導かれた者、導いた者 で書きました通り、その相手が偶像と一致しなくなった時に、裏切られた感覚と反発心をより強く覚えるのだと思います。
そして今・・
-俺達は ただ進むだけだよな
-エレン
-このエルディア帝国を救える奴は
-お前しかいないのにな エレン・イェーガー
-エルディアを救えるのはエレンだけだ!!
(29巻115話、29巻116話、27巻110話)
偶像という名の包囲網が敷かれつつあるのかもしれません。
思いやりを漢字にすると”思い遣り”です。心を遣わす、つまり自分の心を相手の心に寄り添わせるということだと思います。自分がどう思うかではなく、相手がどう思っているかを知ろうとすること、相手の話に耳を傾けることこそが分かり合うすべなのでしょう。
ただ、この作品には面白い設定がありましたね(22巻87話)
-お前だったんだな…
-ダイナ…
エレンの様子を見るに映像のみならず感情さえも共有しているようです。つまり私たちとは異なり、ユミルの民は記憶の継承によって他者の心や真意を窺い知ることができると言えるかもしれません。
惜しむらくは、記憶の継承は相手を食べた時にしか起きないということです。つまり、アルミンがエレンの本当の真意を確かめられるのは、ちゃんと話し合うか、あるいは食べ#$%@&
本日もご覧いただきありがとうございました。
written:1st Jun 2019
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