進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

078 最新話からの考察 118話①.5 嘘から始まる絶望と希望


みなさんこんにちは。


前回まとまりが悪くていまいちスッキリしない感じなので追記です。

 

 

 

 

この記事は最新話である118話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。注記の無いものは全て118話からのものです。

 

 

 

 

 

 

 


[嘘から始まる絶望と希望]

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とりあえず前提として、私はアルミンが自己肯定感の低い人物として描かれていると推測しています。以前の記事でも書いてるので詳細は割愛しますが、それを仮定した上でのお話であります。

先にお断りしておきますが、これは絶対そうなるとか、自己肯定感が低いと嘘つきだとか、嘘つきは自己肯定感が低いんだという話ではありませんので誤解無きようお願いします。あくまでそういった傾向が生まれる可能性があるといった程度の話です。

 

 

 

自己肯定感が低いと、自分がこの世界に存在していることに何か理由を求めてしまいがちなところがあります。それはつまり、”自分の価値”というものへの大きな関心にもなります。

自分の価値といっても色々あるのですが、わりと簡単に実感できるものとして他者との比較があります。他者より優れている部分があれば、相対的に自分はその他者より価値があるような感じがしますよね。これって人間の行動のかなりの部分を占めていて、例えば他の人が知らない情報を知ってるとか、最新機種を持っているとか、服装やライフスタイルがオシャレである(人よりセンスがある)とか、お金を持っている、いい暮らしをしているなどなど、あらゆるところにその性質がにじみ出ていたりします。なんとなく思い浮かんだ方もいらっしゃるかもしれませんが、いわゆる”マウント”っていうのも自分の価値を感じるためという側面があると考えられます。

もちろん誰でもこの自分の価値を感じたい性質はあるのですが、自己肯定感が低ければ低いほど、よりそれが強まる傾向があったりするということです。

 


ところで、インターネットの発達によって赤の他人のマウントを目にする機会が増えたように思いますが、そこで生まれた俗語で嘘松ってありますよね。ありもしない事をさもあったかのように語って衆目を集めたがるアレです。さすがに行きすぎだとは思いますが、あれも自分の価値を感じたくて仕方がなくて暴走してしまっていると考えれば、少し気持ちは分かる気がするかもしれません。

でも、嘘松まではいかないけど、似たようなことってけっこう身の回りによくあったりしませんか?

私は”話を盛る”のって、ものすごく小さな嘘松ではないかと思うんです。もちろん実際にあったことを膨らませてるだけですから異なるものではありますが、話を盛るというのも言ってみれば”小さな嘘”です。そして盛った話がウケたりすれば、もう一度盛った話をしたり、もっと盛った話をしたりするのが人間ですよね。そうやってだんだんと嘘が大きくなっていったら、同じところに辿り着くかもしれません。そして話を盛るのってわりと無意識的に、日常的にやってたりするかもなぁと思ったりもします。


それから私たちが無意識につく嘘にはこんなものもあります。

思わずささいなミスをしてしまったり、何か後ろめたいことがあったり、そんな時に誤魔化した経験のある方はいらっしゃいますでしょうか。私はあります。誰でもあるのではないかと思います。その時、もしかしたらほんの小さな嘘をついていたのではないでしょうか。

考えてみればこれも、自分の価値が下がらないようについている嘘と言えると思います。そしてやっぱり、一度うまく誤魔化すことができたら、また同じミスをした時にまた同じ誤魔化し方をするかもしれないし、さらにいろんなパターンの誤魔化し方を覚えていってしまうかもしれません。


自分の価値を高めたいとか守りたいという心の働きが、時として嘘という行動に繋がってくることがお分かりいただけたかと思います。ならばより自分の価値を重視する人ほど、そういう行動を取ってしまう傾向が生じる可能性もあると考えられるわけです。

 

 

 


さて、118話の話をしましょう。

 


今回アルミンは104期たちに対して、エレンはこう考えてるんだということを演説しました。

 

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-逆らわなくていいからだよ!!
-最終的に始祖の力をどう使うかはエレン次第だ!!

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-エレンはイェレナに話を持ち掛けられた時から
-そうするしかなかった!
-断ればイェレナはどんな手段を使ったか わからない…
-だが承諾したと見せて 自分は見方だと
-思い込ませることができたなら…!
-「地鳴らし」でこの島を守ることができる!

もう少し続きますが省略します。もちろんみなさんご存知の通り、ここでアルミンが語っていることはアルミンの”推測”です。アルミンはエレンの口からそれを聞いたわけでも、イェレナとのやり取りを見てたわけでもありませんから、間違いなく推測です。

 

それをアルミンは”断言”しています。

 

ジャンやコニーの疑問に対してもかなり強い断言で返しています。それだけ自分の推測に自信があるのでしょ・・って、そうではありません。

 


ここでみなさまのご記憶に新しい場面をお見せします(21巻85話)

 

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-しかし歴史書には「食い尽くされた」と断言されてあります
-歴史書というものが客観的であるべきならば
-「食い尽くされたと思われる」との表記が正しい
-つまりこの断言には主観的な意図が読み取れる
-例えば「壁外に人類は存在しないと思い込ませたい」
-といったような意図が…
-歴史書を発行する王政側にあるのではないかと…

エルヴィンは、歴史書というものは客観的であるべきだから、確定していないこと、すなわち推測でしかないことは「~と思われる」と書くべきで、それを断言している裏には王政が「そう信じ込ませたい意図」があるのではないか、と言っています。果たしてその通りでした。

 

もう言うまでもないと思いますが、作者は同じ「進撃の巨人」という作品の中で「断言」についてこう語りながら、誰が見ても推測でしかないことを今回のアルミンに「断言」させていることになります。

つまりそこにはアルミンが「そう信じ込ませたい意図」があると考えざるを得ません。端的に言えばアルミンは自分の説を押し通したかった、といったところでしょうか。かなり大きな声で強めの口調で言っている様とも矛盾しません。要するにアルミンは、みんなを「エレンを助ける」という方向に持っていきたかったんだろうと考えられるわけです。そうやって考えてみると、彼が演説を始めた流れも少し強引な感じがあります。

 

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-何で嘘だと思うの?

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(中略)
-エルディア人が子供を一切作れなくなることをエレンが望んでいるって…
-みんな本気でそう思ったの?

ミカサと二人での会話だったはずが、急にみんなに問いかける形に変わっているんですね。ミカサとの話をきっかけにして、自分が押し通したかった話にむりやり持っていったという感じでしょうか。だからおそらく、エレンが暴言を吐いた理由を即答できなかったんだと思います。考えてなかったから。

そもそも、エレンが言ったことが嘘だと言ったのはアルミンで、その理由を説明する流れでした。でもそれが本当に嘘だとして、別にエレンは暴言じゃなくて他の嘘をついても良かったわけです。なぜわざわざ暴言を吐いたのか。おそらくアルミンは演説のことで頭がいっぱいで暴言のことを忘れてたんでしょうか。答えを言えてないんです。つまりエレンが言ったことが嘘であるという根拠を言えてないんです。

そこで苦し紛れに「嘘を尤もらしくするために」「無理矢理ついた嘘」という言葉が出てきました。

 

さて、推測でしかないことを断言するというのは、言ってみれば”話を盛って”いるということです。つまり、少なからず嘘の要素を含んでいます。その自説(嘘)を押し通したいために、ミカサとの会話の流れを利用し、それ自体には答えを言えずに適当なことを言って”誤魔化し”ているように見えます。

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-嘘を尤もらしくするために利用した

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-無理矢理ついた嘘だからね

本人がしてしまっているから言葉にでてるとしか思えませんが、どうでしょうね。


誤解を招かぬよう念のため書いておきますが、アルミンが「104期に信じ込ませてやる!」とか「ミカサを騙してやる!」って思ってるわけじゃないと思いますよ。あくまで無意識的なものとしてあって、衝動のように彼を突き動かしている感じだと思います。私たちも話を盛ったり、なにかを誤魔化すときに「さあ、嘘をついてやる」とか思わないのと同じです。なんとなくやってしまう感じですよね。

 

 

 

 

 

 


記事本文は以上なんですが、ミカサとの会話の最後でアルミンがエレンのなにかしらの意図に思い至った部分について、なんとなく「エレンの真意」や「アルミンが推測するエレンの真意」などがごちゃ混ぜになってる気がするので、あくまで私の見解ですが各人が「エレンが何をすると思っているか」をまとめてみました。

 

まず、現時点でジャンとコニーはアルミンの演説によりこう思っているはずです。

 ジャンコニー:エレンは小規模の地鳴らしで世界を脅すつもり


アルミンは今まではジャンコニーと同じでしたが、最後の気付きによりこんな感じでしょうか。

 アルミン:エレンは自分たちを遠ざけ、一人で世界全体を相手にして戦い(でも一人で勝てるわけないから)死ぬつもりかも


エレンはさっぱり分かりませんが、私は今までの流れからこんな感じではないかと予想しています。

 エレン:世界でもなんでも自由を脅かすやつとは戦う。一緒に戦ってくれるやつがいれば嬉しいが無理強いするつもりはない。命はかけるがむざむざ死ぬつもりもない

 

これならば傍目から見るとアルミンの思ってることは”だいたい合ってる”ことになると思います。やっぱり内面がずれてますが、それでも死のうと思ってるか否か、一人を望んでるか否かというくらいなので、周囲からははっきりとは分かりません。


ここにジークとイェレナを足してみます。

 ジークイェレナ:エレンは安楽死計画をするつもり。小規模の地鳴らしもその中に含まれる

この二人をまとめてしまうのは危険な気もしますが、だいたいこんな感じに思ってることでしょう。

 

ここからは妄想です。

 

始祖の力がすんなり発動できるかも怪しいし、まだちょっと早い感じもするのですが、これら各人の認識を合わせて予想してみると、もしかしたらエレンは全ての壁巨人を起動させるかもしれないなぁと思い始めました。なぜかというと、ちょっとメタ的な視点なんですけど、そうするとジャンコニー、ジークイェレナ、その他大勢の人がみんな「えっ?」ってなるわけで。

そして、もし一人で戦おうとしているならそれこそ全部の壁巨人を動かしちゃったほうが、って考えられるわけじゃないですか。つまりアルミンから見て、最後に気付いたことが”だいたい合ってそう”に見えると思うんです。それから、全部の壁の巨人が動くということは壁が無くなるということです。エレンにとって壁は自由を妨げる象徴のようなものとも考えられるので、それが無くなるのはシンボル的な表現としてもありそうだなぁと。ま、妄想ですが。

 

あとミカサは、今回の流れから「エレン自身の口から聞くまでは他人の言ってることには流されない」となってそうに思っています。

 

 

 

 

 

-あとがき-

 

エルヴィンの若かりし頃の説を思い返しながら、こんなことを考えてしまいました。

 

王政の嘘、というのは壁自体も似たようなものであると思います。そしてそれによって、人々は自分たちしか残っていないという絶望や、外のことを考える者を異端とする気持ちを持つに至りました。でもそれと同時に、壁や外の世界への禁忌があるからこそ外へ出たいという気持ちが生まれ、やがてそれがエレンという希望のようなものを育み、巨人を駆逐するに至ったと考えられるような気がします。

これはまだ私個人の推測の域を出ませんが、アルミンの小さな嘘はエレンと仲間たちの間に亀裂を作ったのではないかと思っています。でも、だからこそエレンは仲間に頼るばかりでなく、たとえ一人であっても「前に進むしかない」という境地に辿り着くのかもしれないなぁと。もちろんそれが希望と呼べるようなことになるかはかなり怪しいですが、おそらく彼は残滓となりそうなものを既にファルコに与えてるように思えて・・

 

-あとがきおわり-

 

 

 


本日もご覧いただきありがとうございました。


written: 13th Jun 2019
updated: none