進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

068 巨人化学⑮ 生命-VI 本体

みなさんこんにちは。

 

 

この記事は 生命-I から続くお話であり、そちらの警告をご承諾いただいてない方の閲覧はお断りしております。まずはそちらからご覧くださいますようお願い申し上げます。

 

今回は科学しております。科学というのは、”こう考えればツジツマが合う”という後付けの理論でもあります。理屈っぽいのでそういうのがお好みでない方はそっ閉じでどうぞ。あと、毎月恒例ですが115話の内容に関しては知りませんし書いていませんので、それ目当ての方もぶぶ漬け食うていきなはれ。

 

 

 

 

この記事は最新話である114話までのネタバレを含んでいます。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。  

 

 

 

 

 

 

[本体]

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この作品では記憶というものにスポットライトが当てられているのは言うまでもないと思います。巨人の仕組みには記憶が関わっている節があり、無垢巨人は記憶を求めて人を食べているようにも見えます。

実は現実世界も同様かもしれません。私たちは様々なものを求めますが、食だったり旅行だったり、鑑賞、行楽、ふれあい、およそほとんどの行動は体験という名の記憶を求めているともいえます。そして記憶を求めて他の生物を食べるという意味では、私たちは巨人となんら変わりがないのかもしれません(6巻25話)

 

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-お前と俺達との判断の相違は
-経験則に基づくものだ

兵長も判断は過去の経験、言い換えれば記憶に基づいていると言っています。すると”記憶を持っている”ということは行動判断に何らかの影響を及ぼすということになります。ただし、記憶と呼ばれているものは私たちが普段思い出したりする記憶だけではありません。


一つの例としてスポーツを初めてやる場面を想定してみましょう。なんでもいいですがテニスあたりにしてみます。

Aさんは最初はなかなか上手く球を打つことができず、空振りやホームラン、ネットにかかってしまうことが多いです。多くの人はこんな感じになるでしょう。ごく普通の人です。私たちはこれを”体が覚えていない”なんて表現したりします。

次にBさん、プレイするのは初めてだけどテレビなどでよく観戦している人がいるとします。おそらくこの人はコートでの動き方やルールを熟知しているのでマシに見えたりします。でもやっぱり打つことに関してはたいして変わらないかもしれません。”体が覚えていない”からです。

ところがCさんのように、最初からそこそこ上手く打てる人もいたりします。聞いてみれば野球を長らくやっていたとか。野球に限らず、こういう人は応用できるような動きの経験があったりすることがほとんどです。棒状の物で球を打つ方法を”体が覚えてる”わけです。

いずれにせよ何度も繰り返し練習していけば、どの人もだんだんと上達していきます。”体が覚える”からですね。一度覚えてしまえば、しばらくブランクがあってもすぐ取り戻せたりします。意識が忘れてしまっても、体には記憶が残っているからです。そもそも私たちは体を動かす時ってほとんどイメージで動かしていますよね。スポーツなどをやりこんだことがあれば、体が勝手に動く瞬間を体験した方も多いのではないでしょうか。意識が知っていることと、体がやり方を知っていることは全く違うのです。私たちは意識が思い出したりする記憶とは別の記憶を持っています。それは意識からは見えない無意識下などにあり、意識が覚えてる忘れてるに関わらず、経験として蓄積されているのです。

つまりエレンが夢やなんかで見ていたのは、以前の継承者たちの膨大な記憶のほんの一部に過ぎないのです。でも、”記憶を持っている”ということは”体は覚えている”ということです(3巻10話)

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-使い方は彼らの記憶が教えてくれるだろう…

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では、エレンが進撃の継承者たちの記憶をどうやって手に入れたかといえば、グリシャの脊髄液を摂取したためです。ひとまず脊髄液=記憶であると仮定してみましょう(16巻66話)

 

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-…ヨロイ?

エレンはこれを摂取すると「鎧の巨人」の記憶を持つことになります。すると硬質化のやり方を”体が覚えている”状態になるわけです。後から兵長が言っていた通り、エレンの意識にあんなドーム状の構造体の知識はありませんし、エレン自身がそれを作ろうと思ったわけでもありませんでした。でも無意識下には「鎧の巨人」の記憶がありますから、どのようにすれば体組織を固くできるか、どのような形なら崩落を防げるかを”体が知っていた”のでしょう。そう考えれば、手を噛むという巨人化の仕方も、榴弾を防いだのも、”体が知っていて”勝手に動いたと納得ができます。ちなみにこのシーンでは、エレンの体は”ヨロイ・ブラウンを摂取すれば硬質化ができるようになること”を知っていたことも察せられます。もちろんエレンの意識はそんなこと知る由もありません。

 

 


ここで少し話が変わりますが、進化というのも経験の蓄積と言えるのではないかと思います。例えば体毛が濃くなるのは寒い場所に適応したからと言われています。適応というのはつまり、そこにいて寒い経験をしたから暖かくなろうとしたということです。寒い土地に住んでない生物は適応しません。経験が無いからです。同様に、紫外線が強い場所に住んでいれば皮膚の損傷を防ぐ為に肌が色濃くなっていきますが、その経験が無ければ適応しません。

私たちはそれまでに得た経験から、次はもっと上手くいくように行動を変えていきます。進化も同じで、経験からより良くなるように様々に変化をし、その中で勝ち残ったものが生き永らえる、その繰り返しです。つまり現在の人間はかつて猿だった時の経験や、魚だった時の経験の積み重ねで存在しています。経験とは記憶です。祖先の記憶なんて言うとオカルトっぽくてうさん臭く感じますが、実際そうした記憶の積み重ねが人間を形作ったのです。


原人、猿、ネズミのような原初哺乳類・・といった感じで祖先を辿っていくと、やがて単細胞生物に行き当たります。いや、人間だけではなく地球上の生物はみな同じ単細胞生物を祖先に持つのではないかとも言われています。

単細胞生物とは一つの細胞だけで生物として生きているものです。それに対して、人間は数十兆個の細胞が集まった多細胞生物です。この単細胞から多細胞への変化に際して、進化のブレイクスルーがあったと考えられています。

 

それが細胞とミトコンドリアの共生です。

 

ミトコンドリア(以下、mtと略記)は細胞の一器官としてエネルギーの産生などの役割を担っています。実はこのmtが無かったら、生物の多細胞化はできなかったかもしれないと考えられています。全く異なる進化を遂げるか、未だに単細胞生物のままだったかもしれません。いずれにしても、人間を含む哺乳類から鳥や爬虫類、虫や植物などなど、現在の地球上のほぼ全ての生物は存在していなかった可能性が高いのです。本当の意味で最初ではありませんが、今の地球上の生物から見て「生物の起源」と呼ぶにふさわしいのは、このmtではないかと思います。

 

単細胞生物というのは、単体の細胞としては人間の細胞一つ一つと比べると遥かに高性能です。人間を始めとする多細胞生物の細胞は、単体ではそれほどたくさんの機能を持っていません。数十兆個あるそのほとんどが、内部を守るためにただあるだけだったり、バケツリレーのように中間でただ受け渡しをするだけだったりします。例えるなら単細胞生物は能力の高い個人で、多細胞生物は個人能力では劣るけど役割分担によって大きく複雑な機能を有する集団です。そしてその集団化はmtによって成されたことになります。

細胞を繋ぎ合わせて集団を作り、各細胞に役割を与えて一つの大きな目的に向かわせる。以前例にあげたアリのような、個体それぞれが役割を持って全体の目的のために行動する生物も同じような性質と言えます。つまりさらなる進化として個体同士をも集団化したのではないかと考えられるわけです。そして細胞を繋ぎ合わせたのがmtであるならば、個体を繋ぎ合わせるのもmtの性質が関わっているかもしれません。

 


パラディ島は海で隔てられていたことで人間の侵入を防ぎ、独自の生態系を保ったと思われます。海を渡って辿り着けるのは鳥か翼のある恐竜か、あるいは地続きだった頃からいたのかもしれませんが、パラディ島を支配した生物は恐竜の記憶を持ちながら、アリのような集団性を強める方向に進化していたのではないかと推測します。恐竜の記憶を持っているということは、身体が大きいことが生存に有利であることを”知っている”ということであり、身体を大きくする方法を”知っている”ということです。そしてアリのように集団で生きることが有利であることも”知っている”(6巻「現在公開可能な情報」より)

 

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巨大樹は島中に生えているわけではなく、局所的に群生しています。つまり個体ではなく集団で生きています。多数のアリが一つの巣のために働くように、一つの森という集団のためにたくさんの木々が働いているのかもしれません。するとその裏には、mtを媒介とした巨大樹の「道」が存在しそうだと考えられます。そして、パラディ島の生物に共通する何かの証左でもありますね。

 

 

mtはもともと細菌の一種でした。現在では細胞の一器官のようになってますが、私たち本体のDNAとは異なる独自のDNAを保持しています。つまり今でも別の生物であると捉えることもできます。別の生物が私たちの細胞の一区画を間借りして生きている、それは宿主と寄生の関係のようでもあります。

 

そこで宿主と言えばミカサちゃんです。

 

113話でエレンがなんか言っていましたが、今までのミカサの頭痛の場面を俯瞰すれば焦げミンやらルイーゼ親子やら、エレンを守ることと結び付けられない場面で起こっているのは明らかです。041 ミカサの場合 で書きましたが、変に深読みしなければただのPTSDの症状にしか見えません。しかも作中ではエレンにも頭痛が描かれており、それはトラウマの解消があった以降は一度も描かれたことは無いのです。つまりこの作品では頭痛がPTSDの症状として描かれたことがあるということです。であれば、エレンの言っていることは疑ってかかった方が良いかもしれません(28巻112話)

 

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-結局のところ マーレの学者も
-未だに巨人のことは殆どわかっていねぇが

そもそも作者はちゃんと示唆してくれています。「この情報はテキトーだよ」と。

このセリフだけ飛ばして読んでいただければよく分かると思いますが、無くても何も変わりません。エレンが「ジークやマーレは俺達が知らないことを知っている」と思い込んでることに変わりは無いはずです。それをわざわざアッカーマンについて語る前に「実はマーレはたいして知らないんですよ」と前置きをさせている意味はなんでしょうか。


ミカサに話を戻しまして、先述の考察ではそれを防衛機制で説明しました。そして防衛機制というのは無意識が意識を守るために起こるものです。無意識は全身の細胞を制御して、全体のために調整しています。全身の細胞を全体のために・・何やら既視感のある言葉ですね。mtと無意識を重ねてみましょう。

mtが無意識を司っているとするならば、無意識から見て本体の意識は宿主と捉えることができるかもしれません。防衛機制は無意識(mt)が意識(宿主)を守るためにトラウマの記憶を隠していることになるわけですが、連想されるような事を見聞きすると意識は思い出しそうになってしまいます。すると無意識は”痛み”という信号を使って意識に警告するわけです。「これ以上思い出したらもっと痛い目にあうぞ」って。そりゃ守ろうとしている方からしたら、うんざりしますよね。わざわざ隠してあげてるのにって(28巻112話)

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-本来の自分が宿主の護衛を強いられることに
-抵抗を覚えることで生じるらしいが…

普通にPTSDの症状として説明が付いてしまいます。でもなぜエレンはあんなことを言ったのかとお思いになるかもしれません。

PTSDやトラウマが研究され、知られるようになったのはこの1~2世紀くらいのことです。じゃあそれまでPTSDが無かったのかと言うと、そんなわけはありませんよね。じゃあミカサのような体験した人を近くで見ていた人はどう思うかと想像してみれば、「彼女は別人のようになってしまった」、つまり、本来の彼女はあの時死んでしまったと思うかもしれません。PTSDの知識が無い時代に誤って理由付けがなされたとしてもなんら不思議ではないと思います。だからこそ「マーレもよく分かってない」と言わせてるのではないでしょうか。「この情報元も全てを知っているわけではありませんよ」って言ってるわけです。そもそも伝承というものの不確かさは作中で一貫して描かれていることでもあります。

 

本当の意味での「本来の自分」というのがどちらか、なんてのも気になりますが、これは何とも言い難いです。全身を制御している無意識、表層しか知らない意識、果たしてどちらが本体だと思いますか。


実は細胞とmtの関係も面白いもので、細胞はmtのエネルギー産生能力が必要なのでmtを飼い殺しにしている感じです。mtは独自のDNAを持っていると書きましたが、細菌だった頃のDNAの大部分は細胞のDNAに奪われ、もし細胞の外に出てもmt単体では生きていけない体にされています。細胞としては”檻の中”に入っていてくれるのが都合が良いのです。mtはmtで、独自のDNAを保ったまま細胞内で独自の細胞分裂をして増えていきます。利用されているようで利用しているようにも見えますね。そして想像してみてください。

 

人間の一個の細胞の中にはmtが数百から数千存在するそうです。人間の細胞は数十兆個、ということは・・

 

さらにmtは、人間だけでなく地球上のほぼすべての生物の細胞内にいます。もしmtを単体の生物として捉えるなら、地球上で最も繁殖している生物はmtかもしれません。しかも、彼らによって多細胞化がもたらされて進化が進みました。進化とは生き残ることを主目的としていることを考えると、実はmtによって生き残りやすい形を試行錯誤させられているのではないかとすら思えてきます。主導権を握っているのは果たしてどちらなのでしょう。檻に囚われているのはどちらなのでしょうか。

 

そして、この細胞とmtの関係性が、人間とユミルの民に投影されているように感じるのは気のせいなのでしょうか。

 

 


mtと細胞の共生関係がどのように始まったかは分かっていません。それはたまたま、細胞がmtを捕食しようとした時に起こったのかもしれません。もともと別の生物ですから、敵対関係にあったとしてもおかしくないわけです。それでも彼らは共生の道を選びました。その共生関係が現生の生物たちを生み出したことを鑑みれば、同じように人間とユミルの民が共生することが次なる進化を促すのかもしれません。

ただ、先述のmtの立場を顧るとそれが”自由”と呼べるのかは、はなはだ疑問ではあります。もしかしたら人間とユミルの民はその主従関係を決めるために争っているのかもしれません。あるいは、異なる進化を遂げたmt同士による生存を賭けた戦いの、代理戦争をさせられているのかもしれませんね。

 

 

 

 


もうちっとだけ続くんじゃ

 

 

 

 

 

 


-補足-

記事中では分かりやすいように脊髄液=記憶という感じで書きましたが、おそらく厳密に言えば間違っています。細胞などの性質が個体の性質と対照関係にあることを考えれば、ユミルの民一人一人は、神経細胞の一つ一つのように捉えるのが正しいのだろうと思います。

記憶とは情報の結びつきによってできています。例えばリンゴと聞いて赤いリンゴを思い浮かべるのは、「リンゴ」と「赤」という情報が強く結びついているからです。青りんごの栽培農家の方はもしかしたら黄緑色を最初に思い浮かべるかもしれません。その場合は「黄緑」の方が結びつきが強いということです。


おそらく脊髄液は摂取するとその結びつきを作るんだと思います。ヨロイを摂取すると”鎧の巨人クラスタ”に結びついて、そこにある記憶にアクセスしやすくなる感じです。ユミルの民はもともと同じプラットホーム上にありますが強い結びつきがないためさほど影響は受けない。でも脊髄液を摂取すると強い結びつきができて巨人化の仕方を体が覚える。そして傷を受けると免疫作用が発動して自身を守ろうとする。身体が大きいことは生存に有利だと体が覚えているので巨人化する。こんな感じではないかなと思います。

ちなみに脊髄液の摂取だけでは何も起こらないと考えて良さそうです。そう考えるとジークは嘘を言っていないんですね。彼はあくまで脊髄液入りのガスを吸うと硬直するとしか言ってません。あれはハンジたちが勝手に「嘘を付いた」と思い込んでしまっているだけなのでしょう。やっぱり「偽る者」ではなくて「偽り者」なのはそういうことなんだと思います。他者から見れば誰もが偽り者になり得るんだと思います。

-補足おわり-

 

 

 

本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 
written: 7th Mar 2019
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