進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

010 巨人化学① 知性巨人の器

みなさんこんにちは。

 

 3/26 修正:読み返したところ、何を言いたいのかわかりづらかったので全体的にリライトしました。大筋は変わっていないつもりです。


初めていただいたコメントがスパムで、若干ヘコんでいる主です。みなさまいかがお過ごしでしょうか。ぜひお気軽にコメントお待ちしてまーす笑

愚痴はさておき、物語は現在、様々な伏線が回収されており、だんだんと佳境を迎えつつあるように感じられます。そんな中にあって、こと巨人そのものに関する謎は、まだほとんど明かされていません。

 

巨人とは一体何なのか、どういった仕組みでできているのか、作者が想定しているであろう設定を探ることで、今後の展開への気付きが生まれるのではないかと思い、巨人化学と題して考察していきたいと思っております。初回は知性巨人になる人々へのある疑惑から・・・

 

 

 

 

この記事は最新話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 

 

[知性巨人の器]

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私は進撃の巨人を読み始めた当初、実は「この作品、大丈夫かな?」と疑念を抱いたシーンがありました(今は伏線の一つだと分かっています)

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こちらの有名なシーン(1巻2話)なのですが、わずか10歳の少年が、それまでの展開にそぐわない”駆逐”という言葉を発したことに、非常に違和感を覚えたのです。いわゆる中二病的セリフの多い凡百の作品なのかなと思ったほどです。

10歳といえば現代の小学生4年生くらいですから、そういう言葉を覚えて使いたがる年頃かな、という見方もできなくはありませんが、それまでのミカサや両親、ハンネスさんらとの会話を見ていると、エレンはそういう喋りをするキャラではないんですよね。

 

さらに畳みかけるように、似たような雰囲気のセリフがもう一つ出てきます(2巻6話)

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今度は駆除って。やっぱり中二病ですかね…

 

 

 


ところで…

 


エレンといえばご存知の通り、「進撃の巨人」の継承者となったわけですが、彼には物語の山場に判明するであろう大きな謎があります(1巻1話)

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この、ループ説がささやかれる最大根拠であり、ミカサを謎めいた存在にしている冒頭の夢(?)です。

その手掛かりはおそらく「道」にあるであろうことはみなさんも推測してると思います。今回はその「道」の仕組みの一端を探っていきたいと思います。

 

 

 

まず押さえておかなければならないのは、22巻88話のこのシーンですね。

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クルーガーがミカサとアルミンの名前を出したことによって、「道」の時空に関する設定が明らかになったシーンです。端的に言えば”未来の記憶も見られる”ということです。

 

-余談-
このシーン、エレンが見ている記憶ではなく、読者だけに見せているシーンの可能性があります。エレンが驚いたりしてる様子が見られませんので。
-余談おわり-

 

話を戻しまして、クルーガーは「空間を超越した道」とグリシャに説明していますが、未来や過去の記憶が流れてきている事実を合わせれば、実際には「時空間を超越した道」と言ってよいことが分かります。

 

これは現代の科学的な時間の考え方にも合致しています。時間とは物事の変化を把握する上での指標にすぎません。考えてみれば、絶対的な時間というものは存在せず、相対的なものでしかないことが分かります。それはつまり、あくまで私たち人間が利便性のために生みだした概念であって、言わばある基準点からどれだけ経過したか、どれだけ遡るか、という物差しのようなものです。過去・現在・未来というのも、人間が生み出した概念です。

時間が過去から未来へしか流れないように見えるのは、私たちがそのようにしか認識できない生命体だから、とも言われています。よく言う、点(1次元)は面(2次元)の上に存在するが、面を見渡すことはできない、というアレです。私たちは”3次元の空間と1次元の時間”という4次元世界に存在する立体(3次元)生命体であり、3次元は理解できますが、4次元の時間を見渡すことはできないのです。もし4次元以上の生命体がいれば、彼らは全ての時間を俯瞰することができるとも言われています。俯瞰できるということは、今そこにある、ということです。

なんとなくループ説に繋がりそうに感じるかもしれませんが、ちょっとニュアンスが異なります。私たちには見ることはできませんが、過去も現在も未来も全て同時に存在している、というほうが感覚的には近いでしょうか。そして、その時空間を超越できるならば、過去も未来も、現在と同じように観測することができるわけです。

あまり説明が上手くできずごめんなさい。詳しくはグーグル先生に聞いてください。

 

 

 


さて、道が時空を超えていることを踏まえて、先ほどの違和感のシーンに戻ります。

 

 


実はこれらの言葉は、別のシーンで出てきています(22巻87話)

 

 

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まず”駆逐”は、セリフまでほぼそのままです。

 

 

 

 

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そして”駆除”とその周辺、言い回しは異なりますが、似たようなことを言っています。

 


これらが意味するところは、エレンがグロス曹長の発言を道を通して聞いたことがある、ということではないでしょうか。

 

本人がそれ自体を覚えているかは分かりません。夢として見て、忘れている可能性もあります。さらに言えばクルーガーの記憶なのか、グリシャのそれなのかも定かではありません。しかし、記憶領域の深いところにこの言葉が刻まれていたのでしょう。そう考えれば、10歳の少年がこれらの言葉を使ったことも理解できます。

 

 


そしてもっとも重要な点は、エレンがこれらの言葉を発したのは、進撃を継承する以前だということです。

 

 

 

同様の例がもう一つあります。


”駆除”を発したのは、エレンが単身でミカサを救出した後ですが、そもそも彼はなぜ誘拐犯のアジトをすぐに発見できたのでしょう。ミカサの生家に行ったのすら初めてだったはずです。

 

 

 

 

 

 

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これは何かを受信してますよね?

 

凄惨な現場を見たことをきっかけに、誰かの記憶が流れ込んできたんじゃないでしょうか(おそらく誘拐犯の誰か、ミカサの可能性もほんのわずかながら残ります)。そうであれば、エレンの迅速な救出劇は、まったく不自然ではなくなります。

 


エレンが様々な記憶を見ていたと仮定して、1話冒頭の夢や、ハンネスさんへのセリフに見られる巨人への危機感、初めて見たはずの巨人を「ヤツだ…巨人だ」と言っていることなどを読み返すと、とても自然な印象を受けることと思います。ただし、何度も言うようですが、おそらく本人は自覚がないと思います。

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このことは、言い換えればエレンは巨人化する以前から他者の記憶にアクセスしていた、ということになります。作中では知性巨人の継承者の視点で、過去の記憶を見ているのがほとんどですが、ユミルの民は全員が道で繋がっている、という設定を考えれば、それほど不思議なことではありません。しかしながら他の、普通の人々が記憶を見ているような描写は見られません。何か他の条件があるのでしょうか。

 

 

 

 

巨人化してなくても、夢などで知らず知らずのうちに記憶にアクセスすることがある、と仮定して読むと、実はそれらしいシーンがいくつか発見できます。

 

 

 


まずはあの人の預言です(1巻1話、8巻34話)

 

 

 

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”後に”超大型巨人を継承するアルミンは、それ以前から何かを知っているかのような発言を繰り返しているのはご存知の通りです。”地ならし”が作中で言及されるはるか以前から、それを言い当てているのです。普段からさまざまな推測を的中させたりしているのも、もし彼が記憶にアクセスしていたとしたら、納得がいきそうです。もちろんそれを作戦として組み立てられるのは、本人の後天的な才覚によるものでしょうが、あの勘の良さは記憶によってもたらされていると考えたほうが自然に感じます。


100年間の平和を謳歌していた壁内、すなわち、現在の壁内の人々は生まれてこのかた平和ボケしていたわけです。そんな中にあって、この10歳の子ども二人だけが巨人の襲来で壁が壊されることを予感していた、これは偶然とは言い難いでしょう。

 

 

アルミンはこうも言っています(20巻81話)

 

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もしかするとこれは、壁に閉じ込められた超大型の無垢巨人たちの、切なる想いが記憶の奥底にあるのかもしれません。

 

 

 

 

さらに・・ 

 

 グリシャ・イェーガーは、少年の頃、自由を求めて収容区を出ました。その結果、”自由のために戦う”進撃の巨人を継承するに至りました。彼が自由を求めたから進撃になったのか、進撃になる者だから自由を求めたのかは今のところはっきり分かりません。しかしながら何らかの関連性がそこに見出せます。

 

 

ジークにも同様の兆候が見られます(21巻86話)

 

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幼いジークにとって、敵の兵士をやっつけるヒーローは猿だったようです。これも同じように、猿が先か、ジークの想いが先かは判別できませんが、少なくともこの時点で、既に彼自身の未来と繋がっていた、と解釈できるのではないでしょうか。

 

 

 

これらに共通するのは、彼らは知性巨人の継承者だということです。しかしながら、彼らはその継承の以前から、何らかの影響を受けているように見えます。知性巨人であることが道との繋がりを強めるのだとしたら、先述した時間の概念、過去・現在・未来が同時に存在していることを考えると、彼ら継承者たちはその継承の以前・以後に関わらず道との繋がりが強い、という可能性が出てくるかもしれません。

 

なんとなくですが、運命とか宿命と呼ばれるものに対しての、作者のSF的な解釈にも感じられます。彼らは知性巨人になるべくして産まれた、と言い換えることもできそうです。

 

 

 

 


ただ、例外的なケースが一点あります。

 

 

それはヒストリアです。ヒストリアは巨人化していないにも関わらず、ロッドの記憶を垣間見ています(17巻68話)

 

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これは無垢巨人化したロッドにとどめを刺した際に起こりました。


元々ヒストリアはフリーダ関連の記憶を忘れさせられていたわけですが、13巻54話ではフリーダを夢で思い出し、起きてすぐに忘れています。これは、記憶はちゃんとどこかに残っており、何かのきっかけで表に出てくる、ということを示唆しています。

その後、エレンに触れたことをきっかけにフリーダとの思い出をはっきり思い出します(16巻63話)

さらに注射針のチクッという痛みで同じくフリーダを思い出しています(16巻66話)

 

 

ヒストリアは人間のままですが、どのケースも最初のきっかけになる相手は巨人です。やはり巨人であることが道(記憶)との繋がりを強くしていることは確からしいです。ただ、ヒストリア自身は巨人ではないため、どちらか一方が巨人であれば記憶へのアクセスができるということかもしれません。あるいは、ヒストリアの場合は王家の血が関与している可能性もありますね。もしもヒストリアが巨人化したら、より多くの人の記憶にアクセスできるのかもしれません。

 

もちろん、ヒストリアが今後巨人化するならば、これは例外ではなくなります。ただ、エレンやアルミンのような勘の良さを描かれていないことから察するに、巨人化は無さそうに感じるんですよね。断言はできませんが。むしろハンジのような勘の良い人のほうが怪しいくらいでしょう。割と脈絡なく、レイス領の地下空洞の地形を予想してたりするんですよね(16巻64話)

  

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さて、どうもユミルの民は、必ずしも巨人化することなく記憶にアクセスできる可能性が高くなりました。このことはまた別の考察に繋がっていくんですが、それはまた次回以降に。

 

 

 

 

 

 

最後に冒頭のシーンについてちょっとだけ。

 

アニメではいくつかのシーンがフラッシュバック的に表現されていますが、原作ではミカサ(に見える女の子)からの「いってらっしゃい」と黒塗りの1コマしか描かれていません。しかしながらその後のエレンの反応と重ね合わせるシーンが描かれたことによって、それが道による記憶を夢に見て、追体験をしていたことが分かりました(1巻1話、22巻87話)

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残念ながら(?)、ループ説はほぼ無くなったと言ってよさそうですね。

 


この時エレンが見ていた記憶が、ミカサとの思い出(傷が無い上に、少女に見えるので、少なくとも調査兵団入団以前でしょう)なのか、クルーガーとキヨミさんの幼い頃なのか、過去か未来の進撃・始祖の継承者の記憶なのかは分かりませんが、エレンは何らかの悲しい物語をこの時に追体験して、記憶のどこかに刻み込んでいます。明かされるのは終盤になると思いますが、どのような仕掛けをされているのか、楽しみに待ちたいと思います。

 

キヨミさんが首にスカーフ(?)を巻いてるのも、進撃継承者が今まで何度も巻いてきた一つだったりするかもしれませんね。これからも何度でも、というのは、エレンなのか進撃なのか・・・

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本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 

written: 24th Mar 2018
updated: 26th Mar 2018