進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

108 世界観⑫ 国産黒毛和牛リブロース ステーキカット ¥685/100g


みなさんこんにちは。

 

 

この記事はちょっと予定外なので後の記事とかぶってしまう可能性があるんですが、このタイミングの方が上手くはまりそうな気もしたので急遽ねじ込みました。ので浮いているかもしれません。ところでこれは原作漫画の方の記事なのでアニメで来てる人はまだ読んじゃダメですよ。

 

 

 

 

 

 


この記事は当ブログの過去の記事をご覧いただいていることを想定して書いています。最新話のみならず物語の結末までを含む全てに対する考察が含まれていますのでご注意ください。当然ネタバレも全開です。また、完全にメタ的な視点から書いてますので、進撃の世界にどっぷり入り込んでいる方は読まない方が良いかもしれません。閲覧に際してはこれらにご留意の上、くれぐれも自己責任にて読むか読まないかをご選択いただけますようお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。個別表記の無いものは全て26巻1〇5話から引用しております。また、扉絵は18巻72話から引用しております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


[国産黒毛和牛リブロース ステーキカット ¥685/100g]

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-まえがき-

 

クソみたいなタイトルで何事かと思った方もいらっしゃるかもしれませんが、この記事はちょうどテレビでやったばかりの ni ku の話です。アニメが始まって古い記事にアクセスがあったりして当時の記事を読み返す機会を得たのですが、いろいろ見えているものも変わってきていました。当時思っていた以上に濃い一話だったというか。ですので過去に書いたことの修正というか、ニュアンスの補強みたいな意味合いもあります。

もう一度言いますが、アニメで来てる人は今すぐ立ち去った方がいいです。今後数か月の楽しみが台無しになるかもしれませんよ。

 

そしてお読みいただく方にはご不便をかけるようで恐縮なのですが、念のため検索避け目的で伏字表現を多用させていただきます。以下の通りです。

☆主な登場人物☆
加害者〇ビ  → 以下、「ガブリエル」と表記します
被害者サ〇ャ → 以下、「サ」と表記します
辞世の句である「二 く」 → 以下、「サーロイン」と表記します
エレンあたりはどの記事にも出てくるのでまぁ大丈夫でしょう。

あと該当話の引用に関しては記事の最初に一括で「1〇5話」という形で表記していますが、これも伏字表現になっていることをあらかじめお断りしておきます。

 

-まえがきおわり-

 

 

 

では。

 

 


まずひとつの視点を共有していただきたいので、22巻以前の壁内編のことはいったん無かったことにしてください。この物語は100年前の戦争で裏切って逃げた悪い人たちのせいで、奴隷収容区でみじめな生活を強いられている人々の物語です。

 

そんな悲惨な場所でも人間の生の営みは綿々と続いていき、年端もいかぬ少年少女が懸命に生きています。

ある少女は、「収容区」などというロクでもない名詞で呼ばれるロクでもない場所だけど、そこは自分が生まれ育った場所であり、大事な人達がいる家や故郷なんだと言います。そしてそんな大事な人達が、これ以上みじめな想いをしないで済むように自分が頑張らないとと心に決めます。その甲斐もあってか、少女は社会から評価を受けるようになりました。このままいけばみんなが楽しく暮らせる日々を実現できる、故郷を救うことができる、少女はそう確信を持ちます。

ところがある日、100年前の悪い人たちの子孫が突如として収容区の壁を越えて攻撃してきました。そして身近な友人知人や故郷の人たちが次々に殺されていきます。状況は絶望的で、もちろん少女にはそれに抗う力もありません。友を守る力も無ければ、敵を抑える力さえ持っていませんでした。

それでも少女は言います。

私達は敵に負けたのだろう。でも私はあきらめない、最後まで戦ってやる。でなければ死んだ人たちの想いが無駄になる。私は彼らの意志を受け継ぎ戦い続け、その意志はきっと誰かが受け継いでくれる。そのためなら自分の命なんて惜しくない、と。

そして彼女は自らの命を投げ打つように、敵の真っただ中へと特攻していくのでした・・

 

さて、

 

わざわざ長々と書く必要も無かっただろうと思いますが、ご存知の通りこれが「ガブリエルの視点」です。今となってはどなたも掛け値なしに見ることができるのではないかと思いますが、完全に王道的なヒーローのムーブをしていることが改めてお分かりいただけると思います。大事なみんなを助けたくて、そんな力が自分に無いのも分かっていて、でもみんなの意志を受け継ぎたくて、命をかけて強大な敵に立ち向かっていく。もちろんかつてのエレンなんかに重ねられているのもそうだと思いますが、より理想的なヒーローのムーブであるように感じます。


ではここでもう一つの視点、「読者の視点」というのを登場させたいと思います。これは今この記事を読んでいるあなたの視点ではありません。あくまで別物の、どちらかと言えば「(当時の)読者の視点」くらいで捉えていただくといいと思います。

当時原作を追っていてネットでも進撃の情報を見ていた方は、あちらこちらで「ガブリエル死ね」「頭おかしい」「クソ」みたいなのが飛び交っていたのはご存知かと思います。もちろんこれには声が大きい人が騒いでた側面もあるでしょうし、そうでない意見も見られました。サイレントマジョリティーみたいな話も実際にはあるでしょう。ただ、じゃあ容易にカウントできる程度の人数が騒いでいただけなのかと言うとそうでもない印象があります。そうした風潮はそれ以前からもあったのですが、サが撃たれたこの一話で加速した感もありました。

まぁそうした声が大きい人たちの意見は、調査兵団に感情移入しすぎて客観性を失ってしまっている極端な例であることは容易に見て取れるはずです。今さら改めて取り上げるほどのものではありません。ガブリエルが必ずしも悪いわけでもないみたいな話も、最新話まで原作を読んでいるみなさんにはするまでもないだろうと思います。

 

なのでもう一歩踏み込んでみたいと思います。

 


実は、極端で分かりやすい方々よりむしろ恐いのは「ガブリエルは責められない、なぜなら洗脳されているから」みたいな意見の方ではないかと思ったりします。しかもこれは、あくまで私の印象でしかありませんが、わりと一般的な意見ではないかと思います。ちなみに当時は私もそんな感じに思っていましたので、以降は自分語り調を織り交ぜてみようと思います。

 


さて、英雄道をひた走るガブリエルを止め、ファルコはこう言います。

 

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-踏みにじられたからだ…

「よく言ってくれた」「なんとかガブリエルの洗脳を解いてくれ」といった感じで、ここのファルコは読者の代弁者になっていると思います。そしてここの会話はとても巧みだと思います。ファルコの言ったことに対してガブリエルはこんな返しをするのですが、

 

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-あんたは…
-それを…見たの?

このやり取りでファルコは言い返せなくなってしまいます。ガブリエルの言っていることはもっともですからね。でも当然これはブーメランになっていて「私は自分の目で見たものしか信じない」と言っている彼女が、続くセリフでは「島は悪魔」という見てもいないのに信じていることを語りだすわけです。そしてその矛盾を察した読者は「やはり洗脳は良くない」「教育は大事だ」と改めて考えるわけです。もとい、そういう仕掛けになっていると考えます。


ところがここで、代弁者ファルコはその矛盾にツッコミを入れてくれないんです。なぜだと思いますか?

 


いったん話を変えます。

 


「読者の視点」というのは、よく「神の視点」に例えられます。全てを見通せる客観的な視点くらいのニュアンスです。実際、読者は壁内編を見てきていることでガブリエルたちが見ていない事を知っています。だからエレンを通じて少しでもそれを知ったファルコに期待してしまいます。「洗脳を解いてくれ」「真実を教えてやってくれ」って、

 

「ガブリエル、客観的に見たら君が今やろうとしていることは間違っている。だから止まってくれ」と。

 

少なくとも私はそう思っていました。

 

ここでひとつだけ認識の修正、というか擦り合わせをさせていただこうと思います。

ガブリエルの状態を「洗脳されている」と表現するのはあまり適切ではないんじゃないかと思います。彼女は拘束や拷問を受けたりなにかの装置や薬などを使用されたわけでもなく、ただそう教えられただけです。つまり洗脳というよりは教育です。

もちろんそんな厳密な意味で使っているわけではないことも、最初からそう思っていた方が普通にいることも分かっているつもりです。でもこれはもの凄く大事なことだと思いますので。

 

 

そして先ほどの質問への私なりの答えなのですが、


私は、私が教えられただけの見たことも無いものを、たくさん信じていたんです。いや、今でもそうです。


だから代弁者たるファルコは言い返せないんです。


そして当時の私が思いっきり勘違いしていたことがあって、それはファルコがエレンの言葉を思い出すところなんですが、

 

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-海の外も 壁の中も 同じなんだ

私はこれを「エレンの言葉を聞いていたファルコは、マーレで教えられていたことが間違っていたことに気付いた」と解釈していたんです。マーレでは壁内は悪魔だと教えてるけど、エレンはどっちも同じだと言っている、だからマーレは間違っていると。でも全然違いました。

 

ファルコは「マーレが間違っていることに気付いた」のではないんです。それだったらガブリエルの矛盾にツッコむはずなんです。彼はなんとしてでも大好きなガブリエルを止めたかったわけですから。

そうではなく、彼は「エレンの言っていることも本当かどうかは分からない」ことに気付いたんですね。もちろん同時に「マーレの教えてることもどうか分からない」なぜなら「見てない」から、という疑問を抱いた状態に至ったんだと思います。ガブリエルの言葉によって、その直前に見てもいないのにエレンの言葉を鵜呑みにしていた自分自身に気が付いたんです。

 

それはむしろガブリエルが言った「見たものしか信じられない」ということの肯定でもあるんです。彼女の言っていることが正しいと認めたからこそツッコまないし、だからこそ彼は自分の目で見ようと行動したんです。自分が彼女以上に物事を見て真実を見極めることが鎧の巨人の継承者の資格として必要だし、それが彼女を守る術だからです。

ところが当時の私は、エレンの言っていることは正しいからファルコは見てもいないのに信じて、マーレの言っていることは見てないから間違っていると感じたという、わけのわからない矛盾だらけのことを信じて疑わなかったんです。視点をごちゃ混ぜにしてしまってるのもありますし、パラディは正しくてマーレは間違ってるみたいなバイアスもありそうですね。

 


ちなみにマーレで教えられていることをイェーガー翁とヴィリーの話なども参考に要約するとこんな感じになると思います。

エルディアは巨人の力を使って世界を支配した。ひどいこともたくさんした。だから奴らは悪魔だ。そして正義の国マーレが反旗を翻して島に追いやった。その際に置いて行かれたエルディア人どもも生かしてやるから感謝しろ。そしてあの悪党どもとは違うことを証明してみせろ。

煽動するような部分やレッテルを貼って人々に言い訳を与えている点はよくないのでしょうが、マーレやレベリオ民の視点から見れば大筋は「間違っている」とは言い切れない感じなんです。しかも「世界を滅ぼす危険性のある悪魔だ」というのが本当だったのは既にみなさんもご存知の通りです。もちろんそれはこういった考え方が悪魔を生み出した、つまり「マーレという人の想いが現実になった」という表現でもあると思いますが、いずれにせよ安直に「間違っている」と断じれるような代物ではないと思います。むしろ「マーレの言っていることが間違っていることを証明してみよう」と考えてみれば分かると思いますが、グリシャが用いたようなトンデモ理論を持ち出さない限りかなり困難です。

マーレ国においてマーレの視点で教育を施すことが間違っているとは言えないはずです。もしそれを洗脳と言うなら、私たちはみんな洗脳されていることになってしまうかもしれません。実際そういう部分もないとは言い切れませんが、なんにせよ自分が受けた教育は正しい「教育」でガブリエルが受けた教育は「洗脳」のようなものだから「間違っている」と断じてしまうのは、いささか滑稽にすぎるように思います。

大人になってから現在発行されている教科書を見る機会があったりすると気付いたりするんですが、自分が習ったこととは変わっていることがちらほら見つけられたりします。幸いにも(?)最近はさほど大きな変化は無かったようで些細なものしかありませんが、大幅な変更が起こらない保証なんて無いんです。歴史に限らず私たちは教えられたことを元に自分の考えとか常識というものを作り上げ、それを元にして世界や物事を見ているわけですが、その根幹となっているものが変わる可能性って普通にあるんです。そんな足元のおぼつかない「自分の常識」を、世界の常識か真理かなにかのように勘違いしてしまうんですね。

だからこう思ってしまいました。

 

「ガブリエル、客観的に見たら君が今やろうとしていることは間違っている。だから止まってくれ」と。

 

マーレの教えていることが彼らにとって必ずしも間違っていないとすれば、ガブリエルの言っていることや信じていることも間違っていないことになります。冒頭に書いた通り、彼女自身やレベリオの視点から見れば彼女のやっていることは英雄的行為以外の何物でもありません。その、何も間違ったことをしていないガブリエルという年端もいかない少女に対して「考えを改めろ」って強要していたんです。「私の常識」を一方的に押し付けていたんです。「客観的」とかなんとか、片腹おかしい感じです。

で、他人に自分の意見を押し付けるからには正当化する必要があるので、「悲劇の連鎖を食い止めるため」みたいな麗しいお題目を掲げるわけです。そのちょっと前に「ミカサきた」「アルミンきたー」なんつって喜んでいた自分を忘れて、なぜか少女にだけ悲劇の連鎖を食い止めるために自制することを要求してしまっていたんです。

自分は客観視していると信じて疑わないのに、もの凄くパラディに寄っているんです。そして自分は客観視していると信じて疑わないんです。


なのでこんな考えが首をもたげたりしてきます。

だって私は壁内編を「見て」いるから

確かに見ていたんですけどね、あれは作者から読者に与えられた教科書みたいなものかもしれません。読者はもちろんそれを事実だと信じて疑わないわけですけども、実はもの凄く限定的な「調査兵団の視点」というものしか見ていないのも事実です。クルーガーがなんか言ってましたよね。

でもそれでなにか全てを知ったかのように思ってしまって、自分は客観視できていると思い込みながら、実際には教科書の通りに調査兵団の視点に偏った意見を綺麗事で飾り立てながら述べてしまっていたわけです。

それは無自覚に自分の常識を「正義」として振るっていたということでもあるでしょう。無自覚なあたりが余計にたちが悪い。そしてこれは状況的に偶々ではあるかもしれませんが、大人よりも子供に責任を押し付けてしまっていたんです(もちろん作者は狙っていると思います。)


このしばらく後にガブリエルとカヤの会話でこんな話が出てきます(27巻109話)

 

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-お母さんは誰も殺していない!!

これも調査兵団、というかパラディ視点から見ていると、「少なくとも今の世代において先に仕掛けてきたのはマーレだ」という考えに陥りそうになってしまいます。

でも歴史っていうのは切っても切り離せなくて、カヤはマーレの襲撃があるまでは穏やかな暮らしをしていたと思われますが、ガブリエルやその両親は、彼ら自身は何も悪いことはしてなくても生まれた時から酷い立場に追いやられていたのも事実なんですよね。だからカヤが責任を感じろとかいう話ではなく、どちらも悪いと言えば悪いと言えるし、どちらも悪くないと言えば悪くないと言えてしまうような話なんです。マーレさんとエルディアさんの関係も同じことです。でも私たちは「客観的」と称しながらどちらかが悪いということを決めてしまいたくなる、白黒つけてしまいたくなる。それがまた争いの種となっていくのだと思います。

だからこそ(現在の相手の立場を)理解することを諦めないことが大事なんだろうと改めて思いますし、同時にファルコが見せてくれたように誰かの言っていることを鵜呑みにしないということ、疑問を持つということの大事さも感じたりするのです。そして前回の記事に付け加えるとするならば、自分自身も必ず偏っていると常々考えるべきではないかなとも思います。

分かりやすく暴言を吐いてる人なんてのは意外と害は無いんです。分かりやすいので社会はまともに取り合いませんから。でも客観的なつもりで実は片側に偏ってやんわりと否定する、同じようにみんな自分が客観的だと思いながら伝播していく。これって恐いことだと思いませんか?

 

 

 

さて、サーロインの話を全然してませんでしたが、実は今までのが本題のようなものになってしまってここからはおまけな感じです。看板に偽りがあってすみませんがサクッと早口でいきます。

 

少し前の記事で取り上げたように、エレンの意図というのは生きるために自らの意思を持って戦ってほしい、あるいは必ずしも戦うではないにしても自ら行動をして欲しいといった感じだろうと考えられます。だからこそみんながレベリオに来た時には少し喜ぶような節がありました。でもその後のミカサのセリフ、アルミンの表情、兵長の態度を見るにつけどうもそうではないらしいと分かり始め、そしておそらくハンジの言葉がトドメになっていると思います。

 

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-お望み通り こちらは選択の余地無しだよ

エレンとしてはみんなが自分の意思で戦うことをして欲しくて選択肢を与えたつもりだったのに、彼らはそう受け止めてはいなかった。エレンが特別な力を持っているがために仲間たちにとってエレンは失ってはならない存在になってしまっていたわけですね。義務です義務。エレンが一人でもやるつもりだったというのは彼の言動を考えればその通りでしょうから、本人は自分を人質にするつもりなど無かったと考えられます。だからこれはおそらく直前のジークのセリフが暗喩のようにかかっていて、エレンにとっての「誤算」だったということなのだと思います。

で、サの話に移りますが、以前の記事で書いた通りサは訓練兵団時代のユミルやヒストリアとの交流をきっかけに、カヤの村での出来事の最中に気付きを得ました。さらに親の承認も得て自立を果しています。以降、他人の目を気にして方言を隠すことをしなくなったり(社会のルールを気にしすぎて無駄に本来の自分を殺すことをしない、)それでいて仲間やニコロともしっかり関係を築いたり(社会や他者という外部との距離を適切に取っている。仲間だけじゃないというのもポイント、)雑な言い方ではありますが104期の中でも大人の階段を一番早く上っていると思います。

サは元々エレンと同じ感じに「個」に寄った人で、教官の前で芋を食うというのも「社会のルールに合わせることよりも自分の欲求を優先する」という表現であると考えられます。そしてこれもエレンと似ているのですが、社会に馴染んだ者(読者も含め)からそれを見ると異様に見えるわけです。エレンと同じく異端なんです。そんな彼女が、だんだんと社会との付き合い方を身に付けて、それでいて方言などといった個を見失わずに成長したわけです。

そこでサーロインなんですが、当時の訓練兵たちが意を決して調査兵団を選ぶに至った理由はそれぞれでしょうが、だいたいは様々なものに背中を押されていると思います。本当は戦いたくないけど巨人と戦わなくちゃいけなくて、自分がやらなきゃいけないとか、みんなが行くならとか、誰かの意志に報いるとか、あるいは正義みたいな概念もあるかもしれません。そんな中で一番バカに見えたサが一番明確な目的意識を持っていたんです。土地を奪還して牛や馬を増やし、食べるに困らない状態にする。それが目的であって巨人を倒すのはあくまでその手段なんです。そして彼女はその目的に対しての行動を選択していたということです。もちろんサにも背中を押されていた部分が無かったとは言い切れませんけどね。

そして前回の記事で書かなかったんですが、彼女も例外の一人なんです。彼女は「死にたくない」とかではなく、最後の最後までその目的に向かっていたんです。だから最期の言葉がサーロインなんです。

当然このセリフを思い出します(24巻97話)

 

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-ただし 自分で自分の背中を押した奴の見る地獄は別だ
-その地獄の先にある何かを見ている
-それは希望かもしれないし
-さらなる地獄かもしれない

エレンから見てサはまさに「自分で自分の背中を押した奴」だろうと思うんです。で、言うなればその末路を目の当りにしたようなものでもあります。あるいは背中を押されてる者より真っ先に死んでしまうあたりにも皮肉めいたものを感じていたかもしれません。

そう考えると自分がファルコに言ってたことに対する自嘲めいたニュアンスも浮かび上がってくるように思います。そして先の「誤算」の件も合わせて、よりいっそう周囲をどうこうしようとするのではなく、自分は自分の行動をするだけだと「戦え」と自らを鼓舞しながら進んでいったのが納得できるように思います。まぁそれでもアルミンとミカサには思うところがあったのでしょうけど。


で、こうやって考えていくと恐ろしいのは、おそらくサはあの場面でジャンやコニーが死んだとしてもエレンのことを客観視できてしまうんじゃないかと思うんです。そしてそれを仲間に伝えてしまう。だからサはあそこで死ななければならなかったんだろなぁと思えてしまうんですね。そしてジャンやコニー、調査兵団の客観性を破壊する必要があったと。もちろんこれにも裏があって、6名の戦死者が出ようがそこまでではなかったジャンやコニー、そして読者。それから民衆がたくさん死んでもなんとも感じなかった読者に対して、大好きなサを殺すことで一変してしまう人間の不条理な偏り方を演出しているわけですよね。

それと少し皮肉めいているのはロボフさんとサという、子供を撃たなかった二人が死んでいること。逆に責務に忠実に子供でも殺そうとしたジャンは命拾いしています。そして偶然にも殺せなかったことで生き残ったジャンが、今度は子供を殺すことを拒否するのも面白いですね。ちなみにこれを大きな流れで見てかっこよく言うと、彼らの子供を殺さないという選択が現在の展開を生み出したという感じになります。もし殺してしまっていたら、英雄たちはもう終わっていたかもしれませんよね。うーん美しい。今の展開はサとロボフさんの心臓が捧げられることなしにはあり得なかったと。あくまでかっこよく言えば、ですけどね。もしそれを言うならサネスがエルヴィンの父をころ・・ゴホンゴホン

 

それとこの一話で個人的に好きなのはこのセリフです。

 

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-今は勝てなくても…
-みんなが私の思いを継いでくれるでしょ?

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-ジーク戦士長が遺した意志は同胞が引き継ぐ!!

王道物語ではとっても美しく描かれる「誰かの意志を継ぐ」とか「想いを託す」みたいなカッコイイやつです。それが敵であるガブリエルが言うと、なんかおぞましいようなちょっと頭おかしいような感じに聞こえてくる感じ。まぁみなさんがどう感じたかは分かりませんが。もちろんこれは最近のB面展開でも描かれていましたし、このセリフは当然「エレンは海を見てくれる」と重なってもいるわけで、徹底的に両面を描いてくるこのあたりが素敵だなと思います。

もちろん、科学技術にしろ文化にしろ人間そのものにしろ、全てはその「継承」によって積み上げられてきたものですから、ただ否定できるものではありません。だけれどもそれは時に枷にも呪いにもなったりするわけです。王道物語だとキレイな部分しか描かれないでしょうが。

 

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それに関連して仲良くじゃれあってるこの二人。兵長は最近悩んでましたよね、なんで俺はこのミッションを達成できないんだって。これが誰かの残した意志が枷になっている例だと思います。個人的な予想では兵長ジークを許すことになる、というかその必要があると思っています。なぜかと言うと彼はこの事に固執して客観性を失っている部分があるからです。しかもこれ、やっぱり思い込みなんです。兵長が勝手に「ヤツの意志を継ぐ」みたいに思い込んでいるだけなんです。

というのも、エルヴィンはそんな命令を下してなんかいないからです。

あの時エルヴィンがした命令は、戦術的な目標を倒すことで絶望的な状況を打開し、最悪でもエレンの帰還、付け加えてリヴァイや他の生存者が一人でも多く帰還すること、もしくは上手く討ち取れれば獣を奪った上に敵の撤退を呼び込めるかもしれないという一発逆転の策です。

目的は全く別のところに明確にあって、あくまでそのターゲットとして敵のリーダーである獣の巨人を倒せと命令してるんです。別にジーク・イェーガーが憎たらしいからあいつを殺せって命令したわけじゃないんです。もし車力が撃手でリーダーだったら命令は車力を殺せだったはずです。そして、当時の作戦目的は既に達成しているからもはや獣の巨人とかジーク個人はどうでもいいんです。

でも、兵長はまさにジーク・イェーガーが憎たらしいから殺そうとしてますよね。それがヤツの命令だからと理由を付けて。これは想いを受け継ぐみたいなのが悪い方に作用しているように感じます。

ちなみに兵長が「誓った」と言い出したエピソードは「約束」。矜持、罪人達あたりと並べて、人を縛り付けることもあるもの、背中を押してしまうことになるものの一端ということなんだろうと思います。おそらく英雄たちはその想いのリレーによってひとつの結果を掴み取ることになると思いますが、その一方でそれが美しいだけではないんだという感じじゃないかと思いますが、どうでしょうね。想いと想いのぶつかり合いみたいなところもあるかもしれません。

 


あと一つだけ。

 

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-君は我々を信頼し…
-我々は君への信頼を失った

「信頼」という言葉。これも一般的に美しく使われている言葉のように思います。

エレンのことを言っている方に関しては、エレンはすでに巨大樹の森で「信じる」という概念は崩れ去ってると思いますので、ハンジの言っていることが的確とは思えませんがまぁそれはいいとして(ハンジも自分の常識でエレンの意図を考えてるわけです。)

 

我々は信頼を失った。

 

信頼ってなんでしょうね。


前後の彼らの態度なんかから考えてみるとこんな感じでしょうか。

君を信頼していた  → 今まで君の言動は好意的に受け止めてた
君への信頼を失った → これから君の言動は悪意と疑いを持って受け止めるよ

あながち的外れではない気がします・・ということは「偏って見ます」という宣言? あるいはその状態ということ?

 

うーん、信頼ってなんでしょうね。

 

 

 

次回に続きます。

 

 

本日もご覧いただきありがとうございました。

 

そういえばアニメの放送予定ってどうなってるんでしょう。今のペースでぶっ通しでいくなら最終巻発売とそれほど変わらない頃に最終話になりそうですが。それともインターバルが公表されてたり、現在の枠の次の作品が判明してたりするんでしょうか。もしなにかご存知の方いたら教えてください。


written: 6th Feb 2021
updated: none