進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

051 物語の考察 目的フロー

みなさんこんにちは。

 

 

今回は、前回のヴィリー・タイバーの話の続き、または派生のような考察です。

 

!!閲覧注意!!
この記事は重大なネタバレにつながることに言及していますので、閲覧にはくれぐれもご注意ください。知らないでいたほうが作品を楽しめる可能性は高いです。作者もそれを意図していると思います。ただし、今までの閲覧注意記事を全て読んでくださってる方は大丈夫だと思います。以前に書いたこととかぶる事柄です。

 

 

 

この記事は最新話である111話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。 

 

 

 

 

 

 

[目的フロー]

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050 世界を知らない では、ヴィリー・タイバーの真の目的はマーレの再生であり、そのために軍幹部の殲滅が必要だったと考察しました。その際は触れませんでしたが、こんな疑問も生まれてきます。

幹部を殺したところで人が入れ替わるだけで、結局また同じようになるのではないか、と。

 

作中では「順番に役割がまわる」ことが描かれています(27巻109話)

 

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-こういう役には多分順番がある…
-役を降りても…
-誰かがすぐに代わりを演じ始める

 

ところで、ヴィリーは現状を招いた原因として、マガトにこう言っていました(24巻97話)

 

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-だがマーレが軍国主義の道を歩んだのは
-あくまでマーレが選んだことだ

マーレ人がそういう性向なのであれば、ヴィリーがやろうとしていたことは一時しのぎにしかならないでしょう。やがて役割が回ってきたマーレ人が軍国主義を再開する可能性は充分にあると考えられます。

 

ただ、ある一つの伏線からは、ヴィリーの真の狙いが読み取れるように思います。そしておそらく、彼はかなりの覚悟を持ってあることを決断し、自らの命と引き換えにやり遂げたのではないか、と考えられるのです。

 

 

ここからかなり重大なネタバレになる可能性がありますので、ご注意の程、よろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 

100話の冒頭、ヴィリーとマガトは馬車内で密談をしていました。少し丁寧に見ていきます(以下、次の注記まで25巻100話から引用)

 

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-狙われるとしたら演説の最中だろうか?
-断言できませんがその可能性が最も高いでしょう

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-ならば軍幹部は端の「特等席」へ

二人は宣戦布告劇場の話をしています。その中でヴィリーは軍幹部の殲滅という明確な意図があり、配席を指示していることが分かります。少し話が前後しますが、

 

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-このままではあなたは死にます

マガトは襲撃を受ければヴィリーも死ぬ可能性が念頭にあり、それを踏まえて再三の確認をしています。

 

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-…本当によろしいのですか?


それに対しヴィリーは、

 

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-…軍の内部も例外では ない
-敵を炙り出すためならケツに火をつけてやる

あれこれ理屈を付けながら軍内に潜む内通者を殺す必要性を説いていきます。どうしても幹部を殺す方向へ持っていきたい感じが伝わってきます。

 

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-…しかし 敵を釣るにしても
-あまりにもエサが大きい

後の会話を知っていれば、マガトが言う大きなエサとはヴィリーのことだと分かります。ただし、ヴィリーの視点から会話の流れを見ると、幹部のことを言っているように聞こえるかもしれません。

 

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-無能な幹部などくれてやればいい

ヴィリーは幹部の話をしているつもりですから、無能な幹部が死んで有能なマガトが実権を持ち、敵の炙り出しにもなって一石二鳥じゃないか、ということですね。

 

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-…しかし 大勢死にます

襲撃を受ければ死者がたくさん出る、幹部もたくさん死ぬでしょう。そしてやっぱり言外に「あなたも死にます」を匂わせています。そして・・

 

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-その大半はエルディア人だ!!
-悪魔の末裔なんだろ⁉

ヴィリーは苛立ちを抑えきれないかのように言いました。彼から見ると、マガトは幹部殺害に二の足を踏んでいるように見えるかもしれません。ヴィリーは幹部殺しをどうしても押し通したい感じですので、思わず言葉を荒げてしまったと考えられます。その後、落ち着いてから命令として言っていることからも、とにかく幹部を殺すことで話を終わらせたい感じが伝わってきます。

 

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-あなたが今までやっていたことをやればいい…

 

 

さて、この会話ですが、どうも噛み合っていません。

 

まず前提として一点述べます。確かに襲撃を受ければ周囲の民衆も含めて大勢死ぬのは予測可能な事実です。エレンが実際にやったのを見ても、「建物の住民」が多数死んだことは印象に残っていますよね。

ところで、あの会場にいたと思われるのは、以下のような人たちです。

・諸外国の要人、報道関係
・マーレ軍幹部将校
・名誉マーレ人

外国要人の感情を考えたら、末席であっても一般エルディア人が招かれることは考えられません。席とは地位を表すものです。また、名誉マーレ人はエルディア人ですが、そんなにたくさんいるとも思えません。

 

あれ?大半のエルディア人ってどこにいるんでしょう。

 

あの会話ではヴィリーはずっと幹部の話をしていました。マガトはそれにヴィリーも含めて発言しています。その流れで、ヴィリーは興奮して言った後、ひと時の間がありました。

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そしてその後、早口で取り繕うかのように、いろいろ説明を付けながらこう言っています。

 

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-…軍服を着てようが着てまいが同じ命だろ?

つまり、マガトの大勢ってのは会場周辺のエルディア人のこと、といった感じになります。それまでずっと幹部の話をしていたのに、急に会場の外を気にし始めたのでしょうか。

 


もはや蛇足でしょうけど、一応ここからは2つの可能性が考えられます。

 

ひとつは、ヴィリーが会話の流れを読めない残念な人である可能性。

もう一つは、どうしても幹部を殺す方向に持っていきたいのに四の五の言っているマガトに苛ついて・・


思わず、言ってはいけないことを言ってしまった可能性。

 


あとは100話を読み返してみなさんがご判断ください。私は後者だと思っています。すると、ヴィリーが思わず口走ってしまったことは、こういう意味だと考えられます。


-(軍幹部の)大半はエルディア人だ


そして、これこそがヴィリーが幹部を殺したがっていた最大の理由だと思います。

 

 


さて、奴隷の身分であるエルディア人の兵士が、幹部に取り立てられることはまずあり得ないでしょう。つまり、幹部の大半を占めるそのエルディア人たちは、フクロウのように血液検査を偽るなどしてマーレ人に成りすましていると考えられます。想像するに、100年の時間をかけて徐々に入り込んでいき、ほぼ軍の中枢を占めてしまったという感じでしょうか。マーレ人が軍に関心が薄い(そう誘導されている?)こととも繋がっている感じがします。

 

ただ、少し腑に落ちない点があります。

というのも、マーレが軍国主義を推し進めることによって、結果エルディア人の世界における立場はますます悪くなっているわけです。レベリオのエルディア人の地位が良くなる兆しも見られません。この幹部たちはいったい何を考えているのでしょう。

 


ここからはあくまで推測でしかありませんが、おそらくこんな感じではないかと思います。

 

クルーガーはかつてこう言っていました(22巻88話)

 

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-だが俺が実際にやったことは
-救うべき同胞の指を詰め…時には皮を剥ぎ
-ここから蹴落とし巨人に変えることだ
-それに徹した結果
-今日まで正体を暴かれることはなかった

エルディアの復興という目的のため、心を鬼にして仲間を殺してきたと。それを徹底することで自分のマーレ人としての信用をより強固にしてきた、ということでした。それも全てはエルディア人みんなのためです。全体として見れば肉を切らせてなんとやらで、全てはエルディアの復興のためでした。

 

ところで最近、イェレナはこう言っていました(26巻106話)

 

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-この大国に抗う気概は失われつつある状態にありました

全てはエルディア復興のためだったのですが・・100年という時間が過ぎれば代替わりがあります。当然、今生きている世代はエルディア帝国があった時代を知りません。あくまで聞いた話でしかないわけです。気概も薄れようというものです。

 

おそらくその過程で、目的と手段の逆転、いわゆる自己目的化が起こったと推測します。人間の頭はすぐこれをやりますので、心当たりがある方も多いのではないでしょうか。効率化の過程で錯誤を起こしてしまう感じだと私は理解していますが。

お金に例えるのが一番分かりやすいかもしれません。

みんなお金が欲しいですよね。で、なぜお金が欲しいのかと問えば、ほとんどの人は生活や欲しい物(物品、食、経験、贅沢など)のため、といった答えを持っているのではないかと思います。それを大まかに総括すると、幸せに生きるためということですよね。幸せに生きる目的のためにお金という手段が必要で、お金を得る手段として仕事をしたりするわけです。ところがいつしかお金を得ることばかりに注意が向くようになって、家族や友人をないがしろにしてしまうことが多々あります。場合によっては良心を偽って悪事に手を染めてしまったりもしますよね。本末転倒、というやつです。

幸せに生きる(目的)→お金(手段)→仕事(手段の手段)

だったものが、

お金(目的)→仕事(手段)     幸せ(?)

こんな感じになっているわけです。さらに仕事自体が目的になってしまうこともあります(それも一つの幸せと言えなくはないですが)。

 

話変わって、学校っていうのは本来、知識を拡げに行くためのものでした。でも今は就職のために行くほうが多いですよね。勉強することよりも入学して卒業するという手段が主目的になってしまっています。そのために勉強するみたいな。

そんな時代や環境の中で育った人が親になると、当然「とにかく学校は出るだけ出ておけ、お金は稼いでおけ」って子供に教えたりするわけです。こうして世代間を経るうちに、本来の目的は消えてなくなり手段が完全に目的として固まっていきます。

 

マーレに対抗するために軍に潜伏し軍内での地位を守り高める、そんな偽マーレ人たちはやがて、その地位を守ることが主目的になってしまったのではないかと思います。エルディアの復興はもはや建前のようなもので、まずは地位を保たなければと優先順位を置いている感じです。その地位を守るためにはエルディア人を痛めつけることが有効ですので、それをより推し進めていきます。さらに面白いことに、その地位を守るためにはマーレ国の存在が不可欠ですから、自ずとマーレを守ることに邁進してしまいそうです。巨人を使って世界を組み敷けば、一石二鳥ですね。そして巨人という他国にはない優位性を保持するためには、技術の進歩には消極的にならざるを得ません。

 

①エルディア人のため→地位を確保→エルディア人迫害
②エルディア人のため→地位を捨てて他の手段
 
③地位の確保のため→エルディア人迫害

 

本来の目的がしっかりと残っていれば、①と②が並列で存在し、自分たちの地位を守るという手段がエルディア人の害になるなら、そもそもの目的に反しますから②のような異なる手段を選ぶはずなんです。でも、③のように地位の確保が目的になってしまっていると、そこは変えられないわけです。じゃあエルディア人を迫害という手段はどうなるかというと、変える必要が無くなります。もはや目的に反していませんし、目的に対して最も効率の良い手段であることは間違いないのですから。

そんな時代や環境の被害者と言えるのが、ガビたちなのでしょう。いや、ライナーたちの世代や、カリナおばさんやグリシャだって含めてしまっていいのかもしれません。結局のところ、エルディア人がエルディア人を迫害しながら、エルディア人と戦っているということになります。もはやマーレでさえ巻き込まれただけな感じがありますね。イェレナやエレンのマーレ人への態度にも納得がいくかもしれません。

 

この手段の目的化が世代間で受け継がれると書きましたが、実は「まわっている」感じもあります。お金にしろ学校にしろ、最近本来の目的が取り沙汰されることが多くなっているような気がしています。どこかで気付くようになっているのかもしれません。「あれ?何のためにやっているんだろう」って。

そして、ガビは”目的”をしっかりと持っているかもしれません(26巻105話)

 

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-だからこそ私が頑張って…
-エルディア人は良い人だと…世界に証明したかったし
-いつか…この腕章が必要なくなる時が来ると……
-そう…信じていたから頑張ってこれたのに

彼女は子供の頃から歪んだ”手段”を教育されてきたからあのような言動をしています。でも、この”エルディア人のため”という目的さえ見失わなければ手段は変えられるはずです。一時的に復讐が目的になりかけていましたが、おそらくサシャの両親によってストップがかかったと思います。そう考えると、パラディの”良い人を前提とした考え方”が彼女にきっかけを与えた、と捉えることができるのかもしれません。そして、ガビが目的をしっかり持っている限り、彼女は”エルディア人のために”行動をしていく可能性が高いと考えられるように思います。

 

 

 

ヴィリーはといえば、当主になった時に初めてそんな歪な状態を知ったのでしょう。エルディア人というものに嫌悪を覚え、全てを投げだしたくなったのも分かる気がします。でも彼は最後に、震えながらも覚悟を決めてそれを断ちにいったということだと思います。エレンたちとは目的が相容れないため敵として散りましたが、それはエルディア人にとって非常に重要な一助だったのではないかと思います。

もちろん、もう一方のエレンも重要な一助であったことは間違いありません。そして、エレンがそこに辿り着いた経緯を遡れば、やはりクルーガーのあの一手が始まりだったのかもしれないと思うのです(22巻89話)

 

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・・で、それをさらに遡ると、「いってらっしゃい」ってことになるのかなと。


やっぱりこれは「進撃の巨人」の物語なんですね。

 

 

 

 

-余談-

 

この記事を書いてて改めて感じたのが作者のストーリーテリングの巧みさです。

今回、ヴィリーが真相を語っているとして取り上げた100話冒頭の会話ですが、言われてみれば確かに変な会話だ、と感じられた方も多いのではないでしょうか。おそらくあの部分だけを何も知らない人に読ませたら、最初から違和感を覚える可能性があると思うのです。

でも「進撃」の読者は、ひとつ前の99話を読んでいます。そこではライナーを座らせるためにエレンに「建物の住民」のことを言わせています。そして件の会話を挟んで、100話の最後でエレンがそれを突き破って巨人化していますから、読者は意識がそこに行ってしまい、ヴィリーの苦し紛れの言い訳をなんとなく結び付けてしまうのだと思います。確かに大勢の軍服を着てない人が死んでる、って。

あんまりこういう分析をするのはオススメしませんが、作者はあなたにバイアスをかけてきてますよって実例として、こっそり書いてみました。悪しからず。

 

-余談おわり-

 

 


本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 

 
written: 25th Nov 2018
updated: none