050 物語の考察 世界を知らない
みなさんこんにちは。
情熱大陸、ご覧になりましたか? とても興味深い内容でした、とか言いながら空気を読まずに普通の考察を垂れ流します。今回は世界ってなんぞやといったことについてです。
この記事は最新話である111話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。
※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。
[世界を知らない]
マーレ編で描かれているパラディ島は、”ゆるい・あまい・おそい"と、アホの子の烙印を押されるに至る言動を繰り返していました。それは現実味が無いというような批評にさらされ、ご都合主義だという意見もよく見られます。私もそのゆるさは度々指摘してきました。
これ、ある意味リアルな描写なのではないかと今は思っています。おそらくそれは「世界を知らない」ことの表現ですから。
4年ほど島で過ごしたイェレナはこう言っています(27巻110話)
-仕方のないことですが…
-あなた方は世界を知らない
彼女の論調は、世界を知らないのだから遅かったりするのは仕方がない、けれども・・という感じでしたね。イェレナにそう言わしめたモノとは一体何なのでしょうか。
047 さすがピークちゃん では、ジークとピークちゃんが以前から通じてたんじゃないかと書きましたが、実はこれ、さほど意味は無いかもしれません。というのも、ジークと以前から通じていようがいまいが裏切られたことに変わりはありません。何も知らない人を代表するポルコも、裏切られたことに反感を持っているからです。
ただし、あの仮説通りだったとすると一つ、重要な事柄が見えてきます。
戦士隊としての表の顔を持ちながらマーレを欺く思想を持つ、というのは言ってみればマーレ対エルディア人という敵対関係のようなものです。ところがピークちゃんはジークに裏切られたとみるや、その敵だったマーレに組するようなことをしています。共通の敵があれば手を組む、敵の敵は味方、そんな言葉を地で行くようなことをしているのです。
今までの進撃では、その概念をやんわり否定するようなセリフがありました(3巻12話、16巻63話)
-もし…人類以外の強大な敵が現れたら
-人類は一丸となり争い事をやめるだろうと…
-欠伸が出ます…
-ワシら革命直後のお仲間同士でさえこの有り様じゃ…
確かに現在のパラディ島を見れば、とてもじゃないけど一つになったとは言い難く、ピクシスの言うことは真理だと思います。その反面、巨人の駆逐や王政の転覆が様々な勢力の協力によって成し遂げられたことも事実です。その各勢力の代表がザックレー、ピクシス、エルヴィン、ナイルでした。
彼らがもともと敵だったと言うのは少し語弊がありますが、目的がそれぞれ異なっていたのは間違いありません。ムカつきを解消したい、多くの人類を救いたい、世界の謎を解き明かしたい、家族を守りたい、そんな目的のバラバラな彼らを結び付けたものは何かと言えば、手段の一致だろうと考えられます。要するに、それぞれの目的を達成するために、王政を打倒することが都合が良いという共通点があったのです。
極端な言い方をすると、彼らはたまたま一致したその手段を一緒にやっただけにすぎません。だから、それが終わったらまたバラバラになってしまったんでしょう。王政の転覆という、歴史に残るであろう事件が起こった裏側は、そんなものでしかなかったのです。
そして同様に、また新たな歴史が紡がれたようです。
それがヴィリー・タイバーとエレンやジークに見られる関係性です。
個人的に、ヴィリーの立ち位置はエレンよりよっぽど分かりにくく感じていました。彼はマガトを従える形で旧マーレ体制に反旗を翻します。じゃあエレンたちと結託していたかと言えば、そうでもないようでした。一体何がしたかったのか。”手段の一致”を念頭に置くことで、それがはっきりと見えてきました。
まずは思い出してください。マーレ軍幹部の殲滅についてです。
あれはエレンが”やった”のですが、”やらされた”、もしくは”させてもらった”感じもありましたよね(25巻100話、24巻98話)
-ならば軍幹部は端の「特等席」へ
-できるだけ一区間にまとめておくように
-おめでとう元帥殿
-軍はあなたのものだ
ヴィリーは、確とした殺意をもって幹部の配席を指示しています。当然、情報が漏れるのを見越してのことでしょう。すなわち幹部の殺害はヴィリーの思惑通りであり、エレンはそれに乗っかった形になっています。するとやはり、エレンとヴィリーは通じていたんじゃないか、という推測が生まれてくるわけですが(25巻102話)
-硬質化で何でも器用に作っちまうってわけか…
-わかってきたぞ
戦鎚に対しては、素で試行錯誤しながら攻略しています。仲間だったなら情報を共有して、獣の巨人のようにプロレスをすれば良かったはずです。一応、戦鎚が寸止めしてた可能性を完全に否定することはできませんが、マガトとマーレ兵に殺意があったことは間違いありません。もし対巨人砲徹甲弾がうなじに命中してたらエレンは死んでいましたし、マーレ兵にわざとはずそうという言動は見られません。これらから、ヴィリーもエレンを殺そうとしていた、あるいは死んでも構わなかったと言えると思います。
つまり仲間であったとは考えにくいわけです。そしてもう一つ、あの場でのパラディ側の勝利はヴィリーの想定外だった可能性が高いことも言えると思います。
ではヴィリーの狙いはなんだったのかを考えていくと、結局は”マーレ軍幹部の殲滅”に行き着くように思います。というのも、彼は幹部を殺す気満々で舞台の段取りをしていますが、裏の顔とはいえマーレ国のトップですよね。なんで国のトップがそんなメンドクサイことをしているのか、その理由に答えがありました。
ヴィリーが幹部を排除するのは非常に困難です。
もしヴィリーが幹部をまとめて粛清しようとすると、おそらく何がしかの反乱が起こると思います。当たり前ですが切られる側だって黙って権力を手放すはずがありません。彼らは軍を掌握しているわけですから、むしろタイバー家を潰す方向に動くのが自然だと思います。もしくは、議会などを使って少しずつ解任に追い込んだところで、息のかかった者が残っていれば元の木阿弥です。そこに、一つだけとても良い方法があります。
誰かにまとめて殺してもらえばいいんです。
ただこちらも実際面で問題があります。世界一の超大国であるマーレの軍幹部を殲滅できる国は、地球上におそらく存在しないことです。・・とある、国のような国でないような存在を除いては。
考えすぎだと思われるかもしれません。でもあの時、マーレからは無謀に見える襲撃をパラディがしてくれなければ、ヴィリーの画策した幹部の粛清は実現しませんでした。そして、パラディを悪魔に仕立てるのに幹部が死ぬ必要は全くないはずです。海外の要人や兵士などが少し殺されれば、現状と変わらずに世界はパラディを悪と見なしたことでしょう。
-
幹部を殺すためには、パラディを悪魔にする手段は有効です。
マーレを正義に仕立てるために、パラディを悪魔にする手段は有効です。
パラディを悪魔に仕立てるためには、幹部を殺す手段は・・特に必要ありません。
-
どちらがヴィリーの目的だったかが見えてくるのではないでしょうか。
つまりパラディは悪魔だから宣戦布告されたのではなく、ヴィリーが幹部を殺すため、そしてマーレを正義とするために一石二鳥で都合が良かったから悪魔に仕立て上げられただけ、という可能性が高いです。おそらくヴィリーの内心はこのような感じだったのではないでしょうか(19巻78話)
-君達は誰も悪くないし
-悪魔なんかじゃないよ
-でも全員死ななきゃならない
-もうダメなんだ
私たちのために死んでくれ、といった感じかもしれません。ヴィリーはこうも言っていました(24巻97話)
-マーレには再びヘーロスが必要なのだ
ヘーロスが実在するかどうかは分かりませんし、どちらでもいいような気がします。ヘーロスとは何なのかと考えてみると、象徴だと思います。巨人大戦後、新たに生まれたマーレ国が世界と肩を並べリードしていく上で、国家としての正義を象徴するもの、言わば正当性の擬人化ではないかと思います。同時にエルディア(巨人)の支配からの脱却を象徴しているとも言えるかもしれません。
マーレ軍が軍国主義に邁進していたことを踏まえれば、その幹部の粛清とは改革を意味すると思います。マーレが改めて正義の国として生まれ変わり、その実権はマガトのような”まともな”マーレ人に返還される、ということです。それは世界にとっても巨人による支配からの脱却だという見方もできるかもしれません。おそらくこれがヴィリーの目的だったのではないかと思います。それは145代が作った体制への回帰とも捉えらえます。やはり「タイバーの務め」とはそういうことだったのでしょう。
こうしてヴィリーの立ち位置がはっきりしてくると、面白い構造が見えてきます。
あの襲撃を企てていたのは、ジーク、エレン、そしてヴィリーということになります。ただし、目的は三者三様です。あくまでマーレ軍幹部を叩くという手段が一致しただけです。兵団とマガトを付け加えて五者五様と言ってもいいかもしれません(マガトはヴィリーとほぼ一致してはいますが、ヴィリーは全てをマガトに話していないので)。
ヴィリー マーレを刷新するため、ひいては体制の維持のため
マガト マーレを守るために腐敗を正すため
兵団 島を守るために始祖の巨人を守るため
エレン 島を守るためにジークを連れ出し時間を稼ぐため
ジーク エルディア人と世界の平和のため?
冒頭に、王政転覆はそれぞれ目的は異なるけど手段の一致によって事を成したと書きました。レベリオ襲撃も同じような構図になっていることが分かります。あの場でマーレ軍と幹部を叩くという一点において、利害の一致が生まれていたわけです。実はここから、ジークとエレンの目的が異なることも推測できますが、それはまたの機会に。
言うまでもありませんが、彼らは敵対関係でもあるわけです。それでも手段が一致した部分に関しては一丸となっていることになります。共通の敵がいれば手を結ぶ、敵の敵は味方、つまり目的のためなら手段を選ばないということでもあります。一見、利己的でズルく見えるかもしれません。でも、よくよく考えてみれば当たり前のことです。他人が何を考えているかを完璧に分かる人は誰一人としていません。つまり行動の全ては本人の主観だけによるものです。それぞれが都合の良いように考え、解釈し、それに従って行動しているだけのことです。わざわざ自分が損をするような行動をする人はいないはずです(結果的に損になってしまうことは多々ありますが)。
要するに、人間は利己でしかないのです。そして、敵とか味方という捉え方がそもそも間違っているのでしょう。それぞれに目的があって、手段が重なった時に同じ行動をするだけなんです。その重なり方が幾重にも、つまり多くの人で共通すればするほど、それこそ歴史を動かすような大きなエネルギーが生まれるのだと思います。
このことを物語上で捉えやすく言うと、こんな感じです。
・目的が異なっても手段が一致すれば人々は団結する
・目的が同じでも手段が異なると人々は決裂する
ハンジとフロックは、壁内のみんなを救うという同じ目的を持っているにも関わらず、手段の違いによって分裂しています。兵団とエレンの目的も同様で、根本では一致しているはずですが、手段の違いから現在決裂しかけています。ジークとピークちゃんも今は手段の相違が明らかになって決裂しました。かつてのエレンとアルミンは海へ行くという手段が同じでしたが、目的が異なっていました。手段を共有していた頃は、関係も良好でしたよね。例を挙げていくとキリが無いので止めますが、この人間の性質が至るところに描かれています。
現状は、エレン、ジーク、イェレナ、フロックたち、そしてもしかするとアズマビトにも、手段の一致が生まれつつあるのかもしれませんし、そうではないかもしれません。反面、兵団と戦士隊(≒マーレ)にも手段の一致が生まれるかもしれません。実はこれこそが、「世界を知る」ことに繋がるのではないかと考えています。おそらくそれが世界の、あるいは人間社会の常識ということなんだと思います。
パラディはそれを「知らない」のです。
パラディのゆるさに話を戻しましょう(27巻110話)
当然のことながら、人は隙あらばサボります。ガビファルコの脱獄が異常に簡単だったこともおそらく同様の理由です。以前、アニはこんなことを言っていました(8巻31話)
-他人より自分の利益を優先させ
-周りがズルをすれば一緒に流される
それは悪だと認めつつも、むしろそれが普通じゃないかと言っていました(8巻31話)
-あんたの言うように本来人間が皆 良い人であれば
-この組織はこんなに腐ってないでしょ?
人間の本質は利己的で、悪い人だという理解です。それを受けてマルロは(8巻31話)
-全員が正しい人であることを前提とした仕組みに問題があるなら
-変わるべきは人じゃなくて…
-仕組み…の方…なのか…?
正しい人、良い人を前提とした仕組みが間違っているのかも、と思い至っています。実はこのシーンは外の世界の常識を知るアニと、壁内の常識しか知らないマルロが対照になっていると思います。彼らの会話によれば、パラディは国の仕組みからして、正しい人であることを前提とした仕組みになっているということです。
正しい人を前提とした仕組みってなんなの、という疑問が湧いてくるかもしれません。
これは現実の社会を考えてみると分かりやすいです。現在、多くの国々が採用している仕組みとして、三権分立ってありますよね。司法・立法・行政を分離させましょうって。これは、悪い人を前提とした仕組みです。
要するに、権力を一箇所に集中させると悪いことをする奴が出てくるから、権力を分散させて相互監視させましょう。仕組みによって悪いことをしづらくしましょう、ということです。
つまり、”人は悪いことをする”という理解です。
核ミサイルのボタンが一人では押せないのも同じですね。長い歴史の末に学んだのか、現代の社会は”人は悪いことをする”という前提に立った仕組みがほとんどなのです。というか実は当たり前のことなんです。”悪いこと”と書くからネガティブなイメージがあるのですが、そもそもこの世界に絶対的に正しいとか悪いというのは存在しません。
私たちが正しいとか悪いと言っているのは、法律などでそう決められているから言っているだけです。法律というのは仲間内での決まり事のようなものですから、場所が変われば正義も悪も変わります。ちょうど話題になった良い例が大麻ですね。日本では悪いことですが、カナダでは正しいことです。ただルールに則ってるかどうかというだけなんです。そして、ルールが無ければみんな自分が得になるようなことをしてしまいます。お金を拾ったら自分のものにした方が得ですし、時速80㎞で走るより81㎞で走った方が早く目的地に着きます。ビルは高く建てた方がたくさん部屋が作れて得しますし、値動きを事前に知っていてそこに投機すれば儲かります。でも、みんなが好き勝手やっていたら全体の利益が損なわれるから、ルールを作って規制しているのです。そのルールからはみ出したものを、悪いとか犯罪と呼びます。人殺しにも世界中にルールがあります。ルールが無いとみんな好き勝手に殺してしまうかも、ということですよね。
要するに人間はほっといたら自分に都合が良いことをするんです。当たり前のことです。ところが良い人を前提とした仕組みというのは、人はみんなにとって良いことをする、悪いことをしない、という考えに基づいています。言ってみれば”人は信じられる”という盲信的なものです。だからルールが必要ありません。でも、もうお分かりのように、ルールで縛られなければみんな得になることをするんです。アニの言葉を借りれば、それが普通なんです。そして、そうでない人の方がむしろ特殊なんです。そんな人間の本質を分かっていない仕組みだということになります。
人は信じられる、もの凄くキレイに聞こえますよね。でも残念ながら現実は異なっていて、敵の敵が味方になるんです。”敵の敵は味方”を裏返すと、味方だと思っていた人間が敵になるということでもあります。一度味方になったら絶対に裏切らないなんていうのは、架空の物語の中だけの幻想です。でもそんな物語が世間に溢れかえっているのは、人々の願いなんでしょうね。むしろ現実ではなかなか難しいことだと無意識的に分かっているから、そういう話に惹かれるのかもしれません。
でも実はこれ、キレイなようでかなり独善的な考え方です。”一度仲間になったらずっと一緒である”ことを求めていることになります。そして、もしも一緒でなくなったなら、それを裏切りとか敵と呼んだりします。つまり、異なる考え方を認めないということなんです(27巻108話)
-こちらの意図も量らず…
-勝手に悪魔だって決めつけて…
-どうしてみんなが平和になる道を考えられないんだ…
-僕達が平和を望んでいることを世界が知れば…
(中略)
-何かが変わるかもしれない
アルミンの言っていることは、「僕達が平和を望んでいるんだから、世界も平和を望むはずだろう」ということです。相手も同じように思うはず、というのは僕達の価値観の押し付けです。相手に自分たちの考え方を理解し、受け容れることを要求しているわけです。現実は残念ながら、人は平気で他人を悪魔にすることができて、そこにパラディが平和を望んでるとかは全く関係ありません(27巻108話)
-…ジークと同じ目的だったらどうするんだ
-巨人化の薬を入手した兵団には
-…選択肢がある
自分たちへの理解を要求する一方、異なる考え方の”味方”に対しては力づくで排除しちゃいます。他者の価値観は認めない、自分の価値観は押し付ける、つまり自分だけが正しいってことですよね。アルミンのセリフが一番分かりやすく表現されてるので取り上げてますが、パラディは基本みんなそうなんです。価値観の多様性を認められてないんです。
028 サシャの場合 で考察した通り、この作品は他者を認め自分を認めることで成長していく様が描かれています。自己と他者の明確な区別とその理解です。そういう意味で、パラディは自己と他者の境界線が曖昧なんです。ソクラテスの逸話で”不知の知”というのがありますが、パラディは言ってしまえば”不知の不知”とでも言うんでしょうか。本来、人間は他人のことを完璧に理解することはできません、人の頭の中は覗けませんから。「私が平和を望むから、相手もそう望むだろう」というのは、その分からないはずのものを”分かったつもり”になっていることです。つまり、自分が分かっていないことさえ分かっていない、ということになります。
結局パラディは、”人間”そのものへの理解がまだ足りてない、ということです。
なんでこんなことになっているかと言うと、過去の記憶が無いからだと思います。パラディの人々は、巨人の脅威にさらされたという立場において、みんな同じ立ち位置、運命共同体のようなものでした。でも外の世界は違います。国や地域、人種、各個人、全く異なる立場の人々が、それぞれの都合で勝手に動いている中で生きていかなければなりません。パラディはそれを知らないし、知らないことすら分かっていません。ピクシスが言っていました(27巻107話)
-我々は海で繋がる世界において
-ヨチヨチ歩きの赤ん坊に過ぎんということじゃ
これ、例えではなく、まさにその通りなんです。
人間が産まれてからの、自我の芽生えと成長の過程はこんな感じです。
最初まっさらな状態で生まれてくると、守ってくれる存在を親として認識します。そして親の言動の影響を受けながら自我が芽生え、育っていきます。やがて親以外の他人の存在へ関心を持ち、恐がりながらも関係を作っていきます。自分の今まで見てきた世界は家族が全てですから、他の人もみんな同じ考えをするだろうと最初は思い込んでいます。でも何かおかしいと気付き始め、思春期あたりでは他人との違いに思い悩むこともありますよね。その違いはだいたい親の影響が大きいので反発したり、あがきながらそれを消化して、自分というものを確立していきます。自分が自分であることを尊重するには、他人が他人であることも尊重することになり、そうやって社会での生き方を学んでいくんです。
記憶を失くしていた人々は壁に守られて平和に暮らしていたけど、やがて外の世界があることを知って、恐る恐る”森”へ飛び出していきます。実は守ってくれていたけど、忌々しくも感じる壁を乗り越えて、他の国々がうごめく外の世界へと出ていくわけです。
進撃はバトル物やファンタジーの皮をかぶった、自我の成長物語だとお分かりになるでしょう。すると、今までの物語は未就学児から思春期に差し掛かったくらいの感じでしょうか。子供だったんです。キヨミさんも生温かい目で見守ってくれています(28巻111話)
-いいえ どの国も経験するものです
世界を知るというのは、人間を知ること。人間を知るとは、外の世界である他者を知り、そして自分を知り、そこに違いがあることを認めることです。それが成長した大人の観点です(11巻46話)
以前のエレンは敵とか裏切り、善だ悪だといったことしか頭になく、ただぎゃあぎゃあ喚くだけの子供でした。当然ユミルからはこう見えるわけです(11巻46話)
-そんなガキみてぇなこと言ってるようじゃ期待できねぇよ
そんなエレンも今や・・(27巻108話)
イェレナが言ったようにまだ成長してないから仕方がないとはいえ、やっぱり未熟に見えてしまうことでしょう。エレンとパラディに差ができたのは、記憶という知識の問題だけではなさそうです。エレンは外から来た存在、ライナーやアニ、ベルトルさん、ユミル(とその影響を受けたヒストリア)たちと関わり合いを作ってきた、そのことも”幼稚な”パラディとの視点の違いを生みだしていると思います。
パラディが必要以上にジークたちを恐がっているのは、彼らのことを「知らない」からです。今までは、壁という親の庇護下にいたので、なんでも分かっていた、いや分かったつもりになっていたんです。でも、外から来た人にはどうも今までのようにいかない、その未知なるものに怯えているのでしょう。
本当は分からなくて当たり前なんです。その当たり前のことを知っていると、部分的に分かろうとするなり、分からないままで良しとするなり、やるべき方法が見つかります。ハンジもアルミンも、理屈では分かればいいと思っているにも関わらず疑う姿勢から抜け出せません。知らなくて恐いからです。素直にイェレナと話せば良かっただけのような気がします。ついてなかったのは、話をした相手が同じく”分かったつもり”のオニャンコだったことかもしれません。いや、同じ成長度合いだったから会話が成り立った、ということかもしれませんが。
ただ、ピクシスや兵長が世界を知りかけているように思います。もし、世界を知ってしまえばパラディにも打開策はあります。
ライナーはかつてこう言っていました(11巻46話)
-それだけに関して言えば信頼し合えるはずだ!
彼はユミルの立場を汲み取り、目的は違えど利害が一致する点においては手を組める可能性にまで言及しています。実際ユミルはその選択をしました。人は利己的だという理解ができれば、手段さえ一致させれば手を組めることに思い至るはずです。
敵の敵は味方というのは、かつて敵だった相手が味方になる可能性を孕んでいますよね。現実でも欧州あたりの歴史を鑑みれば明らかですが、その時々で組む相手を替え、かつての敵と仲間になったり、かつての仲間と戦ったりなんて当たり前のように起こっています。それは過去の遺恨に囚われていないことも意味しています。
昔のことなんて実はそんなに関係ないんです。過去の遺恨として語られていることのほとんどはプロパガンダだと思います。敵対する理由が欲しい時に持ち出すだけです。世界の国々は、マーレという超大国に従っておいた方が有利だからそっち側に付いているだけ、だからパラディに組する方が利があると判断されればあっという間にひっくり返せるはずです。政治の駆け引きって要するにこれをやっているわけですよね。
まぁ、パラディが世界と手を組むことを考えると、よく言われるようにエレンとジークが悪であるという方向に向かうしかない雰囲気はありますが。
本日もご覧いただき、ありがとうございました。
!妄想注意!
以下、妄想のみ。私的承認欲求を満たすための文章です。
-自分語りと妄想と-
情熱大陸、短いながらも内容の濃いものに感じました。動いてる諌山先生を見るのが初めてだったせいもあるかもしれません。最終盤に向けて盛り上げにいってる感じは以前からありましたが、思ったよりも近づいてそうで複雑な気分です。でもこんなすごい作品の終焉にリアルタイムで立ち会えるのは嬉しくもあったりします。今までは終わってからみたいなのが多かったので。私は進撃を読み始めてから来月でようやく1年、以前から追いかけてるみなさんはもっといろんな想いがあるんだろうなと想像します。
番組の感想としてはとにかく、先生が思ってた以上にエレンだった、ということに尽きます。
さて、最終コマという燃料が投下されましたが、割とすんなり受け入れられました。といっても自分の予想してる展開にこじつけられる、という程度の話ですが。現時点ではいろいろな可能性が考えられますが、あくまで妄想としてちょこっとだけ、ぼかしながら書いてみます。
御多分に洩れず、グリシャとエレンじゃないかと思っています。で、グリシャの「お前は自由だ」は、エレンだけじゃなくて他のある人にも向けての言葉かなと思います。それが「エレン」という名前を付けた理由でもあるんじゃないかと。グリシャは壁内を悪く思ってなかったということになりそうです。そして、”家族に後悔”もあったんだと思います。エレンにしてみれば、そもそも自由だったのが最後は”自由のために戦う自由”があった、という感じになるかもしれません。ユミルとかと一緒ですね。グリシャは背中を押してくれただけなんでしょう。
それから、あれはおそらく回想ですけど、見ているのはエレンではなくて、また別の誰かさんじゃないかなと。いや、もはやその個人と呼べる存在では無いかもしれないですけど。そういう意味では、エレンも一緒に見ていると言ってもあながち的外れではない感じなのかも、と。ほろ苦い感じはします。少なくともエレンは○○○いると思います。
こんな感じで予想してます。
ところで最近、根拠の無い妄想が書きづらい感じになってまして、こんな機会もあまりないのでせっかくなのでもう少し書きたいと思います。全く根拠が無いわけでもないんですが、足りない根拠を書いてもやっぱり妄想の域をでませんので、説明は省略します。
「いってらっしゃい」
さほど根拠も無くキヨミさんかなと思ってましたけど、最近、少し繋がってきた感じがしてまして。
あれ、ミカサのご先祖様が、壁を出る「進撃の巨人さん」に言ってるんじゃないかと思います…たぶん。100年くらい前のこと。名前もエレンかもしれないけど、それはさすがに分かりません。
もひとつおまけに謎の対照表。これはまだ怪しい部分もありますが・・
エルディア ヒィズル マーレ
フリッツ家 将軍家 レイス家(タイバー?)
es ego superego
エレン ミカサ アルミン
もしかしたら順不同で
マリア ローゼ シーナ
-自分語りと妄想終了-
written: 22nd Nov 2018
updated: none