進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

018 物語の考察 タイバーの務め[後編]

みなさんこんにちは。

 

9/27 追記:タイバー家に関しまして、現在は少し見方が変わっております。こちらの記事を全て否定するわけではありませんが、ご参考程度でお読みいただけると助かります。


今回も前回に続きましてタイバー家(主にヴィリー)の考察です。先に タイバーの務め[前編] をご覧いただいた上でお読みください。

 

 

この記事は最新話である104話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 


[タイバーの務め]

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・続 ヴィリーの人物像

 

前半では、ヴィリーが家系への絶望から、世捨て人となり何もしてこなかったらしいことが分かってきました。同時にその人間味あふれるネタキャラっぷりも理解できました。

その後はご存知の通り、ヴィリー(以下、お兄ちゃん)は覚醒して命を賭した行動に出るわけです。それを妹は涙を流しながら讃えました。”お兄ちゃん、頑張ったね”と・・


では、お兄ちゃんは何を成し遂げたんでしょうか?


今回、なぜ動かざるを得なくなったのかといえば、タイバー家にとって起こってはならない事が起きたからでしょう。巨人大戦以来の彼らの基盤である現体制の維持に支障が出た、つまり壁の王が打倒され、始祖が奪われたことに他ならないと思います。しかも、その相手がマーレにも攻撃をしかける兆しがあるのです。当然、相手の最大の標的は、巨人大戦の片棒を担いだタイバー家である可能性もあります。そもそもマーレが傾けば今までの暮らしは維持できません。

これまで実家への不満をブツブツ言いながら、ぬくぬくと暮らしてきたボンであるお兄ちゃんは、その生活を失う可能性に気付かされたのでしょう。まがりなりにも超大国の影のトップですから、その部下たちはきちんと仕事しているはずです。今までは聞き流していた報告にちゃんと向き合ってみたら、既にかなりまずい状況に陥っていました。そこで、分析を基にマガトに白羽の矢をたて、コンタクトするわけです(24巻97話)

 

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お兄ちゃん、しょっぱなから痛いところを突かれてしまいます笑。ネタキャラに真面目人間マガトの相手は分が悪いです。まさに今まで何もしてこなかったツケです。しかし、お兄ちゃんはやればできる子なので、ピンチを脱するための凄い作戦を思いついたんです。かつて親からもらったコネを使って、全世界を味方にすることです。こうして世紀の大バクチ打ちに変貌していくわけです。

 

 

 

・作戦に至る過程

 

ヴィリーの立場になって考えると、彼らの作戦動機は意外とシンプルに見えます。

 

まず、パラディ島で王家が打倒され、始祖が奪われたことを知ります。そしてヤツらは、次はマーレだと言わんばかりに密偵を送り込んできていることも発覚します。

今まで世界に対しては、”悪の権化であるエルディア王を倒した”と嘘を言うことで、英雄扱いされてきました。そして大戦後も、”世界の脅威に立ち向かう英雄”を演じることで、その地位を守ってきたわけです。

ところが、実際に”世界の脅威”を排除したヤツらが現れてしまいました。ヤツらはマーレを調査しており、そのバックには他国の存在を匂わせています。もしもヤツらが真相にたどりつき、それを全世界に公表したら、ヤツらは全世界の英雄になるかもしれません。逆にタイバーとマーレは大戦での悪だくみとその後の嘘がばれ、全世界を敵にまわすことになりかねません。なにせ”世界の脅威”と結託していたわけですから。

であれば、ヤツらより先に、壁の王が”世界の脅威”ではなかったことを全世界に公表する必要があります。もちろん、ただ嘘でした、なんて言ったら自分たちの信用を傷つけるだけですから、うまいやり方を考えないといけません。

ヤツらが壁の王を打倒したことが英雄的行為になり得るならば、その正当性を覆してしまえば良いかもしれません。つまりヤツらを不当に王位を奪った”簒奪者”とすれば、悪に仕立てあげることができます。ただ、その為には壁の王が正当だったと公表する必要があり、タイバーとマーレの名誉を返上せざるを得ません。今まで言ってきたこととの整合性も取れません。でも、それで世界を味方につけてしまえば、その簒奪者を自分たちが打倒することで英雄に返り咲けます。それが「再びヘーロスが必要なのだ」と言った意味なのでしょう。ヘーロスとは、世界のために悪を討ち滅ぼす象徴です。勝ちさえすれば、今までの嘘なども含めて、何とでもストーリーは作れます。現に大戦後の世界は、嘘を信じ続けてきたわけですから。

 

これはリスクの大きい賭けです。どちらが世界を動かせるか、というチキンレースのようなものです。事実の公表はやはり勇気が必要だったんでしょう。ヴィリーの”ため”るような間からも、その事が見て取れます(25巻99話)

 

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危険な賭けではありますが、演説と”予期せぬ”襲撃によって世界を味方につけ、パラディ島の現体制を簒奪者に仕立て上げることができれば、全てが一変する可能性があります。島の悪魔によって命を奪われたヴィリーやマーレ、エルディア人への同情も集まり、同時にその悪魔を討ち取った英雄として、称賛を浴びることになるでしょう。今までの嘘も、正当な王を守るためだったとか、勇気をもってそれを公表したと美談にされるかもしれません。関係悪化していた国々との関係改善の可能性も生まれ、上手くいけば世界公認のもとでパラディを管轄、あるいは自分たちの手の者を王に仕立て上げることができたかもしれません。

 


まあ結局、勝負に負けてしまったわけですが・・

 

 

 

・タイバー家と145代の考察

 

まとめるならば、タイバー家、そしてヴィリーは、今まで何もしてきませんでした。ポルコが思想調査の際に指摘していたことは正しかったのです。でも、ヴィリーはその人生の最後に命を投げうった賭けにでました。そしてそれは、彼がずっと目を背けてきた自分の家、タイバー家の存続のためであり、マーレの存続のためでもあります。さらに言えば、壁の王の正当性を示して、その王が作った体制を守ることにも寄与しています。

おそらくヴィリーの行動の発端は保身によるものだと推測しますが、最終的にタイバー家が成すべき、大戦後の体制維持と、壁の王家の仇敵の打倒に奮力しているのです。これこそが彼が紆余曲折の末に果たした”タイバーの務め”なんじゃないかと思います。

そりゃ妹も泣いて喜びますわ。

 


一つ、謎が残ります。

 

 

巨人大戦の折、なぜタイバー家だけが145代のパートナーに選ばれたのか。


これ、私が妄想として述べていることに繋がってしまいそうです。


145代は巨人大戦において、その行動が示す通り、尋常ではないほどマーレを優遇しています。自らを貶める対象にしてまで、マーレの復権を図っているわけです。彼らの言葉を信じるならば、エルディア帝国に征服された国は他にもいくらでもあるはずなのに、です。

 

普通に考えても、145代はマーレ人なんじゃないでしょうか?

 

ただし、145代も壁の王たちも巨人化できますから、ユミル・フリッツの血が入っていることになります。つまり、混血ということです。

145代にマーレの血が入っているとすれば、エルディア帝国とその民衆への恨みつらみが容易に理解できます。そして、帝国を憎み、各巨人家をつぶしていった145代が、なぜタイバー家だけ味方にしたのか。もう言うまでもないと思いますが、タイバー家もマーレの血が入ってそうですよね。というか、タイバー家と145代は親族であるかもしれません。

以前長々と書いた記事よりも自然な説明になってますね・・

 

-補足-
誤解のないように説明しておきますと、タイバー家がエルディア王家の血を引いている、ということではありません。あくまで、145代と同じ血族ではないかということです。むしろ逆に、145代も王家の血を引いてない可能性も生まれてくるかもしれません。そしてそのことは、前半で述べた通り、巨人大戦において彼らがしたことが革命と言ってよいものであることも、その理由になりそうです。

心理学で”投影”という言葉があります。ネットで一時期流行ったブーメランというのもその一種だと思いますが、人間は相手の心情や行動を予想する時に、自分の知識や経験をもとに想像するわけです。自分に”人を騙す”という概念が無い人は、相手が騙してくるとは思わないので、騙されやすかったりします。ライナーが「クリスタが俺に気がある」と感じたのは、本人が気があるから、というのも分かりやすい一例でしょうか。何が言いたいかというと、”簒奪者”という言葉を使う彼らは、その概念がある、つまり彼らが”簒奪者”である可能性も高い、ということです。

それを裏付けるかのように、壁の王たちは使うべきところで始祖の力を使っていないことが散見されています。本来の王家の血統ではないので、完全な形では使えない、というのが自然な見方のように思います。
-補足おわり-


さて、そんなタイバー家や145代の行いに目を背けていたヴィリーは、”マーレ”という国がマーレ人とエルディア人のものだ、と言っていました。マーレなのにマーレ人だけのものではない上に、マーレ人とエルディア人の他にもいるであろう人種のものでもないのです。自分の家系への反発もあるのかもしれませんが、彼が双方の血を引いていると考えれば、いたって自然な考え方とも言えるかもしれません。

145代らと考え方が異なるのは、環境の違いも大きいと思います。145代はエルディア人による支配の時代に生き、恨みをつのらせましたが、ヴィリーの生きた現代には、エルディア人による支配なんて昔話の中にしかないわけですから。その点を考えると、頭主であるヴィリーが戦鎚を継がなかったのは、結果的に良かったのかもしれません。”記憶”を直接体感せずに物事を判断できますので。

ヴィリーはその言葉通り、マーレにいるエルディア人を救うことも作戦に組み込んでいました。マーレ軍の古い体制のすげ替えも、おそらくその為です。巨人の力だけに頼り、拡大路線を突き進む現行の国家戦略では、エルディア人の立場の改善など望むべくもないからです。マガトの思想は、その点においてエルディア人には救いとなる部分を含んでいます。また、ヴィリーの考え方は、非常に現実的で現代的だと思います。


私たち読者はどうしてもパラディ島寄りの視線になってしまうため、ヴィリーは敵のボスであるかのように映ってしまいがちですが、その実、彼は自身の信念に従って、公平な民衆への愛情をもって負の連鎖を断ち切ろうとしていたのではないかと、思うのです。

 

哀しいことに、それはエレンを筆頭とした現パラディ勢力の犠牲が土台になっていた為、相容れることはありませんでしたが。

 

 


・裏の役割

 

これはなんとなくそう思う、という予想のようなものですが、ヴィリー・タイバーが果たした、物語における最大の役割はこれかもしれない、なんて漠然と思っています(25巻100話)

 

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-現実問題として世界の軍が手を取り合うにはまだまだ越えねばならない問題があります
-しかし我々は強大な敵を前にすれば一つになれるはずです
-私達みんなで力を合わせればどんな困難も乗り越えて行けるはずです‼

 

このページ、ヴィリーの演説の言葉をバックに、エレンとライナーがずっと”手を取り合って”いるんです。意味深すぎませんか?

 

エレンの共感と許容、ライナーの本音の吐露によって両者の距離はかなり近づいたと思います。”まだまだ越えねばならない問題”はあるでしょうけど・・

この場面は、世界と手を結ぼうとしているヴィリー(レイス体制と世界)と、既に手を取りつつあるエレンとライナー(エルディア人勢力)の対比のようにも見えます。長らく描かれてきた通り、ライナーは現体制の矛盾や欺瞞を、自己否定の固まりになるほど身に染みて分かっています。エレンはあえてライナーとの対話の席を設けましたし、次世代であるファルコにも言い聞かせるように同席させてます。パラディとフクロウの戦略でも戦鎚以外の知性巨人の隔離を図っていました。ポルコもかなり思うところがあるのを描かれています。ガビは友人・知人の死を初めて目の当たりにして頭に血が昇っている状態ですが、ヴィリーの演説を聞いて一番衝撃を受けていたようにみえます。

 

まあ、それぞれの目標は交錯すれど戦わなくてはならないという残酷さが、この作品のキモだとも思いますので、すぐに上手くいくとは思えませんけど。もし現実になるとしたら、意図していないとはいえ、ヴィリーが果たした役割は、かなり大きいと思うんです。

 

 


・終わりに

 

タイバー家に関しては以上となりますが、今後の展開に絡んでる部分を少しだけ。

 

こちらの密談のシーンで、ヴィリーはこう言っています(25巻100話)

 

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-敵は海を渡り、我々の首元まで迫っていた
-もはや いつ喉を切り裂かれてもおかしくない
-何より危惧すべきパラディ島勢力の協力者の影だが…
-依然その実体が掴めないままでいる…

 

続けて読むと分かりやすいのですが、彼の言葉には登場人物(というか勢力)が3つあります。敵、パラディ島勢力、協力者です。途中でページが変わるため混同しそうになるのは、さすがだなと勝手に思っていますが。

 

”敵”は総称とも読めるのですが、マガトは続けてこう言っています。

-敵の正体や目的、攻撃手段が不明なまま…

マガトはこれ以前にジークとの会話で、始祖が奪われた経緯、すなわち”パラディ島勢力”の正体は知っていた、またはその時に知ったことは明白です。つまり彼らが言っている”敵”とは、別の勢力であり海を渡ってくるもの、とも考えられます。であれば、海外の国かその一部であるという見方が自然でしょう。そして、直接攻撃を仕掛けてくるであろう”パラディ島勢力”は、”敵”の先鋒に過ぎないという風にも読み取れます。今後のパラディの動きも含めて、全体の戦略を担っている勢力がいるわけです。

 

今回の作戦でエレンが突出したような事になっていたのは、おそらくエレンがその勢力の戦略に率先して乗っかっているからだと推測しています。作戦全体は統一された動きをしていますから、当然兵団側もその戦略を共有していますし、そうせざるを得ないことを理解していると思います。ミカサが心配しているのは、他国である勢力の戦略にエレンが自らの手を汚して突き進んでいくことへの危惧と、自分を含めたパラディ島という勢力から離れていってしまうような、そんな感じから言っているように見えますが、いかがでしょうか。

前述した通り、戦鎚の敗北によってタイバーの思惑通りには進んでいないのが現状です。どちらかというと賭けに勝ったパラディ側が主導権を握りつつあるかもしれません。ヴィリーがまいた種を受けて世界がどう動くのか、そしてマガトとパラディの次なる戦略が気になるところですね。

 

 


最後にヴィリーにまつわる事実をもう一つ。

 


ヴィリーが演説の後半で「タイバー家は保身のためにエルディアを売った」と言ったことを思い出した上で、こちらをご覧ください。

 

 

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完全にイヤミになっているのが分かります。

 

キヨミさんは、お前らが臆病者なのは知ってまっせ、と言っているわけですね。お兄ちゃん、踏んだり蹴ったりですね。そりゃお付きの人もこんな顔になりますよ・・

 

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長文・拙文にも関わらず最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 


written: 20th Apr 2018
updated: 27th Sep 2018