進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

061 巨人化学⑬ 生命-IV 自由の翼

あけましておめでとうございます。

 

今回は新年最初にして最大の、というかこの作品の核心に近いかもしれない部分です。連載が終わってから読むべき内容そのものですので、くれぐれも。また、この記事は 生命-I から続くお話であり、そちらの警告をご承諾いただいてない方の閲覧はお断りしております。まずはそちらからご覧くださいますようお願い申し上げます。

 

 

 

この記事は最新話である112話までのネタバレを含んでいます。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

 

 

 

 

 

 

 

[自由の翼]

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自由の翼を象徴する二枚の羽根、(22巻88話)

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これは北欧神話のフギンとムニンがモチーフになっていることは想像に難くありません。オーディンに従えられた二羽のカラス、フギンとムニンはそれぞれ思考と記憶を意味し、世界中を飛び回って情報を集めてくるそうです。まさに調査兵団のシンボルにふさわしい感じがしますね。

 

 

 

 


さて、ここから本題です。

 

 

前回、始祖ユミルは人間との契約によって知能を得たのだろうと考察をしました。そこでもう一つ抑えておきたいのがこのくだりです(21巻86話)

 

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-我々の祖先「ユミル・フリッツ」は
-「大地の悪魔」と契約し 力を手に入れる
-それが巨人の力だ

イェーガー翁によれば、「巨人の力」を手に入れたのは始祖ユミルだと言っています。すなわち、契約以前の始祖ユミルは「巨人の力」は持ってない、巨人ではない何かだったということになります。

 


進化というのはあらゆる可能性があるとは思いますが、物理法則などの影響を免れることはできないものです。良い例が哺乳類のイルカと魚類のサメ、これらは分類学的には全く別の生物です。遥か大昔に枝分かれした種がそれぞれ独自の進化を遂げた結果、とても良く似た形になりました。この意味するところは、あのスタイルが海中での生存競争を勝ち抜くのに適しているということです。進化というのは自分勝手に何でもできるわけではなく、周囲の環境などに応じて収斂していく性質があります。言ってみれば、その形には意味があるのです。

人間が生存競争を勝ち抜き、支配者たり得た理由の最たるものは知能です。知能以外では他の動物に劣る人間は知能に特化した存在と言えます。その知能の発達に一番与したのは二足歩行だと考えられています。もともと哺乳類は四足歩行で頭を前に突き出し、首の筋肉のみで頭を支えていました。人間は二足歩行で直立することによって体全体で頭を支えるようになり、脳を肥大化させることが可能になったそうです。猿が中間にあたりますよね。前足(あるいは腕)で物を掴んで食べたりしますが、移動するときは前足をつきながらの半四足歩行な感じです。猿も知能が高いですが人間ほどではないことからも、歩行スタイルと知能の相関関係が見てとれます。人間の形というのは知能を発達・維持するために適しているんですね。


契約で知能を得た始祖ユミルは、それを維持するにふさわしい形が必要になったはずです。当然人間の知能は人間の形があって成り立ちますが、普通はそんな短期間で形態の進化をすることはできません。ですので、始祖ユミルは必要に応じて形を変化させられる存在だと仮定する必要があります。常識的に考えたら突拍子も無い飛躍なんですけど、巨人のことを考えたらなんか繋がってきますよね。以前も書きました通り、巨人は、人間を作れるんです。

 


そこで 生命-II で書いたことを振り返っていきたいと思います。

 

あなたはあなたの人差し指がなぜその形をしているか説明できますか? 指はなんで5本なんでしょうか? 指の関節はなぜ付け根を入れて3つなんでしょう? なんで反対側に曲がらないんでしょう?

 

・・って、こんな質問に答えられる方はきっといませんよね。なぜならあなたの意識によって形作られたものではないからです。それを形作ったのはあなたの中のどこかにある全体を司るもの。それが、あなたの指や足、全身全ての形を作り出したんです。進化という名の試行錯誤を続けた結果この形になったのでしょうが、いずれにしてもあなたの意識は関与していません。

あなたはきっと、今これを読んでいる、考えているあなた、つまりあなたの意識が自分自身だと感じていることでしょう。でも、あなたの意識が知らないうちに、あなたの各部品を役割に適した形に作り、整え、寝てる間も保全している”なにか”があります。その全部品をまとめ、人間と呼ばれる一つの集合体を管理している”なにか”。あなたの意識は、本当にあなた自身の肉体を支配していると言えるでしょうか。あるいは、


あなたの意識とその”なにか”、どちらがあなたの本体ですか?

 

アリは人間のような知能は持っていません。言葉も喋れなければ、自分がなんなのかもよく分かっていないでしょう。でも彼らは、まるで人間のようにそれぞれの職務を粛々とこなしていきます。それはあたかも集合体の一部品であるかのように。そして、全体をまとめる”なにか”が存在するかのように。

アリはどの役割を担当するかによって、体が大きくなったり、羽が生えたりします。その役割に適した形に変形するわけです。人間の細胞も、指の役割を与えられれば指の形になり、爪なら爪の形、硬さになっていきます。全体をまとめる”なにか”によって、変形させられているのです。

では、知能を入れる器が必要になったらどうしたらいいでしょうか。簡単です。それにふさわしい形、つまり人間の形に変形させればいいだけじゃないでしょうか。


もし全身の各部品を作っている”なにか”を人間の本体とするなら、アリの場合は各部品を個体のような姿に作るよう進化した種だと言えるかもしれません。地球上に存在するアリの個体数は人間など比べ物にはならないほど繁栄しています。つまり、彼らもこの残酷な世界を生き抜いている進化の成功例の一つです。どちらも同じ単純な生命から出発したことを考えれば、目に見えるアリと人間の姿を比べるよりも、”なにか”を比べる方が共通点は多いのです。つまり、生命の本質とはその”なにか”なんじゃないかと思えるのです。

進撃ではその”なにか”を「道」と呼んでいます。人間を形作る「道」が物を掴むのに便利なように指を5本に変形させ、爪を生やしたように、知能を得た始祖ユミルの「道」がそれに適した入れ物を形作った、それが巨人なんじゃないかと思います。そして、人間を完全に模倣したため人間と交わることが可能になり、合いの子として発生したのがユミルの民なのではないかなと。だからユミルの民は一見人間のように見えるけど、「道」の一部としての性質を持っています。そのため彼らは根本に全体主義的な性質が残っていて、その顕現が「正しい人を前提とする」ことであり、「心臓を捧げる」ことでもあるんじゃないかと思います。

 


そう考えるとこの作品は、人間のお話ではないんです。巨人、あるいはユミルの民という、新たな生命種の物語なんだと思います。残念ながら私たちは彼らとは異なる種なんでしょう。そして異なる近縁種というのは、種の保存という観点から見れば敵でしかないんですよ(11巻46話)

 

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-そりゃ言っちまえば せー

おそらくユミルが言っていた「世界」というのはマーレとか他の国々とかいうことではなく、人間という意味だと思います。だから彼女にしてみれば戦士隊の二人を倒そうが、人間との戦いはどちらかが滅ぶまで続くし、同種であるライナー達と争ってる場合じゃないわけです。人間から見れば異種である巨人は敵ですからね。さらに巨人側が戦うことを放棄していた状況ですから、滅ぼされるのは必至だったということなのでしょう。

 


ところで一つ気になるかもしれません。じゃあ始祖ユミルはアリみたいなものだったの?って。まぁ、アリではないと思いますが、いずれにせよ確信に至ることは不可能なのでさくっといきます。

 

鳥です・・たぶん。

 

マントとブレードを拡げて立体機動で飛び回る様はまるで鳥のようです。そして(23巻91話)

 

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マーレ編は鳥から始まります。アニメの1期と3期も鳥から始まります。アニメでは本編、オープニングとエンディングの至るところ、映像や歌詞に鳥のイメージや空への憧憬が散りばめられています。地に堕ちた鳥、血まみれの白鳥・・(5巻22話)

 

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長距離索敵陣形は、鳥の編隊飛行が元になっていると思います。アニメ1期後半のオープニングは鳥の目線で始まり、長距離索敵陣形と鳥の編隊飛行を重ねる描写がされています。

鳥の編隊飛行って美しいけど不思議なんです。人間も似たようなことをしますよね、運動会やら人文字やら。でも、かなりの練習が必要です。知能ではナンバー1の人間でも大変なのに、そこまでの知能を持たない鳥が当たり前のように美しい編隊を描くのです。やっぱり”なにか”があるのかもしれません(7巻28話)

 

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-それも声掛けなしで
-いきなりあんな連係が取れるなんて…

エレンが驚いた旧リヴァイ班の連係ですが、アニメ1期後半のオープニングではなにやら糸のようなもので繋がれた表現がされています。「道」の示唆なんでしょうけど、同じオープニングの最初に鳥の編隊飛行が出ているのが意味深ですね。

 


そういえば、進撃は無駄なコマがほとんど無いのはみなさんご存知のことと思います。作者は1コマ1コマ丁寧に意味を入れ込んでいますよね。ところでこんなシーンがあるんです(1巻1話)

 

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エレンが呆気にとられるかのように”2コマも使って”注視しています。もっと大変なことが起こっているのにも関わらず。そこでエレンが見ているのが・・(1巻1話)

 

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風見鶏なんです。

 

アニメではここはカットされているんですが、その替わりなんでしょうか。冒頭でエレンの瞳が捉えているんです。超大型じゃなくて、鳥を。


そこで起こったことはご存知の通りです。祖先の記憶とでも言うんでしょうか。もちろんはっきりと意識に上っているわけではないと思いますが、文字通り思い出している感じなんだと思います(1巻1話)

 

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-鳥籠の中に囚われていた屈辱を……

つまりこれ、例えでもなんでもなく本当に鳥籠なんじゃないでしょうか。

 


忘れ去られていそうですが、壁に関して一つの謎が提示されていました(18巻74話)

 

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シガンシナ戦でライナーが隠れていたこの空間、驚くほどキレイな断面の直方体構造になっており、また壁の表面とは完全に別物として描かれています。取っ手や蝶番は待っている間に付けたんでしょうけど、この空間はどうやって作ったんでしょう。

表面はともかく、壁を破壊することはできないはずですから、元々あった空間だと考えるのが自然です。それをさらに上から塗り固めたようになってますから、もしかしたら145代が壁を作る前からあったかもしれません。これは現時点では予想でしかありませんが、鳥のケージ、のようなものだったかもしれません。そしてもしかしたら、巨人という種はここで始まったのかもしれません(28巻112話)

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これだけ挙げても確証とは言えませんけどね。でも「そう言われてみれば確かに」と思っていただけたかもしれません。

もしそう思ったとしたら、みなさんは既に知ってたんですよ。これらの光景を今までに何度も何度も見てきていたんです。でも意識に上ることはなく、無意識の中にしまい込まれていました。ユミルの民が「道」で繋がれた感覚というのは、たぶんこんな感じじゃないかと思います。何か結びつくもの、きっかけがないと記憶として上がってくることはないけど、無意識のどこかにその記憶が存在する感じです。そしてそれはみんなと繋がっていて、気付かないうちに影響を受け続けているんだと思います。

 

 

 

彼らはどこかで、祖先の記憶を、”自由に”大空を飛び回っていた頃の記憶を感じ、それに憧憬のような感情を抱き続けているのかもしれません。だからこそ今では失われた翼が、”自由”の象徴なのかもしれませんね。

 

 

 

 


あれ? そういえば私たち人間も空に憧れを抱きつづけ、航空機を生み出すに至りました。私たちのこの憧憬はどこからきているんでしょうか。

 

もしかして・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とはいえ、これが鳥だと言われても納得できませんよね(21巻86話)

 

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次回に続きます。

 

 

 


-余談-

興を削ぐようでアレなんですが、鳥の編隊飛行というのは「隣の個体と一定以上近づいたら反対方向に動く」といったような基本的なルールをいくつか設定することで、コンピュータシミュレーションで同様の動きを作り出せるそうです。つまり実際は「道」では無さそうという雰囲気になってしまうわけですが、これってまさに長距離索敵陣形の仕組み、伝令が順番にはじき合うように情報を伝達していくことと一致してくるんです。面白いこと考えるなー。

-余談おわり-

 

 


本日もご覧いただき、ありがとうございました。
本年も進撃の本編ともども、よろしくお願いいたします。

 
written: 6th Jan 2019
updated: none