進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

034 巨人化学⑧ 無垢の巨人

みなさんこんにちは。

 

 

アニメの展開が速すぎて、原作未読の方がついてこれてるのか心配な今日この頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

前回、033 ネットワーク仮説 では「道」について考察をしました。それを踏まえて、今回は無垢巨人について考えてみたいと思います。タイトルはクルーガーの言い方に倣って「無垢の巨人」としましたが、無垢巨人の方が読んでて語感が良さそうなので本文はそちらにさせていただいてます。

 


ストーリーにはほとんど触れていませんが、一応ネタバレの可能性はご了承の上でご覧ください。

 ※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 


[無垢の巨人]

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「道」を記憶のネットワークだと仮定するとして、では巨人とはいったい何なのか、ということになってくると思います。

 

今回は無垢巨人について考えてみましょう。

 

 


無垢巨人といえば、死ぬことはなく、意識もなさそうに見え、ただただ人を喰らう存在です。喰った人を消化せずに吐き出しますので、人を喰う目的もいまいち不明ときています。でも、人を喰うという性質には何かしら意味があるはずだと考えます。

 

無垢巨人を考える時に、一番良いサンプルはダイナ巨人だと思います。ダイナ巨人はいわゆる”奇行種”に該当するのかもしれませんが、その行動から無垢巨人の存在理由をいろいろと推測できます。

まずはダイナ巨人について整理しましょう。


ダイナはマーレによる楽園送りで無垢巨人化されました(22巻87話)

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-あなたを探し出すから

ダイナは人間としての最期の瞬間、巨人体と共通するかのような笑顔を見せています。

 

そして、ライナーたちの壁の破壊に乗じてシガンシナ区へ侵入します(24巻96話)

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ベルトルさんを捕捉しながらも喰おうとしなかったことは、とても重要だと思います。

 

そしてグリシャの家に辿り着き、カルラを喰いました(12巻50話)

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その5年後、ウォールマリア内でエレンとミカサの前に現れ、ハンネスさんを喰いました(12巻50話)

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後は座標の発動により、無垢巨人たちに喰われて死んだと考えてよいでしょう。

 

 


まずは奇行種について。

 

奇行種という分類は、あくまで兵団が他の巨人と行動の基準が異なる個体をそう呼んでいるだけで、実際のところ定義はかなり曖昧な部分があります。

作品内ではロッド・レイスの巨人化の際に、より多くの人間に引き付けられる個体という表現もありましたが、トーマスを喰った元復権派の無垢巨人のように、ただ行動が少し異なる、というケースも多いです。とりあえず一般的な無垢巨人と異なり、ひたすら近くの人を喰うだけではない個体を奇行種だとすると、ダイナ巨人や「イルゼの手帳」に出てきたユミル信者の巨人は奇行種と言えるでしょう。それらにはある特徴が見られます(5巻特別編 イルゼの手帳)

 

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-ユミル…さま…

信者の巨人はイルゼを見てユミルと勘違いし、言葉を発します。その後、顔をかきむしるように苦しみ、結局は普通の巨人のようにイルゼを喰いました。言葉を喋り頭を垂れる時は、あたかも生前の意志か記憶が残っているかのようですね。

 

ユミル巨人はと言えば、壁からかなり離れた場所をさまよっていたようです。つまり、人に引き寄せられて壁の近くへ行くことをしなかった、ということですね。エレンたちが海へ行くシーンや、ライナーたちの潜入時の様子からも分かる通り、ほぼ全ての巨人が壁周辺、壁破壊後はウォールマリア内に引き寄せられていたことは明らかです。であればユミル巨人は他の巨人とは異なり、人を避けていた奇行種ということになります。

ユミルに残っていた生前の意志を想像するならば、「人と関って死なせて(巨人にさせて)しまったので、もう人に関わりたくない」という感情も想像できます。ただし、信者と同じく最後は目の前の人を喰ってしまっていますから、ちゃんと意識が残っているわけではなく、意志か記憶がバグのように少し残ったと考えるのが自然でしょうか。

 


-奇行種小話-


ウトガルド城で出てくるじゃれ合う2体の小さな巨人(10巻39話)

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定かではありませんが、コニーの妹と弟かもしれません。おそらく「サニー(仮)と遊びたい」というような想いで一杯だったのではないかと考えます。子供特有の”力加減の知らなさ”が、巨人になったことで耳をむしるなど、暴力になってしまっているように思います。

 

そして、「オアエリ」と言ったコニーの母も奇行種と言ってよいでしょう(13巻51話)

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これは推測でしかないですが、彼女の巨人の手足が細くて動けなかったのは、「コニーの帰りを家で待っている」という想いの現われかもしれないと思っています。おかえりと言っていることにも通じますので。


-小話おわり-

 


そしてダイナ巨人も、「あなた(グリシャ)を見つけ出すから」という強い想いを抱いていたと考えられますね。ベルトルさんをスルーし、一目散にグリシャの家を目指しましたから。

 

さて、奇行種はこれくらいにしておいて・・

 

 

 

前回の考察で、「道」とは記憶のネットワークではと仮説を立てました。無垢巨人もその記憶のネットワークの一端を担っているわけですから、彼らも記憶のネットワークにとって何らかの意味があるはずです。ハンジの言葉を借りれば、彼らが”人を喰うこと”が記憶のネットワークにとって、「都合が良い」ものであるはず、と考えられます。


では、記憶のネットワークにとって都合が良いとはどういうことでしょうか?


以前、022 心臓を捧げよ で生物の進化について書きましたが、生物が進化の過程で様々な様態に形を変えていく中で、一様に変わらず保持しているものがあります。種の保存です。それは人間から単細胞生物まで、それこそ生物の枠組みから少しはずれてるウィルスですら、自己のコピーを増やし、DNAを繋ぐという基本的な性質は変わりません。それが素粒子が安定を求めることから発生しているのか私の科学的知識では分かりませんが、”増えること”というのが全ての根底にあるのはどうも確かな事のようです。

ということは、記憶のネットワークも増えることを原理として持っている可能性も考えられるのではないでしょうか。記憶のネットワークが増える、つまりネットワークを大きくするためには、記憶を増やす必要があると言えるかもしれません。

 

つまり、無垢巨人は記憶を増やすために人を喰っているのではないでしょうか。言い換えれば、彼らが喰っているのは人では無く、人の持つ記憶なんじゃないでしょうか。

 


その根拠の一つは、人の食べ方にあります。


作中において無垢巨人は人間よりも知性巨人に引き寄せられるという性質が描かれており、それゆえ「巨人が人を喰うのは人に戻りたいからだ」という説が以前からあります。

ところが、無垢巨人が人を喰う時、彼らは脳と脊髄を狙って食べません。体中のどこでもかじりつくし、下半身だけ食べて捨てる、なんてケースがたくさん見られます。咀嚼しようともせず飲み込んでしまうこともあり、いずれにせよ消化せずに最後は吐き出してしまうわけです。

もし無垢巨人が人に戻る目的を持っているのであれば、脳か脊髄を狙って噛み砕く、もしくは消化するように"できている"はずです。生物の性質とはそういうものです。高度な知恵を持たない動物でさえ、獲物の食べられるところと食べられないところをきっちり分けて食します。もし人に戻りたくて、それに適した性質を持っていたなら、始祖と進撃はエルディア復権派のおじさんが獲得していたことでしょう。さらに言えば、彼らは知性巨人と人間を区別して認識できるわけですから、知性巨人だけ襲えば良いことになり、そもそも普通の人を喰う必要が全く無くなってしまいます。


そこで巨人は記憶を食べようとしている、と考えるとつじつまが合うのです。

 


029 もう一つの不死 で少し触れましたが、プラナリアという生物は、体を切り刻んだ時にそれぞれの切れ端が再生して元の個体と同じようになります。脳を含まない切れ端から再生した個体も、元の個体が持っていた記憶を保持しているそうです。このことは、体細胞が記憶を保持している可能性を示唆しています

それと同じと言っていいのかわかりませんが、臓器移植を受けた患者がその臓器提供者の記憶や性格の影響を受けた、なんて話を聞いたことがありませんでしょうか。これは未だ真偽の程は定かではなく、疑似科学の域を出ない話なのですが、プラナリアから類推すると可能性はあるかもしれません。

これを踏まえて考えると、巨人が身体の一部だけ喰っては捨ててしまうことと合致するように思うのです。

 

巨人が人間の身体の一部を食すと体細胞に宿った記憶を獲得するとします。やがてダメージを負ったその人間は死ぬでしょう。記憶が生み出されるのは脳と脊髄の中枢神経です。死ねばその活動は停止し、新たな記憶は生み出されなくなり、体細胞の記憶も更新されなくなります。するとその人間からはもう新しい記憶を得ることはできませんから、巨人が関心を示すこともなくなる、ということになるのではないでしょうか。

 

 


では、巨人は記憶を食べる、と仮定してダイナ巨人について考えてみます。

 

前述の通り、ダイナ巨人はベルトルさんをスルーした上でグリシャの家に真っすぐに向かっています。これは「グリシャを見つけ出すから」という強い想いがあったと考えれば理解できます。

 

ところが今度は、カルラを”スルーせずに”わざわざ引っ張り出して喰いました。

 

嫉妬したから? とてもそんな感情があるようには思えませんよね。


そこで巨人が記憶を喰うと考えれば、すっきり繋がるのが分かると思います。カルラにあって、ベルトルさんに無いもの。後のウォールマリア内でエレンとミカサの前に示し合わせたかのように現われ、ハンネスさんを喰い、エレンたちも喰おうとしますが、その3人にも共通してあるもの。

 

グリシャとの記憶ですよね。

 

彼らの記憶の中にあるグリシャに引き寄せられたと考えれば、ウォールマリア内で”都合よく”出現したことに説明がつくのです。

 

 

 


では、巨人が記憶を喰らうとどうなるのでしょうか。

 

記憶のネットワークは、そこを記憶が流れることが存在する意味だと言えると思います。ネットワークという意味では、人間同士のコミュニティを想像して頂くと分かりやすいかもしれません。

ネットワークという”線”で繋がれる”点と点”、つまり個人と個人、その間に何かのやり取りが無ければその繋がりに意味はありません。個々の人が勝手に単独で行動しているならば、当然コミュニティは廃れていきます。同様に、記憶のネットワークもやり取りがあることで、ネットワーク自体が活性化していくでしょう。ということは巨人は収集した記憶を「道」に送信して、”やり取り”をしているのではないかと推測ができます。

 

実は知性巨人たちがそれを実証しているかもしれません。

知性巨人の持ち主たちは、その巨人化能力を手に入れる時の記憶を失います。エレンとアルミンがそうでしたし、ユミルやベルトルさんもそう言ってました。

グリシャもこう言っています(22巻89話)

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-それに巨人になる直前の記憶は
-もうなくなるんだろ?

つまり、クルーガーからの情報として、継承時の記憶は忘れるということを言われてるわけですね。

継承時に何が起こるかと言えば、その過程でいったん無垢巨人になる必要があります。その時に「道」に記憶を流すとその記憶を忘れてしまう、という仮定ができますね。継承時に本人が忘れた記憶が「道」にあることは、作中にも散見されるようです。

 

010 知性巨人の器 で書いたように、グリシャの継承直前のグロス曹長の発言を、エレンは見ていたようです(1巻2話、22巻87話)

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そしてさらに、こちらはエレンが無垢巨人化する直前の記憶です(17巻67話)

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-ミカサやアルミン…みんなを救いたいなら

この記憶をクルーガーが見たと考えられるわけです。

 


どうも無垢巨人化すると記憶が「道」に流されてしまって、その流された記憶は本人からは失われるということかもしれません。

 

誰かに見られたシーンは描かれていませんが、知性巨人たちは度々記憶を失っています。

エレンは王政編での硬質化実験の際、次第に意識が薄れていき、最終的に意識を失ったばかりか意識を失う以前、実験の開始段階からのことを忘れています。身体も原型が崩れるほど融合していましたので、あのままほっといたら、ハンジの言うように完全に取り込まれて無垢巨人のようになってしまったのかもしれませんね。そういえば一番最初に巨人化した時もだいぶ記憶が曖昧になっていました。

 

ライナーも同様で、シガンシナ戦で意識を移すことによって窮地をまぬがれますが(19巻78話)

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シガンシナ戦が始まってからの記憶を失っています(20巻82話)

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どちらのケースも意識を失っていることがポイントかもしれません。意識を失うということは、無意識、すなわち巨人という存在そのものが前面に出てくるわけですから、そうなると本来の仕組みに従って記憶の送信を始めるのかもしれませんね。

ただ、無垢巨人になったり意識を失ったりする直前の記憶も失っているのは謎ではあります。おそらく、短期記憶が失われた、ということではないかと思いますが。


いかがでしょうか。巨人は記憶を送っていると考えられそうではありませんか?

 


巨人が記憶を送っていると仮定してみると、かなり悲劇的なものが見えてきます。

というのも、道を流れる人々の記憶は巨人に喰われることで終わりを告げるもの、ということになるからです。そして、その直前の阿鼻叫喚の記憶がたくさん「道」を流れているはずです。

 


実はそれを匂わせる証言がありました(12巻47話)

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-もうずっと…
-終わらない悪夢を見ているようだったよ…

ユミルは前述のように壁から離れていたようなので、おそらく誰も喰ってないと想像できます。でも悪夢だったと言っているんです。

もちろん巨人として60年間、たださまようこと自体も悪夢のようではあります。ですが、絶え間なく巨人に喰われた人々の記憶を見ることが60年間続いたとしたら・・それこそ「終わらない悪夢」なんじゃないかと思うのです。


無垢巨人になって記憶を見るというのがどういう感覚かは、はっきり分かりません。意識は無いでしょうから、エレンのように他者の記憶を見るという感じではないと思います。もしかしたら「道」の一部として、そこを飛び交う記憶を俯瞰して眺める感じかもしれませんね。どうもユミルが知りすぎていることがそう感じさせるのですが、これはまた別の記事にて書きたいと思います。

 

 

 

 

1800年という長きに渡って集積してきた巨人に喰われる人々の記憶は、全体無意識に罪の意識を植え付け、全てのユミルの民の行動に影響を与えているのかもしれません。そして罪の意識と言えば・・

 

 


次の 巨人化学⑨ では知性巨人に迫っていく予定です。

 

 

 

 

 

 


-ひとりごと-

 

アニメではリーブスがヒストリアと絡まずに死んでしまったため、ヒストリアがリヴァイにパンチするシーンは多分なくなったと思います。個人的に良いシーンだと思っていたのと、ミカサがニヤニヤするところが見られないのが残念です。

 

 


107話最後のヒストリアの旦那と思われる人物が、痩せたフレーゲル・リーブスじゃないかという説があります。それだけだったら「うーん・・」という感じなのですが、その理由が「フレーゲルは痩せたらユミルになるから(そばかす的に)」ってことらしくて、かなりツボに入りました。ちょっと見てみたい。

 

 

 


107話で、本当に分かり合おうとしているのはアルミンじゃなくてエレンだという証拠を見つけました。エレンは態度で示していました。

 

 

 

 

 

 

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聞こえづらかっただけかもしれませんが、ちゃんと分かり合いたい心情がこの横移動に現れていると思います(註:現れていません)

 

-ひとりごとおわり-

 

 

 

 

 

本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 


written: 30th Jul 2018
updated: none