進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

027 最新話からの考察 106話④ ダークサイド

みなさんこんにちは。

 

 

!!閲覧注意!!
前回はアルミンの分析を行いましたが、読み返してやや言葉足らずに感じたのでその補足と、それだけではなんですので+αとして、まだ書いてなかったエレンと兵団の対立部分について少しだけ書いてみました。多少、妄想色が強いかもしれませんと予防線を張っておきますが、可能性は高いと勝手に思っています。でもこれ、合ってたらけっこうなネタバレになるかもしれないので、閲覧注意をさせていただきます。くれぐれもご承諾の上でお読みください。補足と言っておきながらすみません。


この考察は前回の 026 手から手へ の続きになっておりますので、まずはそちらをお読みになってからご覧ください。

 

この記事は最新話である106話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 

 

 

 

 

[ダークサイド]

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まず補足しておきたいのですが、前回書いたことはアルミンがそう思っているわけではありません。いや、思っているのですが、それは無意識や潜在意識と呼ばれる部分で思っていることで、アルミンの意識はそれにはっきりと気付いていない感じだと思います。これを明記してなかったので、「アルミンはそんなこと思ってなかっただろ」と感じてもおかしくない文章に感じたため、冗長に感じる方もいらっしゃるとは思いますが、今回の記事を書くことにしました。

 

 

 


さて、あまりにもショックな出来事を体験した人が、その時の記憶だけすっぽり抜け落ちてしまう、なんて話は聞いたことがあるんじゃないかと思います。物語だったりすると、だいたいクライマックスでその記憶を思い出したりして・・

これは心を守る作用なのはすぐに分かります。そして、普段は嫌なことを意図的に忘れたりはできませんから、これは意識がやっているのではなく、無意識がやっていることだというのも納得がいきます。精神分析学に抑圧という概念があるのですが、これもその一種だと考えられます。ただし、この抑圧とは基本的には嫌な感情を抑えるために、その感情を心の奥底にしまいこむことです。日々暮らしていれば、嫌なことや悲しいこと、ムカつくことがたくさんあるわけです。でも、今の人間社会だとその全てを感情のままに発散できませんから、そのままにしておいたら積もり積もって心が壊れてしまう恐れがあります。それを意識から見えないところへしまいこんでしまう、それが抑圧です。

上記の例はその極端なもので、感情を隠しても記憶が残っていたらまた同じ感情を生んでしまう可能性があるため、記憶も一緒にしまいこんでいると考えられます。後になって思い出すケースがあることからも分かる通り、抑圧はその感情や記憶を消す事ではありません。あくまで心の奥深くにしまいこんで、意識からは見えなくなるだけです。意識からは見えませんので私たちは気付きませんが、それは無意識の中にしっかり残っていますので、無意識はその感情の影響を受けていきます。

そしてこの抑圧は、上記のような特別なケースだけではなく、私たちの心の中で大なり小なり常日頃から起こっていることです。気が向く、向かない、なんてのもこのあたりが関わっている可能性が高いです。

前回の考察はこういった精神分析に基づいて考えています。漫画のキャラに心理学だの精神分析だのと思われるかもしれませんが、個人的にこの作品が無意識、あるいは潜在意識を設定に使っているのはかなり確からしいことなので、もしそれが正しいならば切ってもきれない深層心理、精神分析を作者が参照していることは自然だと考えています。もっと言えば、それがこの作品のメインの骨組みだとすら思ってたりします。

 

余談はさておき、アルミンはこういった抑圧や同一化という無意識の作用に強く縛られているというのが前回の考察でした。無意識のものですので、アルミンの意識が「エレンと同じにならなきゃいけない」とか「エレンに(夢のことで)裏切られた」と思っているわけではありません。でも、行動の主体は無意識ですので、知らず知らずのうちに、その感情に基づいた思考や言動をしてしまうという感じです。

その一例が前回取り上げた、「海の向こうにいる人達は敵だけじゃなかった」という言葉です。文脈からも分かる通り、アルミンはこの言葉を「エレンが言っていることは間違っている」というつもりでは言っていません。あくまでそこに希望を見出しているのです、意識は。

ところがアルミンの意識が知らないところで、無意識に抑圧された感情が働きかけ、エレンを否定する言葉となってしまっていると考えられます。おそらくアルミンの無意識は、海にたどり着いた際に生まれた「夢のことでエレンに裏切られた」という抑圧された感情から、それ以降はエレンの間違い探しに躍起になっていると考えられます。

なぜならアルミンの無意識にとって、エレンは都合の良い人でなくてはならないからです。なのにエレンは夢のことで自分を騙した、裏切った、そんな都合の悪いエレンは間違っている、そんなエレンは全てが間違っていて僕の方が正しい、エレンが僕の思ってた都合の良いエレンじゃないなら自分が間違っていたことになる、そんなことは認められない・・

おそらくこんな感じの思考の流れかなーと思います。もちろんエレンにしてみれば、騙したり裏切ったりしたつもりなんて毛頭ないわけですけど。


実際、106話でのアルミンの言葉は、およそエレンを否定することが根底にある言葉ばかりです。おそらくこのことが、アルミンを”お花畑”だと読者に感じさせる一因になっているでしょう。というのは、アルミンの無意識にとっては「エレンが間違っている」ことが今の最優先事項ですので、極端なことを言えばパラディ島の未来はどうだっていいんだと思われます。その為、以前のアルミンらしからぬ客観性を欠いた言葉が出てきてしまっているようなのです。

 

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-和睦の道は絶たれた…けど
-やるしかなかった

 

”絶たれた”と判断するのは、非常に安直に感じます。元々和睦の道なんて無かったのは、グリシャの手記から明らかだったはずですし、それでも可能性を模索するとすれば、以前の御前会議でも言っていた通り、ある程度の力を背景に交渉するしかありません。そういう意味では、今回マーレの戦力を削って力を示したことは、和睦の道を一歩前進したと言っても良いものです。それを抜きにしても、アルミンの知恵があれば、友好国がある以上、さらに他にも友好的関係を結べる国がある可能性に思い至ってもおかしくありません。友好国が増えれば増えるほど、和睦の可能性は高まるはずです。それを、あっさりと”絶たれた”と決めつけているのです。今までのアルミンに見られた洞察力が見られないように感じます。

 

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-エレンは一人でもやるつもりだった
-エレンに協力しても 見放しても
-最悪の選択になっただろう

 

エレンの行為はどうあがいても最悪だったと決めつけてるわけですけど、上と矛盾していませんか?上の通り、エレンが行動する前は和睦の道が存在した、ということであれば、エレンを見放せば和睦の道を進めたんじゃないでしょうか。仮に見放すとして、例えば事前にエレンはパラディの総意とは関係ありませんと捕虜を使ってマーレに通告することもできたのではないでしょうか。その証明に捕虜を解放しますとか。さもなくば、そもそも和睦の道など存在せず、エレンの行動が正しかったことになりそうです。あるいはただの言いがかりのようにも。

 

これらの例からは、とにかくエレンの行動が間違っていたと言いたい、恣意的なものを感じずにはいられません。

 


言葉尻を捉えているように思われるかもしれません。その通りなんですが、アルミンの無意識がしていることも同様なんだと思います。エレンの行動や言葉の端々を拾い上げて、とにかくエレンが間違っていることにしたい。上で”間違い探し”と書いたのはこういうことです。彼にとってもはや矛盾とかはどうでもいいんだと思います。何がなんでも「エレンが間違っていないといけない」。

サシャが死んだ責任を全てエレンに課すなんてのも、おかしな話だと思います。客観的に兵団のゆるみが原因ってのは置いておくとしても、そもそも「何かを捨てなければ~」というのがアルミンの信条だったはずです。

話し合い思想は、元々アルミンが持っていたものですが、以前のアルミンは話し合いの余地がなければ、他の人よりいち早く戦うことに切り替えていました。ところが今のアルミンは具体性のない”たられば”を言いながら、戦うことを否定するばかりです。その戦うことを主張しているのは、エレンです。


つまり、アルミンは無意識に、エレンのやることなすこと全てを否定する方向に向かっていると考えられます。このことは、もしエレンが正しい道を進んでいたとしても、アルミンによって邪魔されることに繋がっていきます。そしてそれは、既に表面化してきていると思います。


エレンと兵団との対立構図が、それです。


アルミンは今までの実績により兵団内での発言力は大きくなっています。そんなアルミンが全ての事を「エレンが間違っている」ことと関連付けて話をするわけです。しかもアルミンは弁が立つから話はやっかいなことになります。前述したようなちょっとした矛盾があったとしても、その場その場だけを切り取れば、アルミンは正論を交えて物を言うでしょう。周囲はその意見を聞き、そこに隠されている意味に、”自らの考察で”思い至ります。いわばサブリミナルです。洗脳と言ってもよいかもしれません。

 

作戦前に言ってそうなことはこんな感じでしょうか(あくまで推測です)

「どちらを選んでも、最悪の選択になるでしょう」
「この作戦をしたら、世界が僕らに総攻撃を仕掛けてくるんでしょうね・・」
「でもこうなってしまった以上、やるしかないです」
「エレンを見捨てるわけにはいきませんが、もしこれで死人が出たら・・無駄死にみたいなものです」
「生き残ることを優先目標にしましょう」
「今まで僕たちが助けてきたから、きっとそれで・・」

言うまでもないことですが、これは作中のセリフを少し書き換えたものです。これらの言葉は直接エレンを糾弾していませんが、これを聞いた人は「そもそもエレンが~」と思い至ると思います。そして、これらの元になっているエレンを糾弾するセリフは全て、アルミンに近い人物から発せられています。もちろん同時にエレンに近い人物でもありますので確証とは言えませんが、逆にアルミン(とエレン)に近くない人々は、エレンを糾弾しないばかりでなく、この戦いすら肯定的に受け止めていたわけです。フロックが少し極端に描かれているためミスリードしそうになりますが、他の大多数の兵団員のことも考えれば、それが客観的な目線ではないでしょうか。

 


ただし、恐ろしいのはアルミンが調査兵団の中心から信頼されてしまっていることです。つまり、アルミンは言葉によって調査兵団をある程度動かせるということです。アルミンの無意識にとっては、とても心地が良く、都合が良い場所でしょう。なにせそこでは「常に自分が正しく」あることができ、それを承認してくれる人々がいるのですから。しかしそれは、エレンが正しい道を進めば進むほど、兵団はその逆に動かされていく可能性が高い、ということです。今はもしかすると、アルミン帝国の勃興が描かれているのかもしれません。


おそらく、ジークに関してもエレンと血が繋がっていることに絡めて、何かを言っていたんじゃないかと思います。あのハンジが、エレンはまだしも、初対面のジークに最初からトゲのある言い方をするのは、どこか違和感を覚えます(26巻105話)

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そして、アルミンはエレンを否定するために言ったことを、実現していかなくてはならなくなります。たとえそれが兵団、ひいてはパラディ島やエルディア人にとってマイナスなことでもです。でないと自分の正しさが崩れ、エレンが正しかったことに繋がりかねないからです。このマッチポンプが負の方面に向かったならば、かなり悲劇的な状況を生みそうです。周りの兵団員たちは、知らず知らずの内に、マイナスの道を歩まされることになります。そしておそらく、その悲劇は全てエレンが原因だという風に色付けされていくはずです。

 

 


正直なところ、アルミンのセリフがまだ少ないので、自分でも根拠が弱すぎると思います。今後、空白の3年間や現在以降が描かれていくと思いますが、もしそこでアルミンのセリフを咀嚼した時に、エレンを否定する意味合いが浮かんできたなら、ビンゴかもしれません。

頼みの綱はやっぱりミカサでしょうか。今は”友人”アルミンの言葉と同調圧力の影響を受けているようですが、それでも彼女にとってエレンが特別な存在であることは変わっていないようです。揺らいではいますが。無意識の客観性に期待がかかります。それはリヴァイも同様です。

あとコニーに期待しています。コニーは言葉による説明を理解するのが苦手ですが、今までは意外と冷静に全体の状況を見ることができています。つまり、アルミンの正論攻めをかわせる可能性があります。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、アルミンはそこまでして何がしたいの?って疑問が湧いてくるわけですが、おそらくアルミンが欲しいものはこれです(22巻90話)

 

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ただこれを言って、”心からの”エレンの承認が欲しいだけ。でもたぶん、それは今となっては簡単なようでとても難しいことのようにも思います。

 

 

 

 

本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 

 


written: 24th Jun 2018
updated: none