進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

021 巨人化学③ 巨人の始め方

みなさんこんにちは。

 

巨人を知って物語の理解を深めようのコーナーです。知性巨人が入り乱れる戦いが描かれている現状において、今回書いていることは既に忘却の彼方にあるようなことなのですが、残っている謎を考える上で、原点に立ち返り基礎を固めておくことは大切だと思います。そしてそこから、この作品の設定の核心に近いと思われる部分に切り込んでいこうと思います。

ストーリーの考察とは少し離れるお話ですし、あまり面白くないかもしれませんが、お付き合い頂けたら幸いです。私の様々な考察は今回からのお話を踏まえて書いています。また、一部の専門用語については素人の半可通ですので、誤りがあるかもしれません。お気付きになりましたら、ご指摘頂けると嬉しいです。疑問点とかあれば、お気軽にコメントください。

 

おそらく作品の主題に関わってくる事柄だと思いますので、閲覧注意とさせていただきます。

 

 

この記事は最新話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 

 

 

 


始める前に、みなさまに問いを一つ、投げかけさせてください。

 

 


知性巨人の継承者が巨人化するために、何が必要か知っていますか?

 

 


知っていると思った方、その答えに確信を持っていますか?

知らないと答えた方、確信がない方、私もそうです。ぜひ一緒に考えてみましょう。

 

 

 

 

 

[巨人の始め方]

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物語の序盤、以下のような流れがありました(5巻20話)

 

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-でもきっかけになるのは自傷行為です
-こうやって手を…

 

このセリフがあった後、巨人化するためには”自傷行為”が必要だ、ということがしばらくの間は事実のように扱われていたのはご存知の通りです。しかしながら、作中で明言はされていないものの、既に否定されていることもみなさんはご存知ですよね。

これはミスリードを狙った演出と捉えることもできますが、同時に登場人物(この場合はエレン)のその時点で知りうる知識からの推測を描かれている、というだけだったりもします。私たち読者も、当時はエレンと同様に何も知らなかったため、反論の余地は無かったと思います。そしてそれがあたかも事実として扱われていました。下手すると未だに誤解したままの読者もいるかもしれません。

 


続きまして・・

 

上記の推測はそのままに、さらにハンジによって以下の推測がなされます(6巻26話)

 

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-恐らく自傷行為だけが引き金になってるわけではなくて
-何かしらの目的が無いとダメなのかもね……

 

こちらも同様に、事実として扱われているかと思います。この記事の最初の問いに対して、おそらくほとんどの方が「傷と目的」とお答えになったのではないかと想像します。でもちょっと待ってください。


最初のエレンの推測は間違っていたのに、ハンジの推測は鵜呑みにしても良いんでしょうか。


この”目的”が必要という説が事実か否かは、今のところ作中では明言されていません。しかしながら私たち読者は、エレンの”自傷行為”が既に作中で否定されたことを知っています。だからこそ私たちは”目的”にも疑問を投げかけることができるのです。

 

 

 

では改めて、巨人化するために必要な条件とは一体なんなのか、考えてまいりましょう。

 


まずは”自傷行為”のおさらいです。

 

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-使い方は彼らの記憶が教えてくれるだろう(3巻10話)
-そういえばオレは何でこれだけは知ってるんだっけ?(5巻20話)

 

エレンは当初、手を噛み切ることで巨人化することを、彼ら(=他の継承者たち)の記憶から知った(知っていた)ことは間違いないでしょう。前述の通り、それを”自傷行為”と解釈したわけです。そしてしばらく物語が進んだ後、ライナーとベルトルさんによって自傷の部分が否定されます(10巻42話)

 

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自傷ではなく、ただ傷が必要である、ということが判明します。他の知性巨人の継承者も手を噛み切っていますし、刃物が手元にない場合は一般的な方法だったのでしょう。ただしそれは”傷”を作る手段の一つでしかなかったわけです。エレンがこれを”自傷行為”と誤解してしまうのは仕方がないかもしれません。少し読み違えただけ、とも今なら言えるでしょうか。実際のところ、エレンが初めて巨人化した時は自傷なんてしてないんですけどね。

 

これで必要条件の一つは”傷”であることが確認できました。

 

 

さて、ハンジが言った”目的”です。

このことは、実験でエレンが傷を作っても巨人化できなかった事実から推測されたことです。少なくとも傷以外に何かが必要なのは間違いないでしょう。では、エレンが巨人化できなかったケースを見ていきましょう。


ティースプーンのケース(6巻25話)
エレンが調査兵団に引き渡されて間もなく行われた、巨人化実験です。

ハンジが上記の推測に至ったのはこの時ですね。エレンは巨人化しようと何度も手を噛み切りますが巨人化することができませんでした。しかし、その直後にティースプーンを拾う時に部分巨人化をします。ハンジはそこから「目的が無いとダメなのかも」と推測しました。つまり「巨人になろう」と思っても巨人化は起こらず、何かしらの目的や意図、すなわち巨人になる必要性が条件ではないか、ということです。


②ストヘス区のケース(8巻32話)
女型化したアニに追い詰められ、それに対抗するべく巨人化しようとして失敗しました。

この時のエレンは女型からミカサとアルミン、そして自身を守るという”目的”を持って巨人化しようとしましたが失敗します。榴弾を防いだ時のイメージもありました。その後、ミカサの「仕方ないでしょ? 世界は残酷なんだから」という言葉を聞き、同意することにより巨人化を果たします。ミカサとのやり取りで分かる通り、エレンはアニが女型だと認めたくない気持ちを持っていましたが、彼らを守るという”目的”に関しては明確に持っていたことでしょう。単純に”目的”を意識することが必要、というのは怪しくなってきました。

 

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-目的がしっかり無いと巨人になれないんだっけ?
-もう一度…イメージしよう 強く!

 

アルミンのセリフは手の込んだミスリードだと思います。賢いアルミンに言わせることでハンジの説を補強しているのですが、あくまで「~だっけ?」と伝聞として言っています。つまり、アルミンはそのことに関して何の知識も考察もなく言っているだけです。前述の”自傷”のケースと似ていますよね。そこにはアルミンのお墨付きを与えたように見せることで、そう思わせたい作者の意図が窺われることから、裏を返せば”目的”説が間違っている根拠とも言えるかもしれません。

 

 

③座標発動のケース(12巻50話)
ダイナ巨人とハンネスさんが戦っている最中、それに加勢するべく巨人化しようとした時です。

これは非常に興味深いケースで、体が回復しきっていないから巨人化できないのかと思いきや、ミカサとなんだかんだあった直後に一気に回復がすすみ、巨人化(この場合は巨人の力の発動のみですが)を果たしています。ただし、”目的”に主眼をおいて見ると、「母の仇であるダイナ巨人を殺す」あるいはさらに「ハンネスさんを助ける」などなど、強い目的意識を持っていたことは明確であるにも関わらず、巨人化できませんでした。

 

これらの例を総合的に見るに、巨人化には”目的”が必要という説は間違っている、あるいは何かが足りないと考えられるのではないでしょうか。

 

 

”傷”の例を振り返ってみれば、傷の作り方の一つである自傷行為を、そのものとして誤解しただけのことで、完全に間違っていたわけではありません。”目的”についても、何らかの意図のようなものは必要に見えるので、おそらく”傷”と同様に、ちょっとしたズレではないかと推測できます。そこで、失敗から成功に転じたケースをもう少し詳しく見ていきましょう。


①のケースでは、本人が巨人化しようと思っても成功せず、逆に本人が意図しない時に成功しています。では、”実験のために巨人化する”という目的がダメで、”スプーンを拾う”という目的がOKということでしょうか。この2つの違いとはいったい何なのでしょうか。

・・と考えてしまいますが、これをやると袋小路にはまります。目的の性質とか、目的のための目的とか、ああああああ。私はいったんここで挫折しましたので、みなさんには無駄を省いていただきたいと思います。

ハンジの”目的”仮説はいったん捨てて、もう一度、成功した場面を素直に見つめてみます。

 

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そして、その後の場面をもう一つ・・

 

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 -あ…! 確かそれを拾おうとして…

 

エレンはティースプーンのこと自体、言われるまで忘れていたようです。これは意思とか意図とかいうより、ほぼ何も考えていない時に巨人化した、という方が適切ではないでしょうか。「確か」という言葉はスプーンを拾う意思さえ曖昧にしています。

ティースプーンを拾う際に、それをする意思があったかどうかは、自分に置き換えると分かりやすいかもしれません。


想像してください。食事をしている途中に、箸の片方が、箸置きあるいは茶碗などから転がってテーブルの上に落ちました。あなたはどうしますか? その時、何を考えてそれを拾いますか?

「私は…!! これを…!! 拾わなくては!!!」

なんて思いませんよね笑。当たり前ですけど。


大げさなのはさておき、ほぼ何も考えず自然と手が動いているのではないでしょうか。


これは生物学における”反射”に分類される行動だそうです。”反射”と聞けば理解しやすいですよね。何かが視界に飛び込んできて目をつぶったり、熱いものに触れて手をひっこめる、アレです。どちらも「目をつぶろう」とか「手を(ヤケドしないように)引こう」とか考えること無しに体が動いてるはずです。目的意識なんてそこには介在していません。エレンがスプーンを拾ったのもこの反射による行動でしょう。わざわざそれを覚えてない風に描かれていることが何よりの根拠になると思います。


そうなると、その反射って何なの? 誰がそれをやっているの?って疑問が湧いてきます。


もちろん、自分の身体が動いているわけですから、自分自身がやっていることです。しかしながら、自分はそれをしようという意識はありません。反射とは、意識ではない自分、無意識によってなされます。


無意識って何だろうと考え始めると、あまりに深い問題で説明しきれませんので割愛しますが、無意識の存在を誰でも感じられる事例として、心臓の動きがあります。私たちの心臓は、常にある程度一定のリズムを保って心拍を打つことで、生命維持に役立っていますね。当たり前ですが、そんなことを私たちの意識は命じていません。それどころか寝ている間、すなわち私たちの意識が無いような状態でも、ずっと動き続けているわけです。さらに言えば、私たちが心拍を”もっと速くしろ”とか”遅くしろ”と意識したところで、簡単には影響を与えることはできないですよね。でも心臓は機械ではありません。人間が死を迎えた時、心臓もその活動を停止します。つまり、何かに動かされているということです。

この心臓の動きこそが、私たちの無意識が司っている行動の一端です。呼吸なども同様にわかりやすい例だと思います。

 

話を戻します。

 

エレンは初期の巨人化の際に、たいへん興味深いことを言っています(3巻11話)

 

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-どうやって自分の腕を動かしているか説明できないようにな…

 

まさにそのものですよね。エレンは答えを言っているんです。でも理解はしていなかった、ということですね。エレンの意識は、手首を噛み切るという無意識がする行動を見て、「手首を噛み切ったら巨人化するんだな」と理解するわけです。ところが「つまり自傷行為ってことだろう」と誤解までしているのです。誤解するということは知らないということです。それは言ってみれば、エレンの意識は「無意識が巨人化の方法を知っていること」を知っているに過ぎない、と言ってよいかもしれません。意識と無意識が全く別個のものとして存在していることが分かりますでしょうか。

このことは、行動の主体となっているのは無意識で、意識はそれを追認しているに過ぎないことを示しています。

これを巨人化にあてはめて考えれば、「無意識が何かをしようとした時に巨人化している」という推測ができます。だから行動の主体でない意識が、いくら頑張って目的意識をひねり出そうとも、ウンともスンともいわなかったわけです。目的は目的でも、意識のではなく、無意識のものだったということですね。

 

 

もう少しだけ無意識と巨人化の関係を確認しておきます。

 

②のケースでは、「アニを女型だと認めたくない、アニと戦いたくなんてない」という思いがエレンの無意識に大きく存在していたと考えられます。その後、巨人化できたのは、無意識が「戦わなければ生きられない、仕方ない」という風に考えを改めたと思われます。それはこの作品のキーセンテンスとも言える言葉によります。

 

ミカサ「この世界は残酷だから。仕方ない」
エレン「戦わなければ勝てない。勝てば生きる」

 

この言葉は順不同で常に対になっており、ミカサとエレンの結びつきの象徴としての意味合いもあるように思います。ミカサが「生き方を教えてくれてありがとう」と言っていた生き方とは、まさにこのことですよね。幼少期のミカサは、エレンの「戦わなければ勝てない、生き残れない」という言葉から、「この世界は残酷だ」ということへの気付きとその対処法を悟り、強盗に立ち向かいました。トロスト区防衛戦で生きることをあきらめた時は、「この世界は残酷で美しい」という追憶からエレンの言葉を連想し、生きることを再び選択します。②のケースは逆に、ミカサのセリフによってエレンは戦わなくてはいけないことを思い出すわけですね。

この言葉は、二人の考えだけにとどまらず、この世界の真理としてのメッセージなんでしょう。それは人々の無意識にとって、受け入れやすい理屈です。無意識は心臓の例などを前述した通り、生命維持、種の保存を基本原理としていますので、方向性が合致しているからです。

 


無意識の計り知れない力を描いているケースもあります。

 

レイス領の地下空洞の崩落時、エレンの意識は巨人化しても仲間ともども生き埋めになるだけだと判断していました(16巻66話)

 

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-巨人化するか?
-イヤ…地面が落ちてくるんだ…
-巨人の体程度じゃ防げない…
-みんな潰れてしまう…

 

しかし、瓶のヨロイという文字が目に止まり、硬質化を取り込んで即座に崩落を防ぐ機構を生み出します。(16巻67話)

 

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-お前にそんな教養があるとは思えねぇが…
-お前は一瞬でこれだけの建物を発想し生み出した

 

リヴァイも言っている通り、エレンの意識にこんなアイデアは出せません。これは無意識が状況を判断し、「崩落からみんなを守る」という目的のために創造されたわけです。


無意識の凄さはこれだけにとどまりません。何度か出てきている部分巨人化などのケースは、それをまざまざと見せつけてくれます。

 

ティースプーンや榴弾のケースでは、どちらもほぼ必要最低限の巨人化がなされています。当時のエレンの意識にそんな計算や調整ができるはずもなく、自然とそうなりました。つまり、無意識が「ティースプーンを拾う」「榴弾から自分たちを守る」という目的に対する最適解を瞬時に計算し、それを巨人体として具現化しているわけです。

座標発動のケースも同様に考えれば、座標の力によって無垢巨人を使うことが最適解であることに納得がいきます。ただでさえ体力を消耗していたあの時にいつものように巨人化していたら、ダイナ巨人は倒せたとしても全ての無垢巨人は倒しきれなかったでしょうし、おそらく調査兵団は全滅をまぬがれることはできなかったでしょう。

 

 

 


巨人の力の発動には無意識が大いに関わっているらしいことが分かってきました。長くなりましたので今回はいったん終わりにしますが、この無意識こそが進撃の巨人という作品の、おそらく最重要キーワードの一つではないかと思っています。ぜひみなさんも意識と無意識について、調べてみてください。進撃のみならず、自分自身とか、人間そのものについて考えさせられる事がたくさん出てきます。

 

この話はさらに、 巨人化学④ へと続いていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-その先-

エレンやハンジらの推測は、両方とも遠からずも当たらず、という形でした。それを踏まえた時、このエレンの”推測”は・・? (22巻89話)

 

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本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 

written: 16th May 2018
updated: none