進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

017 物語の考察 タイバーの務め[前編]

みなさんこんにちは。

 

9/27 追記:タイバー家に関しまして、現在は少し見方が変わっております。こちらの記事を全て否定するわけではありませんが、ご参考程度でお読みいただけると助かります。

 


今回のテーマはタイバー家です。今さらという感じもありますが、104話にてそのエピソードがひと段落した感がありますので、今までの言動から彼らの役割について振り返ってみたいと思います。


※長くなったので2回に分けました。こちらは前半になります。

 

 あと、ヴィリー・タイバーをこよなく愛する方は、読まないほうがいいかもしれませんし、読んだほうがいいかもしれません。

 

この記事は最新話である104話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 


[タイバーの務め]

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ヴィリーと妹がエレンに喰われたことで、物語の表舞台から去った感のあるタイバー家。正直なところ、未だにその真意が読みづらい一族だと思います。彼らはいったい何を目的として、何をしてきたんでしょうか。

 

 

・戦鎚の巨人の管理者


タイバー家は戦鎚の巨人を代々受け継いできた、管理者の一族だということは物語で明言されています。巨人大戦の当時から続いているということですので、それ以前も、エルディア帝国(以下、帝国)の時代から管理家、またはそれなりの立場にあった、ということが分かります。貴族階級のような感じなんでしょうか。タイバー家の王家との実際の関係性は不明で、王家の血が入っているかどうかも定かではありません。

 

家系で知性巨人を継承することが最も記憶を受け継ぎやすい方法ですから、始祖を除けば本当の歴史を最も良く知っていたのはタイバー家だったと言ってよいでしょう。またこのことから類推できることとして、帝国の時代は8つの知性巨人を、それぞれ固有の家系で継承するシステムだった可能性は高いですね。言わば既得権益であり、それを巡って権力争いが起こることも納得できます。

 


・ヴィリーの演説から分かること


ヴィリーは前半で”今まで公表してきた歴史”を、後半で”それを覆す新たな事実”を話しました。ということは、前半部分は巨人大戦での145代目フリッツ王(以下、145代)とタイバー家の、狙いや思惑が込められていると考えられます。


前半で語っている歴史はこのような感じです。

 

まず、巨人の力を用いて世界の覇権を握っていた帝国を徹底批判しています。帝国によって数多の民族が滅ぼされてきたと言うことで、”全世界”の敵だったことを強調しています。続いて、ヘーロス(=マーレ)とタイバー家を、”全世界”を救った英雄として持ち上げ、以降のパラディ島への攻撃も”全世界”の平和のためだという大義を唱えています。同時に、パラディ島の脅威を喧伝することにより、他国をパラディ島に寄せ付けない目的が垣間見えます。


ヴィリーが後半部で語っている通り、巨人大戦の当時、145代とタイバー家は協力関係にあったようです。前半では、その両者間に勝者と敗者がいるということは、八百長の意図があったということになります。八百長をするということは、対外的にその勝った負けたという事実が必要だったということです。そこから推測するに、彼らがそれぞれ象徴になっている、帝国(145代)を敗者として下げることにより、マーレ(タイバー家)を英雄として上げることが目的だったと言って良さそうです。

 

彼らはさらに、マーレの地位を名実ともに上げるために、タイバー家の戦鎚の他、6つの知性巨人をマーレのものとしました。ヴィリーはこれを、「マーレへの贖罪として自由と力を与えた」と表現していました。

おそらくこれは、当時の知性巨人たちから奪い取る形で成し遂げています。情報操作だ同士討ちだと言ってる割には、一部の巨人家が彼らに組した形跡がありません。他の巨人家が全く出てきておらず、マーレが戦士を一般募集していることも、それを裏付けています。他の知性巨人家を操ったり、味方になるよう調略しなかったということは、他の巨人家は、彼らにとって当初から叩き潰す対象だった可能性を示唆しています。

 

-余談-

余談ですが、おそらく車力は、落とし穴で拘束された上で巨人の力を奪われたんじゃないかと推測しています。ピークがあの罠の存在を知っていたのは、車力の記憶からではないかと。

-余談おわり-

 

 

同様に、王家の残党や旧帝国派の人々の弾圧を、タイバー家が主導していたようです(22巻88話、89話)

 

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クルーガーの家族(王家の残党)の皆殺しと、ユミルたちの集会を取り締まったシーンです。ここには色付きの制服を着た兵が出てきますが、これは現在のタイバー家の私兵の制服と似ています(24巻97話)

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王家の残党とは、元は145代の親族のようなものです。それを協力者のタイバー家が狩っているわけです。前述の帝国を下げる意図や、知性巨人家の扱いも合わせて考えると、おそらく旧帝国に関するものは全て、彼らの敵だったのではないかと推測されます。

 


次に、パラディ島に他国を寄せ付けない意図、に関しても考えてみましょう。

 

まず、パラディ島を無垢巨人だらけにしたのがマーレなのはご存知の通りです。前述のユミルの件のように、元はタイバー家が主導していたとみられます。

 

さらに、壁内へ引きこもる際に地ならしの脅威を言い残したことも、同様の意図が感じられます。しかも、実際は「不戦の契り」で行使できないにも関わらず、その部分だけ意図的に隠していました。他国からすれば、下手に手出しはできなくなりますよね。さらに言えば、その脅威を排除するという名目でのマーレの攻撃も、黙認せざるを得なくなります。

 

ところで、145代は地ならしの脅威を言い残す時に、興味深いことを言っています。

 

クルーガーによると、エルディア王家筋に対しては「エルディアが再び世界を焼くというのなら我々は滅ぶべくして滅ぶ」「壁の巨人が世界を平らにならす」と言い残しています。エルディアが攻めてくるなら地ならしで世界中を道連れに滅んでやる、ということです。この言い方は、145代は自身のことをエルディアではない、そして、エルディアは彼にとって敵だと言ってることになります。

対してタイバー家、すなわちマーレに対しては「もしマーレがエルディア人の殲滅を願うのであれば、それを受け入れる」と言い残しています。こちらは自身をエルディアの代表である王として、物を言っています。先ほどと言ってることが変わっているようにも見えますが、どちらもエルディアは滅びるべき存在だという共通点があります。

 

 


これらを総合的に見てみれば、彼らがやったことは体制の転換、言ってしまえば革命です。普通の革命と異なるのは王みずから主導していることだけで、実際に旧来の体制どころか国をつぶして、新しい仕組みに変えているわけです。

そして彼らが作った新しい仕組みとは、2つの新しい体制を島と大陸に作りあげることです。旧体制の民衆は滅ぼす対象でもありますが、巨人化という利用価値があったため、奴隷化して搾取するようにしました。

 

巨人大戦での彼らの思惑が、だいたい見えてきたように思います。

 

 


・タイバー家の立ち位置


ここで一つの興味深い発言が出てきます。

 

ヴィリー・タイバーがマガトにこぼした言葉なのですが・・(24巻97話)

 

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 -我々は…ただ見ていた
 -エルディア人を檻に入れ、マーレに好き放題やらせるのを

 

マーレ”に”好き放題”やらせる”と言っています。これ、主語がありませんね。

 

そして、その主語になり得る人物は一人しかいません。前述の考察をするまでもなく、ヴィリーが彼の目的をちゃんと言っていました・・。それはともかく、タイバー家はそれを「ただ見ていた」と言っています。演説の後半でも「巨人大戦後の一族の安泰を条件にカール・フリッツと手を組み、マーレにエルディアを売った」と言っていますから、要するに保身のために145代の言うがままに帝国つぶしに加担した、といったところなんでしょう。

その後も、体制を維持するために旧王家の残党などを狩っていたくらいで、政治と戦争を含めた国の運営には一切関わらずに「ただ見ていた」というところまで作中で明言されています。

 


ところで、ヴィリーがマガトに対し「(エルディア人は)悪魔の末裔なんだろ!?」と声を荒げるシーンがあります(25巻100話)

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これがタイバー家の総意だとは言えませんが、少なくともヴィリーはエルディア人を敵だとは思っていないようです。145代の思想とは異なっていますね。

 

タイバー家と145代は、必ずしも一枚岩ではないという感はありますね。

 

 


・ヴィリーの人物像


自分の家系に一時は絶望していたことをヴィリーは語りましたが、これはおそらく本音のようです。ヴィリーのエピソードにはその残滓が散見されます。

 

まず、名家であるにも関わらず全く躾のされていない子供たち(24巻97話)

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奥様もどうかしてると思いますが笑

 

マガトとの密談でも、「…先代に比べては」と常に歯切れが悪いこと(25巻100話)

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実際、何もやってこなかった自覚があるんでしょう。

 

海外の要人たちと親交を温めてきたと言いながら、彼らとの話題は昔の事、子供の時の事ばかりであること(24巻98話)

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つまり、長いこと顔を合わせていなかった、ということでしょう。しかも、子供の時に知り合って遊んだのは、自分ではなく親がさせたことですよね。

 

エルディア人の地位向上に努め…とも言っていますが、実際にはどんどん悪くなっています。マガトに対し、「この国はマーレ人とエルディア人のものだ」と言っていました。これは彼の公明正大な考え方とも受け取れますが、実際にはエルディア人は収容区に入れられた奴隷同様の立場にあるわけで、残念ながら現実が見えているとは言い難い、少なくとも結果は出せていません。まあ、何もしてなかったんでしょうけど。

 

これらから類推するに、「おまえを犠牲にした」と言っていた、すなわち妹に戦鎚を継がせたことも、彼の家系への嫌悪感情からそうなった可能性が高いんじゃないでしょうか。自分の家系をクズだと思っていたら、その代々継承してきた伝統を守るために早死になんてしたくないですよね。

 

 

これらを並べて見た今、彼が深謀遠慮の人だったと感じますか?

 

私にはとてもそんな人物には思えません。もし先を見据えていたなら、家族のことはともかくとしても、最低でも海外の要人とはもっと親密な関係を築いておくべきだったと思います。おそらく今までは、自分の家系を恨みながら全てを放り出して、何もせず暮らしてきたのでしょう。

 

 


ヴィリーを悪く言ってるように聞こえるとは思いますが、実は考察するにつれて親近感が増してきました。彼はとても人間臭かったんです。そして、ヴィリーが無能だとは決して思いません。ただ、先代たちと同様に何もしなかった、というだけだと思います。可哀そうなことに、時代がそれを許してくれませんでしたが。

 

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(24巻98話)

 

 

中途で恐縮ですが、タイバーの務め[後編] に続きます。後半はヴィリー大活躍のはず・・です。

 

 


本日もご覧いただき、ありがとうございました。

 

written: 18th Apr 2018
updated: 27th Sep 2018