進撃の巨人を読み解く

進撃の巨人はSFを下敷きにしたヒューマンドラマだ・・と思う

006 最新話からの考察 102話⑥ 壁の王

みなさんこんにちは。

 

9/27 追記:壁の王に関しまして、新たに記事を書きました。この記事を否定するものではありませんが、そちらをご覧いただくことをお勧めします。

shintoki.hatenablog.com

 

今回は前回の続きになります。

005 最新話からの考察 102話⑤ 巨人大戦の真相とは - 進撃の巨人を読み解く

まだの方はこちらの前回分をお読みになってからご覧ください。

 

103話の発売日も迫り、次なる展開が気になるところですが、102話で既に兵団の予定が少し狂ってきているのでしばらく戦闘が続きそうですね。その間に物語の考察を進めていきたいと思います。

 


今回も仮定の上の仮定になってますので、妄想としてご笑読ください。
毎度のことですが、もしもこの推論が当たっていたなら物語全体のかなり重大なネタバレとなるかもしれません。どうかご承知の上で楽しんでいただければ幸いです。

 

 

この記事は最新話までのネタバレを含んでおります。さらに登場人物や現象についての言及などなど、あなたの読みたくないものが含まれている可能性があります。また、単なる個人による考察であり、これを読む読まないはあなた自身に委ねられています。その点を踏まえて、自己責任にて悔いのないご選択をしていただけますよう切にお願い申し上げます。あなたの選択とその結果に対して、当方は一切の責を負うものではありません。

※画像は全て 「進撃の巨人(諌山創著 講談社刊)」 より引用させていただき、個別に巻・話を表示しております。

 

 

 

 

[壁の王]

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進撃の巨人では親子の物語がかなり重点的に描かれています。もちろん現実でも親子関係というのは個人の形成に大きい影響があるわけですが、進撃世界では親子関係がより意味の大きいものとなっています。それはこちらの設定によるものです。

・ユミルの民は道でつながっている
・血の繋がりは記憶の継承に強く影響する

私たちは主にエレンの体験を通じて、これがどういうものかを理解できます。
エレンは記憶を継承することによって、まるでその記憶の持ち主のように追体験をしています。それはあたかも父であるグリシャそのものが部分的に生まれ変わったかのようでもあります。当然エレンの考え方や人格形成にも影響することでしょう。

ですが、言うまでもなくエレンはグリシャそのものにはなりません。それは、後天的な要素もさることながら、遺伝的にも半分はカルラの血が入っているからです。その分だけエレンの遺伝情報はグリシャの遺伝情報から離れていると言ってよいでしょう。

仮にエレンに子供ができれば、その子とグリシャの遺伝情報はもっと離れていることになります。
さらに仮にジークにも子供ができたとします。
エレンの子・ジークの子とグリシャとの間の遺伝情報の距離は、大雑把に言えば同じと言ってよいと思います。二人とも祖父と孫の関係になるからです。
ただし本人同士の距離は、かなり離れています。
-エレンの子は遺伝情報のうち半分を、エレンの奥さんの遺伝情報が占めます。残りの半分がグリシャとカルラの混ざったものです。
-ジークの子は遺伝情報のうち半分を、ジークの奥さんの遺伝情報が占めます。残りの半分がグリシャとダイナの混ざったものです。
ラフに言えばこういう感じになります。共通点であるグリシャの情報が薄れていき、どんどん他人になっていることが分かります。

 

話を戻します。

進撃世界において、ユミルの民は、みな巨人化することができます。それはオリジナルであるユミル・フリッツから何かを受け継いでいるからです。すなわち、ユミルの民は、祖先をたどればユミル・フリッツにたどり着くと言ってよいでしょう。

-余談-
おそらくミトコンドリア・イブが設定の下敷きにありそうなんですが・・
ミトコンドリアハプロタイプの最古のものの発祥が中央アフリカあたり、作中だとちょうどパラディ島から西に行ったマーレ領内なのが意味深です。詳しくは検索していただくと分かりやすい解説がたくさんあります。
-余談おわり-

さて、ここで問題になってくるのが、作中で重要視されている「王家の血筋」です。
全てのユミルの民がユミル・フリッツの血を引いているならば、一般人と王家との違いとはなんでしょうか。

まず王家と言われると、様々な物語などで特別なものとして描かれていたりして、そういうものなのかと思ってしまいがちです。でも現実を踏まえてよくよく考えてみると、王家というものはなんのことはない、「ある時代にたまたまトップに立った人間のその一族」というだけなのが分かります。たまたまは言い過ぎでしょうが、私たち一般人と変わらない、ただの人でしかありません。
日本は建国から天皇家がずっと続いてきている世界でも稀な国ですので、特に神聖視しがちかもしれません。イギリスの王室を見れば、現在ウィンザー朝と呼ばれる王朝ですが、実はまだ4代目で100年そこそこしか経ってません。(ハノーヴァー朝から続ける見方もありますが、それでも300年ほど)
中国は四千年の歴史といいますが、王家(支配者)としては毎回断絶を繰り返しており、別の国が入れ替わり立ち代わりあの地域を支配しているに過ぎません。王家とはその時々の勝者であるだけで、いずれ負けて王家ではなくなるわけです。


では、「巨人の力の真価を引き出せる」王家の血筋とは何なのか、

それが前述した、血縁の距離によるものではないでしょうか。

先ほど、血は繋がっていてもだんだんと遺伝情報が遠くなっていくことを述べました。
では、その中で一番ユミル・フリッツに近い遺伝情報を持つのはどんな人なんでしょう。

極端な例を挙げれば、一番はユミル・フリッツの子ども同士だけで交配を繰り返した場合になるでしょうか。ただ近親交配は弊害が大きいので現実的ではありません。だとすると、一番近いのはユミル・フリッツと同じ、エルディア人の血が濃いことではないでしょうか。つまりユミルの子孫と純血のエルディア人での交配を繰り返していくパターンです。逆に、他人種の血が入ると遠くなっていく、とも言えますよね。
王家はエルディア人の純血を保っている可能性が高いのではと思います。


さて、血の繋がりが記憶の継承に大きく影響する、つまり血縁が近いほど記憶が見やすいということは、逆に言えば血縁が遠いほど記憶が見にくくなる、ということになります。そして、始祖の巨人はその能力として巨人、ユミルの民を操る力があります。操るというのは、言ってみれば記憶や意志に干渉するということでしょう。であれば、記憶が見にくいならば、それに干渉して操ることもしにくい、と考えられるのではないでしょうか。

前回、壁の王は壁の民以外のエルディア人を操れなかったのではないかと推測しましたが、これを血縁に絡めて言えば、壁の王は一般のユミルの民との遺伝的距離が遠いのではないか、すなわちそれは、他民族の血が入っているということではないかと考えられます。もしそうであるなら、行動を振り返ればそれがマーレ人の血である可能性が高そうです。

 


では、壁の王にマーレの血が入っていたと仮定して、物語を見てみましょう。
ここからはさらに妄想度合いが強くなっていきますので、そういうものとしてお読みください。

 

まず、巨人化することに関しては、ライナーの実例があるので問題ないことが確認できます。

壁の民であるエルディアとマーレのハーフの人々は、壁内人口が現在100~200万人程度、壁の中の人達もいることを考えれば、100年間で増えたとしても元々それなりに大きい集団であるようです。かなり以前からエルディア帝国内に一定数がいたということでしょう。

ここでハーフと書いてて思い浮かぶのが、民族浄化の歴史です。クルーガーも言っていましたが、あくまで見方の問題で、民衆はほっといても勝手に交じり合っていくものだと私は思います。
ただ一点気になるのは、マーレが被支配国家であったことに合わせて、真の王家が純血のエルディア人だったと仮定するならば、人種によりある程度の身分差別があったり、そうでなくてもマーレ人の中に被害者意識を持った人もいたであろうことです。そうなると、ハーフの人々の立場にも危うさを感じてしまいます。

無垢巨人を兵器として使う際、もし純血エルディア人とハーフがいたら、どちらが選ばれるのでしょうか。

壁内で王政幹部がザックレーに言った、「お前のその血は奴隷用の血だ(16巻63話)」というのが繋がってくるかもしれません。


支配される立場の者がそれを覆すには権力を得ることが必要です。理想は自分たちの一族が王になることです。しかしながら、王家も血筋の怪しいものなど身内に迎えるわけありませんので、実現は難しいでしょう。国家の要職にすら就けない可能性が高いです。
では、もしそれが起こりうるとしたら、どんな方法があるのでしょうか?


ここで一枚の謎の挿絵をご覧ください。

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こちらは、99話のヴィリーの演説中に突如差し込まれたイメージです。
これは演劇ではありませんので、作品中の誰かではなく、読者に見せているイメージです。ヴィリーの姿でも、聴衆でも良いこのシーンに、あえてこのイメージを入れているわけです。どうも、後で謎が解けてから見ると、ああなるほど、となる仕掛けがありそうです。

演説の内容を見ながらだと、確かに「145代が平和の願いを込めて不戦の契りを生みだす」イメージを感じさせます。

 

しかし、気になる箇所が一点あります。

親子の鼻です。
父は立派な鷲鼻(とでも言うんでしょうか)なのに対し、子どもは鼻筋が低く小鼻も小さく、鼻の頭だけぽっこり飛び出してるような・・
そういえば、ヴィリーの鼻もそういう感じのような・・・

もちろん、鼻は主に軟骨でできており大人になるにつれて成長するものですので、根拠としては薄いです。でも、このイメージの父親を144代、子供を145代とすると、血の繋がらない者を王位につける方法が思い当たります。

赤子の入れ替え、です。


まあ、不本意にも大変複雑な立場に置かれるわけですから、入れ替えられた本人はたまったもんじゃないでしょうが。

その本人の生涯とは、例えば・・
真の王や王妃、その家族の愛情を受けて育ったにも関わらず、いずれ自分にはマーレの血が流れていること、実の子ではないことを知ります。それは変えることのできない運命のように本人にのしかかるでしょう。マーレへの情も無くはないので、場合によっては、自分が王になった暁には人種差別のない国にしようと志すかもしれません。普通の人間の話であれば、それで丸く収まります。
しかし残念ながら、この物語では巨人の力の継承が絡んできてしまいます。

自分が巨人の力を完璧には継承できなかったため、戦争が勃発します。平和を望んだ彼自身が、結果的には戦争をもたらすことになったわけです。
育ててくれた王や先祖は巨人の力で戦争を防ぎ、平和を守っていたのです。それを途絶えさせてしまった罪深い我が一族、ならばせめて自分たちが犠牲となってでも罪滅ぼしをするべきではないか・・・

145代が壁にひきこもる理由になるかもしれません。

始祖の巨人の力が人々を争わせる、それなら無くなってしまえばいいんじゃないかと考えてもおかしくありません。しかし、世界から完全に失くすには全ユミルの民を絶滅させる必要があります。もちろんそんなことは望んでいません。ならばせめて人の手の届かないところに封印するのはどうでしょうか。
始祖の力を誰も使えないように自分の一族で継承して守っていく、だからこそ「私は今、死ぬわけにはいかないんだ(17巻69話)」ということなのではないでしょうか。
こんな戦争が起きたことに比べれば、多少の差別があっても以前のがましだった、そんな火種を作ってしまった「私達は罪人だ」、だからこの封印の檻から出てはいけない、ということなのかもしれません。

彼の子孫は、始祖の継承によってこれらの記憶を自分のことのように追体験することでしょう。それこそが「不戦の契り」なのではないでしょうか。


この人物像は、ヴィリーの演説後半とほぼ一致します。さらに、演説のほとんどが真実だったことになります。私は当初、演説はタイバー家に都合の良いように脚色されまくっていると考えていましたが、双方がそれぞれの立場である程度の真実を語っていないと、物語として成り立ちませんね。なんでもアリになってしまいますから。

 

 

壁の王は、一見なにかズレた平和思想を持っていたように見えていましたが、こうして考えると、過酷な運命に弄ばれながらも、自分のできる最大限の平和を模索していたのではないか、そんな風に思えるのです。

 

ウーリのケニーへの問いかけを思い出します。(17巻69話)

「滅ぼしあう他無かった我々を友人にしたものは一体何だ?」

 

人種や民族で争い続けてきた人類が、互いに相手を慮り、許し合うことで手を取り合える、そんな世界を夢想していたんでしょうか・・


「それでも私はあの時の奇跡を…信じている」

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本日もご覧いただき、ありがとうございました。

written: 8th Mar 2018
updated: 27th Sep 2018